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8/52

女の子が降ってくるように、なんて願うから…… 2

※6/12 修正

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「おれは 女の子を助けるつもりでいたら、相手は中身が乙女の男だった」

 な、何を言っているのか わからねーと思うが

 おれも 何をされたのか わからなかった……

 頭がどうにかなりそうだった……『お〇ぼく』だとか『る〇智』だとか

 そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……


「何言っているのよ。あなた」

ステータス異常(ポ〇ナレフ状態)を解消させたのは、ステータス異常(ポ〇ナレフ状態)を引き起こさせた張本人だった。

「し、失礼。れ、レディ? お名前を……」

「あ~ら、レディーなんて!」


 バシン、と背中を叩かれ、HPが僅かに削られる。結構、減った。ぶっちゃけ痛い。

 オカマさんを観察する。

 金と紫という自己主張の激しい髪。引き締まった肢体。顏はかなり角ばっている。女性に見えるのはその髪と口調。そして……


(女物の戦闘服、か)

 そう、戦闘服。東京では一般的な戦闘服で、女性は全身にフィットするゴムっぽい素材を使っている。色は薄いピンク色。それを男が着ている。

「な~に、ジロジロ見ているのよ……エッチ」

 頬をポッと染めるオカマさん。こっちも見たくないわ!と心の中で突っ込みつつ、冷静に観察する。


(そして、役職は曹長。何でこんなところに?)

 胸の勲章をみつつ、心の中にとどめる。

「え、えーっと、すみません。ここは円卓の国『神奈川』です。他国の軍事的な活動は禁止されております。とりあえず、あっちに町がありますので、役所まで来て貰えると……」

 とりあえず、他国の軍人だ。刺激しないように丁寧に伝える。

「ちょ、ちょっと誤解よ! 私は、軍事活動をする為に来たんじゃないっ! 私は『機甲の国』東京所属、豪理 彩音。犯罪者を追っていたら、国境超えちゃって」

「で、国境の部隊に集中砲火を浴びた、と」

 てへ、としなを作るオカマさん。マジ、吐きそう。


 東京と神奈川の仲は余りよろしくない。国境でドンパチやれば、普通に考えても追撃する。

「どっちにしろ。町には連行しますので、しばらくすれば、守衛も来るでしょうし、それまで待ちましょう」

 え~、と不満の声を上げるオカマさん。

 ともあれ、こちらの指示には従ってくれるようだ。

 理性的な人間でよかった。血の気の多い人間だったら、殴りかかってくる可能性だって捨てきれない。


 まぁ、仲が悪いといっても、元々、平和慣れした日本人だ。

 世界のルールが大きく変わったとはいえ、余程のことがない限りはそのまま東京に帰れるはずだ。

 良かった、と素直に思う。


 『PANZER(パンツァー) VERTRAGフェアトラーク』系プレイヤーはパンツァーに乗ることを前提としている為、乗り手そのものはそこまで強くはない。

 しかし、パンツァーも様々な種類があり、一般的なパンツァーは全長10メートル程だが、狭いダンジョンに潜ることを前提とした全身に着込むような2メートル程の小型機も多く存在する。

 小型機との勝負であれば『Knights(ナイツ) of(オブ) the() Round(ラウンド) Online(オンライン)』系のプレイヤーのほうに分はあるが、それでも、高レベルのプレイヤーかもしれない相手とは戦いたくない。


「まぁ、最近、忙しかったから、のんびりするのもいいわねぇ~」

 そういってオカマがゴロンと草の上で寝っころがる。

 敵地にいるのに、警戒する様子もない。

 まぁ、服装のことといい、かなり大物なのかもしれない。


「あなたも寝なさいよ。あ、ひざまくらがいいだったら……」

「いえ! 全力で休ませていただきます!」

 ビシッ、と直立して朽野は答える。


 草原で、ごろり、と寝っころがる。

「えーっと、豪理さん」

「あ・や・ね、と呼んで」

「豪理さんが追っていた、犯罪者ってどんな人物なんです?」

 とりあえず、見事なバリトンボイスを無視し、質問する。

 何しろ、軍人が追っかける犯罪者だ。

 そこに不自然さを感じる。もしかしたら、政治的な要因で追われている可能性もある。

 まぁ、だからといってその犯罪者が神奈川にとって無害かどうかは別問題だが……


 豪理さんは一瞬黙り、そして、口を開く。

「ん~、言えないわ。ただ、まぁ、あんな墜落をしたんだもの。もう、生きてないわね」

「……そうですか」

 知らない誰かに向かって冥福を祈る。


 視界の先には暗闇の中で輝く星の海。街の光がない分、普段、街で見るそれとは全く別物だ。

 サァ、と風の通り抜ける。鼻をくすぐる草木の香り、そして、僅かばかりの鉄の香り。

「ん?」

 起き上がる。鉄の香り? ここらは鉄でできたモノも多いが、これは鉄の香りというよりも血の匂いだ。

「あらぁ、どうしたの?」

「静かに」

 装備を呼び出す。細剣と短銃。

 その匂いのするほうへ。足を向ける。そこは草むら、草を掻き分け、そして……


 そこには、一人の少女が倒れていた。


 それは、金髪碧眼の少女。ポニーテールと整った容貌は土に塗れている。

 暗闇の中で彼女と目が合う。そこに浮かぶのは、怯えの感情。

「あ……」

 と、何かいう前に、女の腕が動く。

 鈍く輝く銃を見た瞬間、朽野はバックステップ。顔を僅かに傾ける。

 パン、と乾いた音。朽野の頬を軽くこする。視界の隅で、豪理さんが慌てて起き上がるのが見える。


 だが、傷はつかない。代わりに朽野のHPが僅かに減少する。

 いきなりの攻撃。しかし、朽野は慌てず、手元に剣と銃を呼び出す。

 彼女が何故攻撃を仕掛けたのか、解らない。とりあえず、彼女を無力化するのが先だ。

 凶器を持った相手の前で、そんなことを考える余裕さえある。

 すべてのプレイヤーのもっているシールド。HPが0にならない限り、肉体へのダメージはシールドが吸収する。

 だから、朽野は落ち着いていられる。恐らくあの銃なら、何発か食らっても問題ないだろう。

 また、このシールドには様々な恩恵がある。例えば……

「オーダー『パワー・ブレイク』」


≪オーダー確認。『パワー・ブレイク』発動します≫


 細剣が輝き、女の胸元に向けて攻撃。傷は追わない。しかし、攻撃があたると同時に、彼女の腕に幾何学的な紋章が浮かび上がる。


≪ターゲットの攻撃力低下を確認≫

 これもシールドの恩恵の一つ。スキルだ。

 HP、MPがゼロにならない限り、ゲームと同じようにスキルを使用することが出来るのだ。


「……抵抗するな。俺は敵じゃない」

 出来るだけ、爽やかな表情を浮かべ彼女に笑顔を向ける。

「追っ手じゃ、ない?」

 彼女がほっとした表情を浮かべる。よかった、と肩を落とす彼女。

 しかし、持った銃はしまわない。

 彼女の姿を見る。赤い戦闘服の少女。持っている銃はワルサー。

 確か、渋谷かそこらで買えた銃だ。

 そこで、気づく。追われている少女。しかも、持っているのは町田ではなく渋谷で買える銃。

 そこから導きだされる答えは一つだ。

 恐る恐る振り返る。鋭い目つきで彼女を見ている豪理の姿がそこにある。

「えーっと? 豪理さん。どうしました?」

 先までの穏やかな雰囲気の彼ではない。鋭い、まるで抜き身の刀のような気配。

 ピリピリとした殺気が彼女の隣にいる朽野の元にも届いてくる。



「あなた、『ジルワーエイト』のパイロットね」

「……だとしたらどうするの。『ゾルダート』さん」

 そんな殺気を、彼女は真正面から受け止める。

「……まだ、生きていたのね。害虫」

 瞬間、豪理の体が光に包まれる。

「やばい」

 何をしているのか解る。装備の変更だ。

 一瞬で光は消え、豪理さんの姿は消えていた。代わりに、2m近くの鋼鉄で出来た人型だ。

 中世ヨーロッパの甲冑のようなデザイン。しかし、背中にはジェットと肩にはロケットランチャーという近代的な武装が取りついている。

 小型のパンツァーだ。豪理さんやっぱ、持っていやがった。

「どきなさい! 坊や! 私はその子を殺さないといけないのよ!」

 そういうと同時に、背中に背負ったミサイルランチャーが火を噴く。

 逃げようとし、足を止める。

 背後にいるのは傷を負った少女。一緒に逃げる余裕はない。なら……


「くっ! オーダー! 『バラージ』!」

 左手で持った銃をミサイルに向け、そして、トリガーを連続で引く。

 打ち出した弾丸は四つ。それが、二つ、四つ、十六と増殖し、弾幕を作り出す。

 幾つかのミサイルが、撃ち抜かれ爆発を起こす。

 しかし、その炎の花の中を超えてくるミサイルが一つ。


(盾は専門じゃないんだけどなぁ)

 覚悟を決め、彼女の前に立ち、衝撃に備える。

 前ばかり見ていたせいか、後ろがおざなりになっていた。

 ドン、と後ろから衝撃が走る。

 それは彼女の体当たり。

 何らかのスキルが働いているのか、朽野の体は、大きくよろめき、ミサイルの軌道から外れ、そして……


 彼は見た。

 朽野に向けて、呆れたような笑みを浮かべる金髪の少女の姿を……


 巻き起こる爆発。

 熱波と共に、朽野の体が吹き飛ばされる。

 HPのゲージがガリガリと削れる。たまにシールドを突き破って、衝撃が朽野の体に叩きつけられる。

「殺ったか?」


 かなり飛ばされたようだ。

 爆心地の近くには、彼女が横たわっている。

 だが、まだ生きている。フラフラと起き上がり、拳銃を呼び出す。

 それを見た豪理さんが、表情を引き締める。

 それに対し、彼女の焦点は定まっていない。鼻血を出し、身体も傷だらけ、HPも残り少ない。それでも、戦う意思を捨てていない。

 

 無駄なことを、と朽野は思う。

 決着はついた。もう、彼女が勝すべは無いだろう。

 さて、それで自分はどうするか?

 自分のHPもかなり減っている。豪理さん、自分が予想したより強かった。もしかしたら、ステータス振りを、攻撃力に特化させているのかもしれない。


 ともあれ、自分の職業、銃士(ムスケテール)のHPはかなり低い。紙装甲なんて言われるほど。

 すでに逃げ出すべき状況まできている。

 あ、いや、その必要もないか。豪理さん、オカマだけど、いい人だ。

 彼女を処分した後、自分の命くらいは見逃してくれるだろう。

 処分、つまり、それは殺すということだ。


 そして、思い出す。呆れたような彼女の笑みを……

 自分が死ぬかもしれない、というのに自分をかばってくれた彼女の笑みを……


「……まぁ、殺すには、勿体ない美貌だよ、な」


 言い訳だ。それも飛びっきり下手な部類のだ。

 自分は、高レベルプレイヤー。

 しかし、実際は、恐がりで、権力に弱く。しかも、彼自身が銃士ムスケテールなんて外れ職。

 豪理さんの一撃を食らったら恐らくシールドは無くなってお陀仏だ。だから、豪理さんに敵対するなんて真似したくはない。だけど……


「だけど、そんなの女の子にモテたいって理由の前に、そんなの関係ない!」


 そう、自分に言い聞かせるように彼は一歩を踏み出した。


ナイツ・オブ・ザ・ラウンドオンライン

『クラス』



ムスケテール(銃士):細剣と短銃、双方を使いこなす。近・遠双方高い攻撃力を持つが、技の消費が高く、防御も弱いというピーキーな性能を持つ。同じレッドコートの派生で、イェーガー(猟兵)と呼ばれる職業がある。こちらは遠距離攻撃に優れている。



           



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