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消えた月乃

「地球食堂」のシチューが美味しい理由を知っていますか?

 実はその隠し味は「歌」なんです。



 「地球食堂」で使われる「歌」で育てられた野菜たちが美味しいから、シチューが絶品になる。

 その野菜を育てている農家には、月乃という娘がいる。彼女のきれいな歌声が、野菜たちの甘味、旨味を引き出すのだ。

 小さな農園では、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、栗にくるみと様々な野菜、木の実を育てている。山間の里から歌声が聞こえたら、間違いなく月乃の家の畑だ。

 「地球食堂」はこの畑から一番近い町にあり、人の少ない地域だが、この店のためだけに町に訪れる人は沢山いる。お客さんのほとんどはシチューがお目当てだ。

デミグラス、ハヤシ、ホワイトシチューと日替わりの、色んな種類のメニューが楽しめるため、大人気なのだ。


 ところがある日、月乃が消えてしまった。農家は慌てて探したが、なかなか見つからなかった。このままでは、地球食堂にも迷惑をかけてしまう。

そこで月乃の弟の太陽が代わりに歌うことになった。太陽はいつも姉の歌を聞いていたので、とても上手だ。

けれども、月乃はなかなか帰って来なかった。


 家族のほかに、地球食堂の息子の陸も、あちこち探し回っていた。町の人に尋ねたり、思い当たる場所を歩き回ったりしたが、影1つ見つからない。

 その日も見つけられず、陸は農家の家へ向かっていた。畑を通り、いつも月乃の歌っている木の下を見ても、今は誰もいない。

 目を閉じると、月乃の歌が聞こえてくるようだった。春風の歌、夜空の歌、樹海の歌…美しい旋律がきれいな月乃の声で、陸の記憶から再生される。

 でも、目を開くと、そこに月乃はいない。

 その木の陰からひょっこりと、太陽が顔を出した。

「陸、見つかった?」

陸は目を伏せて首を振った。

「そっか」

太陽は溜め息をつく。

「僕、お姉ちゃんの代わりに歌ってみて分かったんだけど、毎日歌うって大変なんだね」

陸は頷いた。

 そもそも、月乃が歌うのは、好きで歌っていたのだ。朝起きてから夜寝るまで、気付くと歌が溢れるというくらいに。それが、毎日野菜を買っているお客が、歌っていた日に収穫した野菜と、そうでない野菜と、味が違って来ると分かったのだ。

 それから月乃は毎日、畑で歌を歌っていた。

「かんかん照りの夏も、凍える雪の降る冬もある。台風の風が吹き荒れる日だって、月乃は歌ってたもんな」

それでも、好きだから何でもないわ、と月乃が言っていたのを陸は思い出していた。

――それとも本当は辛かったのかな。

 

 その時、森へと続く畑の端に、生き物の影が現れた。小鹿だ。こちらをじっと見つめている。陸はその姿に見覚えがあった。

「あの小鹿は…」

 すると、その近くの木の上で、白い小鳥が鳴き始めた。小鹿は驚いて、森の奥へ走って行った。

陸は考える暇もなく、小鹿の後を追い駆けた。太陽も遅れて走り出す。

「陸!どうしたの?」

「あの鹿、月乃が可愛がってたんだ」

 鹿の足は速く、薄暗い森の中で見えるか見えないかギリギリで、何とか追いかけた。


 

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