浪漫特化型にして後で嘆くのは俺だけじゃないはず……4
この世界において最も必要なのはセンスだと六花は思う。
個々の能力がレベルによって管理されるようになった結果、身体能力に置ける個性は失われた。
速く走りたければ、盗賊職を選べばいい。
力強さが欲しければ、適当に戦士職を選べば問題ない。
そこに個々の運動神経など関係ない。何しろ、同じように鍛えれば、同じような結果にしかならないからだ。
しかし、そこに個性が失われたかというとそういう訳ではない。
有象無象の中から一歩飛び出すには、センスが問われる。
六花を守る仲間達も才能に溢れている。
朽野伸也は、現実でのフェンシングの腕を活かし戦っている。
恐らく同レベルの戦士では手も足も出ないだろう。合理的に敵に剣を当てる技術と、冷静さから発揮される回避技能。加え豪理戦の時に見せたスキルを使わずに相手の攻撃を弾く、という離れ業も持っている。
天牙は、忍なのに盾役というクラスとの不一致さが目立つがこれは、彼女が自身のプレイしていたゲーム『戦国斬鬼online』を深く理解しているからこそ成り立つ戦術だ。
他のゲームでも『分身』系のスキルはあるが、一般的にロマンスキルと言われている。分身の操作が難しく、実際使いこなせるプレイヤーは少ない。
問われるのは剣術などといった現実のスキルではなく、ゲーマーとしてのスキル。あそこまで不自然さを感じさせることなく6体の分身を操れるプレイヤーは間違いなく廃人クラスだ。
また、神奈川の国境警備隊には、野球選手がおり、『投擲』スキルと自身の投手としての技を掛け合わせた独自のスタイルを貫くプレイヤーもいるらしい。
では、六花はどうだろうか?
遊んでいると勘違いされているが、彼女はある意味で引きこもりだ。
かといってゲームをやっていたかというとそういう訳でもない。
彼女が『六花である前の彼女』は研究家だった。。
ロボットという概念のない世界にいた為、一時期『PANZER VERTRAG』にハマった時期があったが、それでも、齧った程度。
この世界になって生き残る為に、レベルはある程度は上げたが、一般人のレベル。
ゲームもダメ。運動もダメ。彼女の読書家という特性はこういった荒事には何の役にも立たない。
だが、彼女の顔には悲壮感は無い。
コックピットに足を踏み入れる。
充満した見知らぬ男性の汗の臭いに一瞬を顔をしかめ、しかし慣れた動作でコックピットに座る。
シートベルトをして、コントロールキーともいえる水晶に手を触れる。
何の反応もない。楕円形のコクピット。そのモニターとも言えるその壁は真っ暗なままだ。
当たり前だ。これは彼女のパンツァーではないのだ。今の彼女はそのハッチさえ閉めることが出来ない。
パンツァーは持ち主であるプレイヤーの生体コードが登録されている。
ゲーム設定を説明すると長くなるが、簡単にいうと指紋認証のようなものだ。
これのおかげで売買契約などで、解除されない限り持ち主ではないプレイヤーが他人のパンツァーに乗ることは不可能だ。
だが、抜け道がないわけではない。
「オーダー『ハッキングⅢ』」
≪オーダー確認。『ハッキングⅢ』発動します。相手システム干渉開始。10%……20%……≫
ハッキングスキル。ゲーム内において、敵のパンツァーの機能を停止させるのに役立つスキルだ。
現実世界になった結果、パンツァーにしか効果がないので取得者が減ったが、現実化したことで意外な特性が発見された。
他者の機体を乗っ取りである。これを成功させるには、ハッキングがⅡ以上であること。
そして、プレイヤーとの接続が希薄であること(持ち主が遠くにいたり死亡した場合)のみ可能とする。
瞬間、真っ暗な空間が赤い『WARNING』の文字で埋め尽くされる。
どうやら、このプレイヤーセキュリティーはある程度しっかりしていたらしい。だけど、これくらいは想定内。
≪不正アクセスを確認。警告、このパンツァーはカル■ーの所有物です。正式■キーを確■できず、自■閉鎖■ード■■■■■≫
ハッキングというと格好いいが、所詮は元はゲーム。やることはパズルと大差ない。
元々、彼女のハッキングレベルはそこまで高くない。パズルを解く時間は僅かしかない。
始まるカウントダウン。これがゼロになればシステムは強制的に締められてしまう。
他人の機体を奪うとなるとその難易度も半端ない。しかし、彼女は研究者。頭を使うのは得意であり、そして……
「時間が無ければ作り出せばいい」
オーダー、と彼女が呟く。すると……
≪オーダー確認。ユニークスキル『刹那の女王』発動します≫
カウントダウンがゆっくりとなる。
カウントが10から全く進んでいない。
システムを掌握した訳ではない。この世界に流れる時間を掌握したのだ。
これが、運動も、ゲームも並の彼女がこの世界で生き残っていく為の彼女だけのスキル。
体感時間で五分ほど、しかし現実世界では一秒にも満たない間で、そのハッキングの必要な情報を確認し、答えを導き出す。
そこで、『刹那の女王』を解除。
彼女は宙に浮かんだキーボードをたん、たん、と叩く。
カウントダウンが停止する。ほぼシステムを掌握出来たのを確認し、ハッチを閉める。
『WARNING』の文字が消え、外の風景がその壁に映し出される。回答は出した後は、システムを掌握するのを待つだけだが……
ぴくり、と巨人の腕が動く。その瞳に意思の光が灯る。
≪システム干渉中……60%……70%≫
≪■■■■■、■■■■■■■■■■。■■■■■≫
『ウ、オオオオオオオオオオオン』
その巨体が持ち上がる。
前は巨大な山が動いているようにしか見えず現実味がわかなかった。
こうして自身もパンツァーに乗ることにより、理解出来る範囲で知覚出来るようになり、その大きさが理解出来る。
その伽藍堂の瞳がこちらをみる。
不気味だ。だが、怖くはない。
このままでは起動が間に合わない。そんなことは理解している。
だけど……
『天牙っ! サポート頼む。時間を稼ぐぞ!』
『了解!』
頼もしい二人の仲間が、巨人をクギ付けにしている。
≪システム干渉中……100%≫
≪システム再起動します≫
シュウン、と音がし電源が落ちる。そして、再び光が灯る。
≪システム起動します。六花・由良・ベルクマンを当機のマスターとして登録を完了しました≫
巨人がゆっくりとこちらに向かってくる。
ステータスが表示される。やはり機体にかなりガタが来ているようだ。
しかし、勝てない勝負ではない。
「戦闘モード移行」
≪オーダー確認。通常モードから戦闘モードに移行します。≫
吠えるように、歌うように、その機体『ナルナシア』のエンジンが回りだす。
ゆっくりと立ち上がる鋼の機体。正面に立つのは醜悪な鋼鉄の化物。
恐れることはない。化物は常に人に滅ぼされるものなのだから……
「行くわよ。ナルナシア!」
その命に従い、鋼鉄の騎士は化物に向かって駆け出した。
機体名『ナルナシア』の評価
タイプ:試作機
格闘:B
射撃:A
装甲:S
耐久:B+
機動:C+
燃料:D-
特殊機能:変形機能
現場の声「非常に使いやすい」
某チャットで名前を頂きました。ステータスはなったったー系を使用
ちょっと強すぎですかね?(滝汗)
後、その他の名前をくれた方々、本当にありがとうございます。




