プロローグ:世界、変えすぎだろ。運営 3
『ほんま、なんで、あんた、シナリオ無視するん? お客さんいないと、うちら、おまんま食い上げなんやで?』
戦闘の後待っていたのはお説教タイム。
『……かっとなってやってしまいました。今は反省しております』
聞こえてくるのは、GMの怒ったような、困ったような声。現在、チャット経由でお説教中だ。
今はまだ、ゲーム内、なので、朽野はまだ甲冑姿のまま、そんな状態で正座をしている。
出来るだけ、ボスっぽさを意識した豪華な格好なので、その姿はかなり滑稽だ。
『気持ちは解らんでもないけどないけど、うちも彼氏いへんから、ああもイチャイチャされると、腹たつわな』
『し、嫉妬した訳ではないですよ! そこだけは否定させてっ!』
『ええから、ええから、そういうことにしとき~』
あはは~、と柔らかく笑う。関西弁というと荒っぽいイメージがあるが、彼女の言葉はとても柔らかい。
このGM、実をいうとかなり人気が高い。
性格がよく、トラブルの際は親身になって対応してくれる。声が可愛らしく、プレイヤーの男共がかなり熱を上げているとか
元々、ゲーム内の治安維持の為の巡回をメインとしていたが最近は、イベントにも駆り出されるようになっている。今回のイベントにおいても、入口の館の入口にて案内役をやっているのだ。
『まぁ、朽野君は、ほんまモテなさそうだからね~』
うぐ、ぐさっと来る一言。と、いうか、GM、俺のこと知っている?
彼女と話したのは、今日が初めて、しかも、顔合わせもせず、チャットのみだ。
最初話した時、『おー! 久しぶり!』とか言っていたので、誰かと勘違いしていたかと思ったが、名前まで当てられた以上、あちらの勘違いではなさそうだ。
朽野はモテない。自慢になる程モテない。そして、人生の目標をリア充。
なので、数少ない女性との接点は、大事にしている。チャンスがあったら食らいつく為だ。
こと女性に関しては、朽野は、かなりの記憶力を誇る。その自分が覚えていない? 脳内の記憶を穿り返す。
『か、彼女、欲しいなら。ちょこっとくらいなら検討してあげてもええんやで?』
『え? なんかいいました?』
声が小さすぎて聞こえなかったので聞き返す。難聴ではないはずだ。
『な、ななななななな、なんでもない』
いやー、暑いな~、とかGMは言っている。
やはり、記憶を探っているがやはり彼女のことは知らない。
聞きづらい、しかし、聞かないと折角の機会を無駄にしてしまう。
『あの~、何で俺のこと知っているんですか?』
『バイト中だから、知らないフリしてるかと思ってたけど、もしかして、ほんま、うちのこと忘れてしまったん?』
チャットの向こうから、拗ねたような声がする。
冷や汗が垂れる。何しろモテないのだ。このような展開、朽野の人生には存在してこなかった。
しかし、何故か不快ではない。二人の間に、沈黙が訪れる。聞こえるのは互いの息遣い。
姿が見えなくとも、互いに意識しているのが解る。
先に口を開いたのは、彼女のほうだった。
『その、な。こっち大阪やけど、来週、東京行くから、だから、その時に―――』
その言葉が、突然途切れる。
「あ? 故障か?」
「やー、そういう訳では無いんだけどね?」
別の声が生まれる。
ボイスチェンジャーを通したような、ノイズ混じりの声。
振り向くと、そこには、人の形をした『何か』が立っていた。
短くてすみませんっ!
本日中にもう一話投稿します。