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間章・ナイト・フライト

 夜。空を駆ける翼がある。

 三角形の形をした黒塗りの金属の塊。翼の先に赤い光を灯しながら、暗闇を切り裂いていく。

 それは、まるで戦闘機。アメリカのステルス爆撃機B-2にも似ている。

 大崩壊(カタストロフィ)前には存在しない形式だが、その系統を受け継いでいるフォルムだ。


 しかし、コックピットの内部はかなり違う。

 まず、操縦桿が無い。代わりに、操縦席の肘掛に装着された水晶球に触れるだけで、操縦者の思うように操ることが出来るのだ。

 その操縦席に座るのは若い女性。

 長い金髪をポニーテールにしている青い瞳の女性。全体的に細く、しかし出るところは出ている。


 コックピット内で流れるのは、軽快な60年代のビックバンドJAZZ。

 作曲家が、演奏席から見える女性のストッキングが輝いて見えたことから作られた曲だ。

 JAZZの演奏と空を切り裂く音。それらを耳にしながら、リズムを取る様は、どこか色っぽい。

 目の前の宙に浮かんだブラウザを目を通し、そこで、ふう、とため息をつく。


 モニターに映し出されるのはレーダーだ。自機を現す青い三角と、前方には数十という赤い三角が記しだされている。

 敵だ。相手の平均レベルは解らないが、ただ、量産型、それも偵察用であるこの『ジルワーエイト』では勝ち目もない。

 旋回する。ゆっくりとGがかかる。が、その最中、突然、アラートが響く。


「……っ」

 危険を察知し、加速。瞬間、雲を切り裂く赤い閃光が走る。

 閃光が、翼の先端をわずかに焼く。

 強い振動。擦っただけなのに、機体のHPが、ガリガリと削られるのがわかる。

 雲の下から飛び出したのは、鋭角な人型機体だ。赤色の塗装に、あちらこちらについた無駄な角といい自己主張の激しい機体だ。


 機体名が表示される。『ゾルダート』

 その表示が映し出されると同時に、肩に積んでいたミサイルポットが火を引く。

 それに合わせて、女は、『ジルワーエイト』を加速させる。

 機動性能の高い機体だ。一本の矢となって、夜空を突っ切る。

 しかし、猟犬達(ミサイル)は振りきれない。


 真後ろから、次第に追い付いてくる死の影。コックピット内はアラートで真っ赤に染まる。

 しかし、彼女は慌てない。

「オーダー。特殊機構作動『妖精の戯れ(ステルス・フェアリー)』、ああ、後、曲を変更7番で」


≪オーダー確認。特殊機構『妖精の戯れ(ステルス・フェアリー)』発動。発動終了まで、10秒、9、8……≫


 機体を僅かに上昇させる。

 それだけで、ミサイルは、『ジルワーエイト』を見失い。通り過ぎていく。

 この機体についている特殊機構『妖精の戯れ(ステルス・フェアリー)』は、透明化及び、センサーに引っかからなくなるという機構だ。

 制限時間付ではあるが一時的に完全なステルスを実現する。

 そのかわり……


≪7、6、5……≫


 荒れ狂うエンジン音に振動。周囲に騒音をまき散らす。

 この機構は欠点だらけだ。やたら騒音をまき散らすので周囲には位置がダダ漏れ、時間制限もある。だが……

「これで十分っ!」

 エンジンを全開する。機体が大きくバウンドする。

 機体が悲鳴をあげ、エンジンの熱がコックピット内で充満する。


 汗が頬を伝い、そのまま、胸元へ。気を抜けば機体がバラバラになりそうだ。

 そんなことは関係ない、と響くピアノとサックスの音。スピード感のある夜間飛行をイメージした曲が、彼女のテンションを更に上げる。

 『ジルワーエイト』は量産型の偵察機、対する『ゾルダート』は戦闘型の特別機。直接ぶつかりあえば、勝ち目はない。


 しかし、逃げるとなれば、話は別だ。

 加速性能はこちらのほうが上、ミサイルの射程を考えて『ゾルダート』が攻撃出来るのはあと一回。

 次の攻撃を避け、相手の射程から逃げ切ればこちらの勝ちだ。


≪2、1、0。妖精の戯れ(ステルス・フェアリー)停止しました≫


 アナウンスと同時に、姿を現す『ジルワーエイト』

 『ゾルダート』がミサイルを放つ。

 迫りくるミサイル。再び鳴り響くアラーム。

 そして……

「オーダー『刹那の女王ワンオクロック・クィーン』発動」

≪オーダー確認。ユニークスキル『刹那の女王ワンオクロック・クィーン』発動します≫


 どのゲームにも存在しないスキルが発動する。

 

 発動と同時に、同時にブレーキ。

 ドン、と急激なブレーキによる衝撃が、身体に走る。

 汗が飛び散る。小さな球体を作り、ゆっくりと前方に跳んでいく。

 音楽、エンジンの音が引き伸ばされていき、理解できない音となる。

 そう、すべてがスローモーションになっているのだ。


 1秒が、10秒に、100秒に

 一瞬が、永遠となり、その中で、彼女の思考だけが、すべてを把握する。

 システムからバックカメラを起動。

 ゆっくりと飛んでくる何十というミサイル。僅かな隙間に『ジルワーエイト』を滑り込ます。

 真横をスローモーションで通過していくミサイルの群れ。


 武装解放。ガドリング。

 前方に広がるミサイルの壁。その一つ一つに標準をつけて……

(ファイヤー!!)

 心の中で呟き、とん、と水晶球(操縦桿)をタップする。


 次の瞬間、前方に広がる炎の花。

 その中心を全力で突っ切る。

 彼女は、小さく笑みを浮かべる。

 小さなガッツポーズを取るが、同時にガン!と何かがぶつかる音がする。

 そして、再びアラートが響き渡る。気のせいか、高度が落ちているような気もする。



≪警告:HP:0となりました。シールド消失を確認。それに伴い全スキルの使用が不可能になりました。落下時の衝撃に備え、予備シールド作動開始しました≫ 


 カメラを稼働。機体の胴体に大きな鉄板が突き刺さっている。

 それは、ミサイルの破片のようだ。それも、かなり、大きなパーツだ。

 どうやら運悪く、四散する際、機体のシールドにぶつかったようだ。

 今度は気のせいではなく、ガクン、と機体が大きく下降を開始する。

 その先にあるのは、光り輝く町の輝きだ。


 円卓の国・神奈川領『町田』


 国境を越えた。

 バックカメラを見ると、悔しそうにしている『ゾルダート』の姿。

 その姿を確認し、鼻で笑う。

 最早、機体は制御出来ない。

 せめて、町に被害がないこと、そして自分が生き残れるよう信じてもいない神に祈る。

 そして、強い衝撃と共に、彼女の意識は闇に飲まれた。

 



機体名『ジルワーエイト』の評価


タイプ:量産型

格闘:C

射撃:C

装甲:D

耐久:C

機動:A

燃料:A-

特殊機能:透明化

現場の声「致命的な欠陥がある」


ロボット名は某所でいただきました。

ステータスは、なったったー系を使わせていただきました。

もしよろしければ、ロボットの名前を分けていただけると嬉しいです。


次回、『女の子が降ってくるように、なんて願うから』です。

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