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かなり、ピンチなのかもしれない

 地面に落下した『ジブリール』を見て、朽野は、駆け出す。

 まだ、終わってはいない。が、ほぼ勝ったも同然だろう。

 『ジブリール』は右手と右の翼は切り落とされ、飛行能力は失った。

 そうなっては飛行用に装甲と武装を減らし、重量を極限まで薄くした機体では重戦車ともいえる『ナルナシア』では勝ち目はない。


「六花!俺が止めを刺す。六花は、パージした武器を回収して」

「え? ちょっ」

 それでも、朽野は自分が戦うことを選んだ。

 少しでも時間を短縮したいというのもあるが、六花に人を殺させたくない、という気持ちもある。


 ゆっくりと起き上がる『ジブリール』。

「……ここでは死ねない」

 残った左腕から、光が伸びる。レーザーカッター。

 紙装甲である朽野を殺すには十分過ぎる凶器。それを朽野目掛けて振り下ろしてくる。


「オーダー『ブリッツ』!」

 朽野の体に電光が走り、そして、加速。一瞬にして『ジブリール』の足元まで移動。そして……

「オーダー『グラン・シャリオ』」

 朽野の最大攻撃力を誇る七つの閃光が、『ジブリール』の足を突き刺す。


「大義、無き者が私を、止めるか」

 譫言のように呟く副官。左手からのレーザーカッターを右に向かって避ける。

 攻撃が来るところが右手と右の翼のみ。限られているのでよけるのは簡単だ。

 再び、攻撃を仕掛けようとした時、『ジブリール』が吠える。

「死ぬわけにはいかない。大義のため、こんな場所でっ!」

 そう天使が吠え、そして……


「大義? 関係ない。弱いから死ぬ。それだけだ」


 返す声がした。

 軽い口調なのに、重く、周囲を凍りつかせる声。

「おいおい、そう固くなるなよ。おっさん傷ついてしまうだろ」

 そう、カラカラと笑い、「ひぃ」と悲鳴を上げて逃げ出そうとした『ジブリール』を突如生まれた巨大な腕が捕まえる。


「離せ! くそっ、離しやがれ!」

「大体、てめぇはただ自分の欲望を満たしたいだけの、てめぇにとって都合のいい大義だ……そんな奴が語る大義なんざ、反吐が出る」

 そう、クックック、と声を主が喉を鳴らす。

 振り返ると、そこにいるのはタバコを口にくわえた中年。

 赤いマントをを翻し、こちらに向かってゆらり、ゆらりと近づいてくる。

 その姿は、まるで幽鬼のよう。ゆらゆらと揺れる姿は、どこまでも軽く。しかし、その眼光は異様なまでに鋭い。


「赤城一佐」

「よう、にいちゃん、またあったな」

 まるで、旧友にでもあったかのような軽い口調。

 手をひらひらと振りながら赤城は答える。そして、ちらり、と『ジブリール』を見る。


 たった、それだけ。赤城は興味をなくしたように、その巨大な腕に力を込める。

「ひ、ぎぃ!」

 『ジブリール』が拉げ、爆発する。ガン、と天使を模した頭が地面に落ちて音を立てる。

 しかし、それを気にする者は誰もいない。


 朽野と六花は、目の前の脅威から目を離すことが出来ず

 赤城はそもそも、彼を無視している。


「あ~、総大将の登場かよ」

「おう、態々来てやったぜ」

 ぽりぽりと頭を書く朽野ににやり、と笑う赤城。

 似た態度の2人だが、内心、朽野は冷や汗を書いていた。

(くそっ、どうする? 赤城を排除して、天牙を救いに、いや、そんな時間はない。あいつの目的は六花だ。せめて、彼女だけでも逃がすか?)

 様々なことが脳裏に巡り、そして朽野は口を開く。


「久しぶり、えーっと、どなた様でしたっけ?」

 そして、出たのはそんな言葉だった。その様子に赤城は、はぁ、と小さく肩を落とす。

「赤城、赤城一佐だ……って、にーちゃん、さっき俺の名前呼んでたじゃないか」

「あ、あはは、最近物忘れが激しくて」

「おいおい、おっちゃんなら解るがその年でそのセリフは早いぞ~」

 世間話をするような話の出だし、赤城もそれに乗ってくる。

 あちら側からすれば、こちらの話に乗ってくるメリットはない。こちらの意図を読み取りたいのだろうか?

 解らない。しかし、乗ってくれた以上、引き出せる情報は引き出しておきたい。


「そういえば、そっちも結構慌ただしかったようだけど? 何かあったん?」

「あ、てめぇの差金だろう? あの天牙っつー女。あいつのせいで俺の部隊はめちゃくちゃだ」

 けっ、と吐き出すように赤城はいう。

「へぇ、あいつそこまでやったんだ。そこまで期待してなかったけど」

 わざと興味のない風にいう。そのことに気づいていないのか、赤城はため息混じりに答える。

「……ああ、あいつはよくやったよ。神奈川軍も来て乱戦になって行方はわからんがあの手のやつは死にやせんよ」

 その言葉で、天牙が生きている可能性が高いことが解る。


「で、部隊も無茶苦茶になったことだし、せめて当初の目的を果たそうと思った訳だ」

「『運営』を殺そうと?」

 その言葉に、赤城が頷く。何となく、彼らの目的が読めた。

 『運営』を殺せば世界が元に戻る。

 それは、以前から言われていたことであり、『預言者』により保証されていたことだ。

(なら、可能性がある。このまま戦わずにすべてを終わらさせる方法が)

 その可能性を信じて、彼は演技を続ける。

 

「あ~、もしかして。『預言者』の言葉を信じきっているのか?」

 気の毒そうに、朽野が赤城を見る。

 その視線に混じった憐憫の色に気づいたのか、赤城の表情が硬くなる。

「何がおかしい?」

 さあ、ここが正念場だ。違和感無いように、なるべく自然な表情で、彼しか知らない情報をオープンにする。


「いやだって、『運営』もう死んでいるぞ」

 

 その言葉に、赤城が吹き出す。クックック、と笑いを堪え、しかし耐え切れなくなって吹き出している。

「おいおい、何を言っていやがる。『運営』が死んでいるならこの状況はなんだ?世界は元に戻っちゃいねぇ。そんな嘘言うなら……」

「『運営』を殺せば世界は元通り……その根拠は?」

 赤城を混乱させようとする戯言。確かにそう聞こえるだろう。逆の立場だったら、子供騙しの嘘にしか聞こえない。

 予想の通り、赤城は嘲るような笑い声を上げる。


「『預言者』様のお言葉だ。 あの方の予言は確実に当たる。まぁ、てめぇみたいな神奈川の人間に言っても……」

「あ~、確か『預言者』の予言的中率って八割ぐらいだったっけか?当たる確率の高い『予言』を公表。外れそうになった『予言』を『東京』総出で何とか軌道修正したり、外れた『予言』そのものを無かったことにしている、だろ?」

 赤城の笑いが、止まる。


「おいおい、てめぇ、何を言ってるンだ。お子さんの戯言に付き合っている暇はねぇっつーの」

 やれやれ、といった風に肩を竦める赤城。しかし、その目は笑っていない。

 それもそうだろう。この話は東京内でも機密情報。赤城クラスの人間がようやく知ることが出来るような内容だ。

 何故、それを朽野が知っているのか?それを話すとかなり長い話になるので割愛。

「あの大戦で、『運営』は死んだ。それは確かだ。で、大戦以降。『預言者』の体調、かなり崩れているらしいな。ここ最近、三回連続……」

「もういい」

 吐き出すように赤城は朽野の言葉を遮る。

「ああ、そうだよ。最近、『預言者』様の様子がおかしい。三回連続予言を外すなんてこと今まで無かったんだ。いや、『預言者』様だけじゃねぇ、東京全体の様子がおかしい。だが、だけどな」

 赤城が鬼気迫る表情でこちらを見る。

 

 ああ、そうか。こちらの言葉に乗ったのは、彼の信念に揺らぎが生じたのだろう。

 このまま、部下を失い続け『預言者』の言葉に従うか、それとも、投降し犠牲を少なくするか。

「……俺は、決めたンだ。『預言者』様を信じ続けると、死んだ仲間達の為にも、今、あそこで踏ん張っている仲間の為にも引くわけにはいかねぇ」

 だが、覚悟を決めてしまった。そうなると彼は止まらない。仲間がどれだけ死のうが、自分がどうなろうが。止まる条件は二つ。

 六花が死ぬか、或いは、赤城が死ぬか、だ。となると、すべきは一つ。


 朽野は武器を構える。右手には突剣『フランベルク』、左手には短銃『ドラクーン』

 そして、対する赤城の背に、6本の腕が花開く。どこまでも拡大する腕、その腕には、斧、剣、槍、槌、弓が握られている。

「んじゃ、殺りあおう。てめぇ、名前は?」

 どうやら本当に自分のこと覚えがないようだ。

「相変わらず、人のことすぐ忘れるやつだな」

 体が震える。格上の相手、それが油断なく、覚悟を決めて殺しに来るのだ。恐怖を覚えないはずがない。

「どっかで見覚えがあると思ったが、そうかあの大戦でか」

 しかし、朽野は笑う。自分を鼓舞するように、不敵な笑みを浮かべる。

「忘れたなら思い出させてやる。てめぇを倒した男の存在を!」

 フッ、と息を吐き駆け出す。それに合わせて、赤城が剣を振り下ろす。


 こうして、六花を巡る最後の戦いが幕を開けた。


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