女の子が降ってくるように、なんて願うから…… 3
アクセス10,000 PV3,000
ここまで来ました。どうもありがとうございます!
死を、覚悟した。
降り注ぐミサイル。そして残されたHPは後、僅かしか残っていない。
どうしようもない状況。
こんなどうしようもないDEAD END。でも、自分らしい最後か、とも思う。
かつて、経験した死も確かこんな感じだったはずだ。
結局、逃げて、逃げて、逃げて、そしてみじめに死ぬ。全く自分は進歩がない。
ともあれ、この人生ではさようなら、次の輪廻で会いましょう。
そう、覚悟を決めたのに……
そんな自分を庇うように、自分の前に立つ影があった。
それは、青い服に十字を背負った一人の銃士の姿。
先まで、無駄に格好つけていた微妙に格好悪かった青年。
「くっ! オーダー! 『バラージ』!」
必死になって、降り注ぐミサイルを撃ち落とそうとしている。
顏は真っ青だ。身体は小刻みに震えている。
だが、先までの取り繕った表情はなく、ただ必死に恐怖と戦っている姿は見る者を引き付ける魅力があった。
ミサイルが爆発し、空中に花を咲かせる。
だが、その合間をぬって一つのミサイルが彼に目がけて飛んでくる。
それでも、彼は引かない。
彼のクラスは、銃士。紙装甲と呼ばれる程の防御力の無さだ。
それでも、彼は、こんな自分を守る為に、一歩も引かない。
「馬っ鹿じゃない」
そういいつつも、顏がにやけているのがわかる。
そう思うと同時に、彼女の体は動いていた。
彼の背中を、ドン、と押す。
驚いた彼の表情。そして、押し寄せる爆風。
何で、あんなことをしたのか自分でも解らない。
あそこで彼が死んでほしくない。
ただ、心からそう思ったのだ。
◆◇◆◇◆
緑の何か『死ぬかと思った! 死ぬかと思った!』
ガウェイン『なんだよ。チャットで呼び出して』
緑の何か『なんか、東京の軍人さんがこっち来てる。今、銭湯中、しねrう』
ガウェイン『焦っているのは解ったから、誤字るな。つーか、お前、今、町田だよな。何で東京の馬鹿がそこにいる』
緑の何か『犯罪者を追って、軍人が誤って国境越えした。以上』
ガウェイン『内容確認。ああ、国境を越えたパンツァーが二体、か、確かに記録にあるわ。で、またてめぇが関わったと、この疫病神が』
緑の何か『こっちは死にそうなんですが、ちょっとは心配してよ。一撃でHP半分、マジヤバい』
ガウェイン『てめぇが死ぬわけねーだろう。このチート野郎。で、俺に連絡入れたのはなんだよ』
緑の何か『えーっと、実をいうと円卓に、ちょっとお願い事が……』
◆◇◆◇◆
豪理 彩音は漢の娘だ。
大崩壊以前は、ネットゲームと現実を双方を楽しみ。
漢の娘をやっているので男と女、両方の感情を理解出来る。
そんな、彼(彼女?)であるから、人の見る目というのは十分に養っているつもりだ。
目の前にいるのは一人の女。
彼の眼から見ても美しいと思う。見た目だけでなく、その内面含めてだ。
そして、何より目を張るのは、その能力だ
豪理が放ったあの草薙は、彼にとって奥の手と言えるものだった。
殺す気で攻撃した。何しろあのミサイルのコンセプトは『殺られる前に、殺れ』だ。
小型パンツァーにしては高重量。しかも一発で弾切れになる。
戦闘中、パンツァーの装備変更には制限がつく為、これはかなりのデメリットだ。
しかし、そのデメリットを補うだけの威力が草薙にはある。
何しろ、後方職であれば、例え高レベルだろうが一撃で仕留めるだけの威力がある。
しかし、彼女は生身の体で、生き残ったのだ。パンツァーに乗らなければ最弱と言われる『PANZER VERTRAG』系のプレイヤーがだ。
無論、その前に坊やが、ミサイルを殆ど撃ち落としたのもある。
それでも、あのミサイルを一発でも受けて生きているというのが、彼にとって常識から外れる出来事だ。
彼は彼女がどういう存在か知っている。
そして、世界中で彼女しか持っていない『ユニークスキル』の存在も
だからこそ、上層部が自分に下した命令も理解できる。
だが、ふと思う。目の前の彼女が本当に上層部の言うような輩なのだろうか?
ううん、と豪理は首を振る。
上の命令が絶対正しいとは思わない。だが、軍人にとって上の命令は絶対だ。
土に塗れ、血に塗れ、それでも獲物を構える彼女。
その姿を見て、いいだろう、と心の中で覚悟を決める。
軍人として、その姿には、敬意を払わなくてはいけない。
地上に降り立つ。その四肢から蒸気が噴き出る。
その鋼の手がとったのは、武骨な金属の棒。それが次第に赤みを帯び、熱を放ちだす。
『ヒートロット』。
正直、そのような武器を使わなくとも、遠距離武装で彼女を仕留めることは可能だ。
しかし、そうしようとは思わなかった。
彼女が左手に『高分子ナイフ』を隠し持っているのも知っている。
(許せ、とは言わないわ)
彼女の意志に呼応し、背中のブースターが火を噴く。
(せめて、そのナイフで自分の運命くらい切り開いてみなさい!)
そして、加速。
矢のように、弾丸のように、空気を切り裂き、そして――
彼の獲物が宙を舞った。
「え?」
衝撃と共に、ごふっ、と口から吐血があふれ出る。
腹部には、シールドに阻まれた銃弾。
突然のダメージで安全装置が働き、加速が止まる。
そして、二人の間を割り込む青い影。
再チャージまで10秒。間に合わない。次の武器をチョイス。腰に装着されたもう一本のヒートロットに手を伸ばそうとし、その手が止まる。
目の前に突き付けられた炎のように波打ったレイピア。もう片方の手にもったフリントロックの拳銃は、同じように豪理を攻撃しようとしていた彼女の額に押し当てられている。
その人影に向けて豪理は呻くようにいう。
「坊や……」
「チェックメイトです。豪理さん」
朽野は冷めた表情で、そう告げた。
フランベルク:炎のような波状の刃を持つレイピア。突かれると傷口がえげつないことになる。フランベルジュとは別物。ゲームなので勿論、炎吹きます。
ドラクーン:正式名称ドラクーン・マスケット。
マスケット銃の拳銃版。これを装備した騎兵を竜騎兵と呼んでたとか。
ゲームではガチで竜に乗って銃をぶっ放してくる竜騎兵を倒してようやく手に入れられるイベントアイテム。
上位の武器に分類される。