いきなり、負けそうなんですけど?
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VRMMOと現実との融合を果たした『大災害』、或いは『大革命』と呼ばれた事件から三年がたった。
三年という月日は、日本は大きく変貌させた。
日本という国は消滅し、県ごとに独立、結果としていくつもの国が乱立することになる。
とはいえ、日本という文明は滅びても文化は残る。
それは、言語であり、習慣であり、価値観であり、そして、男女の出会い方もそうである。
そこに広がっているあまりの状況に朽野とタクは息をのんだ。
ここは、前線で傷ついたものが運ばれる後方。野戦病院なんて上等なものはない。
単なる石造りの厠。そこに3人の男達が、息を潜めている。
全員、満身創痍。無理もない、戦闘が始まってから二時間、ここにいるのは実戦経験の少ない初心者達なのだ。
皆、顔色が優れない。顏が青い奴、隅っこで倒れ痙攣している奴、更には嘔吐を繰り返している奴もいる。
みんな、ダメージを追っている訳ではない。かかっているのは『ステータス異常』。しかし、その効果は見ての通り、パーティーを壊滅させるには十分の代物だ。
「従軍僧侶、状況は?」
朽野は、なるべく感情を押し殺して、この場を仕切る青年に話しかける。
「駄目です。薬を飲ましていますが効果は薄く。もう……」
「そうか」
感情の無い声で、しかし、拳を強く握りしめ、朽野はいう。
完全に自分の失敗だ。敵の戦力を見誤っていたのだ。
仲間が一人、また一人と減る中、初心者達の成長は急務であった。だから、多少無茶であろうと前線に出す必要があった。
そこで判断を誤った。まだ、実戦に出すには早すぎたのだ。
自分の力を過信していたのもあるかもしれない。
いざとなったら自分が、何とかすればいい、と思っていたのだ。
その結果がこの様だ。
『リーダー』
「どうした?」
チャットを通して、前線を支えている暗殺者が報告を上げてくる。
『こっちも、ちと、状況が芳しくない。獲物の一匹でも仕留められば、と思うがやっこさん、かなり場馴れしてやがる。こっちも、もう……うっぷ』
毒が回っている。それがチャット越しでもわかる。
「……君の眼から見て、この状況はどう見る? 経験が豊富な君に聞きたい」
そう、朽野に話しかけてくるのは、朽野と共に前線を支えていたタクだ。
その言葉に苦笑する。経験が豊富、それは、つまりこういった負けそうな状況を何度も味わってきたということだ。
「どうしようもない。ここで踏ん張っても、被害が大きくなるだけだ。被害を最小限にする為、初心者達はここで待機。俺とタクは前線に戻って、タイムアウトまで持ちこたえる。これしかない」
そう、タイムアウト。残り30分で、すべてが終わる。それまでに持ちこたえることが出来れば、この地獄から抜け出せる。
「……堅実な案だね。だが、それしかなさそうだ」
タクがくい、と眼鏡を上げる。その姿がとても似合っている。
「なに、リーダーは僕だ。何かあったら尻拭いは僕がする」
そう、タクは笑う。同じように毒に侵されているのに、それでもそのことをおくびに出さない。
彼を見ていると勝てないな、と思う。無表情を装うことしかできない自分とは大違いだ。
「ま、てよ。タク、朽野」
隅っこで、丸くなっていた狂戦士の男が、起き上がる。
「俺達だって、まだ、戦える、ぜ」
すでに焦点があっていない。それでも、必死に自分達に訴えてくる。
「駄目だ。この状況では、君達を連れて行く訳にはいかない」
「まって、待ってくれよ! 折角のチャンスなんだ。逃げるのは簡単だ。だけど、だけどよぉ! こんなチャンス滅多に無いんだ。俺を、俺達を男にしてくれよ!」
初心者達がこっちを見ている。何も、語らない。だが、その瞳は、真っ直ぐこちらを見ている。
その力をこの後の戦いの為にとっているのだ。
「……みんな」
タクを見ると、こちらを見て頷いてくれる。
なら、すべきは一つだ。
「従軍僧侶。全員に薬を」
「あ、はいっ!」
最後の薬が全員に行きわたる。これから先、回復することは出来ないのだ。
つまり、これは覚悟の現れ。
ここから先、一歩も引かぬという意思の表れ、せめて一体でも獲物を仕留めんと、全員の意志が一つとなる。
「行くぞ! みんな!」
おう!と薬をのみ、そして、外へ出る。
自分達の戦場である『合コン会場』へと
「いらっしゃいやせー!」
元気な居酒屋の掛け声が、やたらと耳に響いた。
◆◇◆◇◆
結果は、惨敗だった。
久しぶりの合コンはやはり、負け試合だった。
何しろ、相手は美人だったが、狂戦士のお姉様方。
どうも、MMOのクラスは体質にも影響するようだ。
男共は良い処を見せようと、一気を繰り返し、結果、酔いつぶれて全滅という情けない結果となった。
ああ、いや、狂戦士の史郎君は、ちゃんと成果を出した。
なんでも、あの必死さが可愛かった、とか。今頃、立派な男にされているのだろう。
羨ましい。俺が必死になるとみんな、キモいとかいってドン引きする癖に。
「惜しい仲間を無くしたな」
横に歩くタクが呟く。
「あ~、もう、彼来ないだろうな」
最近、合コンを開こうにも、彼女いない組がどんどん減って、人員の補給が間に合わない状況だ。
「それにしても、この薬効かなかったな。本当に効果あるのかよ?」
「ふむ、まぁ、正直、1ダース500円で買ったような代物だしな。効果のほどは知らんよ」
1ダース500円と言ったら一個、41.66666……円。つまり42円だ。
「って! お前、これ一個200円で売ってなかったか?」
「はっはっは、商売とはそういうものだよ」
そう、タクが笑う。
この男、かなりの美形だ。180の長身に切れ目の瞳、そして日本人離れした彫りの深い顔立ち。
なのに、こいつがそれでもモテないのは、雰囲気が冷たいからだろう。実際は、いい性格をしているのだが、そういうのは、付き合ってみないとわからないものだ。
それに対し、朽野は平凡過ぎた。100人が朽野を見たら、平凡だ。と言ってしまう程の無個性な表情。
優しそうとは言われるが、それは無害だ、ということでしかなく居てもいなくても変わらない、と言われているようで少し凹む。
その普通から脱却しようと、髪を茶髪に染めてみたが、まるで似合ってないらしい。どこまでも、平凡が似合う男のようだ。
生産スキル持ちの連中が作った大崩壊以前の服を着ているが、その結果、余計平凡さが浮き出る結果となっている。
「くそっ! やっぱりクラスか? クラスが悪いのか!」
天に向かって、朽野が吠える。過去に雑誌でみたアンケートを思い出す。
『女の子100人に聞きました。ナイツ・オブ・ザ・ラウンド系の男子。彼氏にするなら誰?』
一位:騎士 理由:私のこと守ってくれる。そんな気がするんです。
二位:呪石師 理由:男は、魔法からの一撃必殺! やっぱこれでしょう?
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最下位:銃士 理由:あー、うん、いいんじゃない? その、帽子が……
ちなみに、朽野のクラスは、銃士。
見事最下位にランクインしたクラスだ。
銃士。イメージして欲しいのは三銃士。コメントにかかれた帽子とは、銃士のシンボルともいえる羽根つき帽子だ。
大崩壊以前のアップデートで登場した新職だ。
レイピアと、銃を使いこなす職業で、遠・近双方こなし、しかも、攻撃力・スキルの威力も高く、変わった補助スキルも使いこなす。
これだけ聞くとかなり強そうなのだが、運営がバランス取ろうとして失敗したのだろう。プレイヤーの間では産廃、とまで言われている。
何というか、装甲が紙で、しかも、スキルは強力だが、MPが少ないという悪条件。
世界が変貌し、危険が増えた。結果として強い男がモテるようになるのは必然だ。
「銃士のっ! 何がいけなんだ。ゴラァ!!」
「弱いからだろ」
ええ、ええ!! 解ってますよ。合コンで、自分のクラスを言った時の微妙な空気。
カンスト……まではいっていないがこれでも高レベルだ、とアピールしても、銃士というクラスがどうしても邪魔をする。
それほどにまで、銃士は人気が無い。
「こんちくしょーーーーー!!」
うるさい、と言わんが如く、タクが耳を塞いでいる。
「俺の話をきけーーーーーー!!」
なんか、それがすごくムカついて、酒の勢いで、彼に襲い掛かった。
ナイツ・オブ・ザ・ラウンドオンライン
『クラス』
ヴァイキング:剣・斧と軽装備を得意とするクラス。高い攻撃力と、妨害スキルを持つ。軽装で速度重視か、重い斧を使った一撃必殺型か分かれる。水中でも活動可能。釣りスキルあり)




