女の子が降ってくるように、なんて願うから……
※夜中だというのを忘れているかのような描写が多かったので修正します。
世界が変わり、地域ごとに特色が出るようになった。
例えば、神奈川は『Knights of the Round Online』の影響を色濃く受けており、
『Knights of the Round Online』系のアイテムやモンスター、そして、施設が誕生した。
では、ここ町田はどうか?
町田は、現在、神奈川領ではあるが、元々は『PANZER VERTRAG』の影響を受けた東京の領土だ。
『PANZER VERTRAG』は元々、ロボットモノのオンラインゲームだ。
機械系パーツがよく取ることが出来る為、円卓の国『神奈川』に住む、『PANZER VERTRAG』系プレイヤーにとって重要な土地だ。
その町田領だが、その中で一番重要とされているのが『町田駅』だ。
国境という壁があるが、安全な町田街道を通じ機甲の国『東京』へ出ることが出来、また、厚木方面にいくのも相模大野に向かえば、すぐ神奈川だ。
この『町田駅』近辺は一つの街として機能しているが、その構造はかなり特殊なものだ。
町田駅は基本、立体構造になっている。
かつては、駅を出ると下には道路が走っており、二階部分からデパートに向かうことが出来た。
今では、下は、イカれたロボットが跋扈するダンジョンになっており、二階部分は、一つの街となっている。
今や、この町は交易目的の商人と生産職、そして、地下のダンジョンに潜る者達であふれかえっている。
そんな街を、朽野はフラフラと歩いている。
水晶で出来た木と、灯されたランタンが町を優しく照らしている。
夜になっても、街は活気にあふれている。露店で行商をする者。春を売る者、買う者。
それは、いつもと変わらぬ混沌とした街並みだ。
その中で、一際、目立つ連中が目に入る。
剣や杖、或いは小型の二足歩行のロボットに乗る者達。それはダンジョンに潜ってひと稼ぎしようとする冒険者達だ。
冒険者。『大災害』以降、この職に就くものが増えている。
町の外はモンスターだらけだ。倒しても勝手に復活するが、町から町への移動を安全にするには定期的に狩るしかない。
また、そのモンスター達は様々なアイテムを落とす。
これらは、冒険者達の武器になり、防具になり、そして、日常品へと変化する。
ここの一階部分にあるダンジョンは良質な素材を落とし、敵の強さもほどほどなので冒険者達にとって格好の稼ぎ場なのだ。
「おーい、朽野~。今日は狩りにいかねぇのかよ」
そんな一行の一人が、朽野に声をかける。
朽野が、ギギギ、と音がしそうな動きで振り返る。顏は死人のように真っ青だ。
「……今日は無理。疲れた」
「おいおい、てめぇ、どうした。そんな凹んで、てめぇがそこまで凹むって女でもいない限り……」
そこまで言って、男が何かに気づいたようにハッとする。
「朽野! ま、まさか、てめぇ、女作ったンじゃねーだろうな?」
「おい、てめぇ、我らレヴィアタンの掟忘れたンじゃねーだろうなぁ!」
「ああ、女だぁ! うら……げふげふ、その甘ったれた根性叩きなおしてやらぁ!」
リーゼントで髪を固めたヤンキー風の呪石師が杖を構え、それにならって周りの男達も一斉に武器を構える。
周囲の殺気を浴びて、朽野の肩が震える。
恐れているのではない、逆だ。
先まで落ち込んでいた気持ちが闘争心に置き換わる。
VRMMOと同じ感覚でコマンドを開き、装備変更を選択。
朽野が青い光に包まれる。目の前に浮かび上がった突剣を握ると同時に、その服装が変化していく。
漆黒の羽根つき帽子『ナイトレイヴン』
青の十字の描かれた制服『クルセイダーコート』
両手には武器、右手には火を噴く波打った突剣『フランベルク+10』、左手には短銃『ドラクーン』が握られている。
それは、冒険者であれば喉から手が出るくらい欲しがる一級品ばかりだ。
「ふっふっふ、好き勝手言いやがって、いいだろう。だったら、拳で解決しようじゃないか。俺の技、とくと……」
「はーい、武器閉まって、みんな署まで来てくれないかな?」
ポーズを決めた、朽野の肩を叩くのはこの町を守る守衛だ。
「来て、くれるよね?」
「あ、はい」
にこやかな笑みを浮かべ、しかし額に見える青筋を立てるその姿に、朽野はつい頷いてしまった。
◆◇◆◇◆
そんな感じで解放されたのは、深夜12時頃。
なんか、もう精魂尽き果てたって感じです。
髪の毛が真っ白に「燃え尽きたぜ」と言っている朽野に周囲の人間は避けて通る。
しかも、現在の恰好は、銃士の姿。
世界が変わったとはいえ、派手な羽帽子をかぶった男が浮浪者のような眼をしていたら、ドン引きする。
あ~、とゾンビのような声を出している朽野の視界に、『光る何か』が目に映る。
それは流れ星。それを見た瞬間、朽野の眼に生気が宿る。
「ツンデレでもヤンデレでも、クーデレでも、男の娘でもいい! 可愛い女の子が降ってきますように! 可愛い女の子! 女の子!」
……生気は宿ったが正気ではないようだ。しかし、祈っていた朽野もそこで違和感を感じる。
その流れ星は、消えずに、次第に大きくなる。
「え?」
朽野の頭上を通り過ぎ、そして、そのまま街の外の方へ飛んでいく。
「……まさか!」
真っ白な状態から復活した朽野が駆ける。
優れた朽野の動体視力がとらえたのは金属の球体。
それは『PANZERVERTRAG』系のプレイヤーが使うロボット『パンツァー』のコックピット部分だ。
東京方面――国境のある東側から降ってきた。普通に考えれば東京も神奈川との国境付近で大きな活動をしないはずだ。
つまり、何か異常があったということだ。
気が付くと、足が動いていた。立体交差を超え、天にそびえたつ木の根を伝い、町の外へ。
外は草原。街の明かりの届かぬ闇。草の生えた草原の隙間からアスファルトや苔が生えた信号機が鎮座しており、赤い光が暗闇の中で、ちかちかと点灯している。
外に、踏み入れると同時に、パッシブスキル『ナイトビジョン』が発動。暗闇でも自分のまわりが把握できるようになる。ただ、それでも先は見えにくい。
月の光と、所々にある信号機の輝きを基に、草原を走る。
しばらく走って、気配を感じる。草むらを掻き分けるガサガサ、という音が耳に届く。
しかし、足を止めない。気配を探りつつ、前へ、前へ。それに並走するように、獣の足音が響く。
そして、朽野の死角を突くように、鋼で出来た獣が真横から襲い掛かる。
「邪魔をっ! するなっ!」
すでに場所を掴んでいた朽野が、振り返り、持った突剣を急所であるコア部分に突き刺す。それだけでモンスターの体は爆発する。幾つかアイテムを落とすが無視をする。
「くそっ! 間に合え」
息が乱れる。だが、そんなのを気にしている余裕はない。
そのコックピットが落ちて行った場所へと走る。
朽野は慌てていた。その理由は一つ。
朽野の眼から見て、コックピットはかなりボロボロだった。予備結界を張っていたが、墜落の衝撃に耐えきれるか分からない。
甘い、と言われるかもしれないが、人の生死がかかっているのだ。
助けられるなら、一人でも救いたい、そう思うのが人間というものではないか?
それに……その、なんというか
女の子の可能性もあるじゃない?
いや、女の子でなくても救いに行く。行くよ? けどさ、女の子かもしれないって思ったらやる気更にでるじゃん?
なんて自分に言い訳しつつ行く道を塞ぐモンスター共を蹴散らし、目的地に辿りつく
そこはクレーターが出来ていた。
パチパチと燃える草木と、ほんのり青白く輝く種のような形のコックピットが暗闇の中で輝いている。
土のえぐれ具合から、かなり強い衝撃だったようだ。
ごくり、と唾を飲み、クレーターの傾斜を降りる。
コアの損傷を確認する。あちらこちらから煙は出ているが原型をとどめている。
触れると僅かに表面が青く光る。シールドはなんとか生きているようだ。
朽野はほっとする。これだと中の人間も生きている可能性は高い。
「この沈み方からすると、入口は上、か」
朽野が跳ねる。重力を無視した動きで、コアの上に乗る。
胸がドキドキする。仮に、仮にだ。
この扉の向こうに女の子がいて、ついでにその子が美少女だったとしよう。
ここで、助ければ惚れられる可能性もゼロ、ではないよな?
何しろ、命の恩人。大きなアドバンテージになる。
そう、夢想していると……
「あ~、大変な目にあったわ~」
コックピットの入口が開く。
そこから、顔を出したのは……紫と金色に髪を染めたバリトンボイスのオカマさん
「あ~ら、坊や。助けにきてくれたのん?」
「あ、え、うん」
神様、オカマと男の娘は別物です。そんなことを考えながら、空を仰ぎ見た。
パンツァー・フェアトラークonline
『君だけのパンツァーに駆って、帝国の危機に立ち向かえ!』
自分自身のロボットをカスタマイズすることの出来るVRMMO。
自分で機体を一から作り上げ、自ら操縦したり、迫りくるモンスター軍団と戦ったり、ギルド同士の戦闘があったりとそれなりに盛り上がっていた様子。