浪漫特化型にして後で嘆くのは俺だけじゃないはず……1
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ようやくここまできました。皆様に感謝です。
大抵のゲームにはロマン溢れる職業は存在する。
天牙の職業『忍』もそういった職業の一つ。
そのスタイルはトリッキー。
時に闇に潜み、時に相手を惑わせ、一瞬の隙をついて相手の首を刈る。
どのような状況下でも逆転する可能性のあるロマン職。
しかし、直接的な戦闘力は他職に劣る。
防御力が低い所謂、紙装甲。
攻撃力も他の戦士職よりも低い。
速さこそ優れているが同等の速さをもつ職業は他にもある。
ロマンは所詮、ロマン。
堅実に戦う他職に比べると、どうしても安定しない。
ゲームであるうちは良かった。死んでもちょっとしたペナルティーで済んだのだから
しかし、ゲームが現実になったこの世界において、当たり前だが死はそのまま死に直結する。
この世界になってから『忍』の数は減った。
死んだ者もいれば、他職に転職した者もいる。
残ったのは、命懸けでロマンを求める馬鹿か、盗賊系スキルを生かしたトラップ解除役に回るかのどちらかだ。
盗賊スキルは需要が多い。
ダンジョンの中には一歩間違えれば即死するようなトラップも多く存在する。
それを解除するのが盗賊職の役割だ。加え、問題点も多いが『忍』は、盗賊職の中ではそこそこ戦闘能力が高いので需要はある。
『埋れし巨人の都』
そこは、難所として知られたのダンジョン。
そこに仕掛けられたトラップの数々はまさに難所というには相応しい。
戦場で行き場を失った『忍』達が活躍できる最後の場、のはずなのだが……
「うわああああああああああああああああああ!」
朽野は駆けていた。六花も、天牙も駆けていた。
みんな、必死な表情で、急斜面の坂道の下りを全力疾走。
背後には、転がる巨大な鉄球。狭い一本道、逃げ場は一切ない。
「……クッ、誰かがトラップを発動させたか。まさか、追っ手か?」
「おいおいおい! お前が、地面にあったボタン踏んだの見たぞ。『ポチッ』って音がしたぞ。『あっ』とか言ってただろ。どう考えても据え置きのトラップだぞ。あれ!」
「うっ! だって、あんなところにトラップあるなんて思わいないじゃん!」
「そう分かりにくいところに置くのがトラップだろうが! お前、本当に盗賊職か!」
朽野と天牙が並びながら、言い争いをしている。彼らの背後で走る六花が正面に向かって吠える。
「ちょ、ちょっと、揉める前に、アレなんとかしてよ! そろそろ限界っ!」
「無理! 死ぬ気で頑張れ! ちょー頑張れ!」
坂の角度が更に急になり、鉄球が加速する。遅れ気味になった六花の手を朽野が取り引き上げる。
「あ、ありが……」
「おい! 天牙っ! ちゃんと盗賊スキル覚えているのか!」
「お、覚えているよ……少ししかポイント振ってないけど」
「あ? お前忍だろ! なんで盗賊スキルにポイント降ってないんだよ!」
「だ、だって、盗賊スキル、ロマン無いし格好悪いじゃん!」
「お前はもっと格好悪いぞ!」
「な、なにおーー!」
六花の言葉は、ふたりの声にかき消される。
そんなふたりの様子に六花はため息を吐き、しかし、目の前の状況を見て目を丸くする。
「ちょ、ちょっと! 二人共、前見て!」
この先は直線コース。その先にの地面がぱかりと穴が開く。
落とし穴。古典的ではあるが有効なトラップ。そこに落ちたらどうなるか、考えるまでもない。
「クッ、天牙っ!」
「心得た!」
天牙が、六花の右側に回る。左側は朽野だ。
二人で、六花の手を取り、足の回転を早める。
二人に引かれる形で六花が加速する。
「今っ!」
落とし穴の手前で三人が跳ねる。
落とし穴を飛び越え、しかし、三人の足は止まらない。
落とし穴の手前が、ジャンプ台のように盛り上がっていた。
これのおかげで容易に穴を超えることができた。しかし、これは、罠にはまった人達を助けるものではない。むしろ……
「来たっ!」
鉄球が、そのジャンプ台に突っ込み、宙を舞う。
落とし穴を飛び越え、朽野達の真後ろに落ちる。ゴウン、と轟音をたて、地面を揺らす。
振動で足元がふらつくが、それすら無視し、前へ足を運ぶ。
「く、くくく朽野! 先、壁だよ!」
天牙の声に、正面を見る。緩く湾曲する通路の先に見えるのは壁だ。しかし……
「風が正面から吹いてる! 死角になっているところに通路があるはずだ!」
「本当に?」
「そう思うしかないだろ!」
カーブを曲がり、その先に彼の予想通り、壁から直角に通路が伸びている。
「ラストスパートッ!」
そのまま、飛び込むように曲がり角に駆け込む。
ゴウン、と音を立てて壁にくい込む鉄球。そのまま、鉄球は輪郭を失い消え失せる。
ここら辺がゲームっぽいな、と感じながらも仲間達の状況を確認する。
「みんな、生きてるか?」
「死ぬかと思った。て、天牙は?」
天牙の姿が見えない。もしかして鉄球に潰されたのか、と振り返るが、そこには何もない。
「し、死ぬかと思った~」
と、斜め上から天牙の声がする。
消えた鉄球の真上、そこの天井の隅で、手と足を広げ、張り付いている天牙の姿がそこにある。
「何やっているんだ? 蜘蛛女」
「き、君達がそこ塞ぐから逃げ場が無くなったんだよっ!」
はて?と見るが、確かに逃げ込んだ通路は狭い。二人分のスペースに倒れこむように駆け込めば、三人目は入り込めないかもしれない。
「それは……本当にごめんなさい」
「あ、いやいやいやっ! 六花ちゃんは悪くないって。悪いのはそこの男だからっ!」
六花が、頭を下げる。素直な反応だ。
タクや、自分とかの反応は比較的素っ気ないが、同性である天牙にはガードがゆるい。
いつの間にか、天牙も六花のことをちゃん呼びしているし……羨ましい。
「……何見ている? 朽野?」
急に天牙が表情を引き締める。低い、中2病モードの声で、しかし口元を微妙に緩ませている。
ああ、こういう時の彼女はろくなことをしない。
予想通り天牙はそっと六花に近づき、そのまま、抱きつく。
「おまっ!」
「ふふん、羨ましいか?」
勝ち誇るように朽野を見て、そして、その豊満な胸に顔を突っ込む。
「ちょ、ちょっと天牙!」
なかなか見れない六花の焦った声。そのクールな表情が崩れ、顔を真っ赤に染める。
その光景に体が震え、自然と右手が伸びる。
そんな自分にはっとなり、左手でその右手を押さえ込む。
「う、羨ましくなんて、ない!」
ギリッ、と奥歯が音を立てる。
「ほほう? 本当にそうか? 本当に、羨ましくないんだな」
クックック、と笑う天牙。声は中2病だが、やっていることはただのセクハラだ。
「羨ましくなんかない! 何故なら……」
そう、何故なら俺は……
「俺は彼女のエチィことする約束したのだから!」
そう、咆哮する。
エコー付きで響き渡る朽野の声。その言葉に、フリーズする天牙。
「なん、だと」
一瞬遅れて溢れるのはそんな言葉。
呆然と彼女は膝から崩れ落ちる。そんな彼女を見下し、ふっと笑う。
「勝った!」
「……それは良かったわね」
六花の声がする。それと同時にカチャ、と耳元で音がする。
こめかみに突きつけられる金属の感触。考えるまでもなく彼女の銃だ。
「え、えーっと、六花さん?」
「何か、言うことは?」
冷たい、冷たい彼女の声。
その声で、自分がかなりマズイ状況にいることを理解する。
(考えろっ! 考えろっ! この状況を切り抜ける方法を!)
赤城との対決した時並に脳みそを回転させ、そして……
「む、胸、思ったより大きいんだね」
「そう……」
次の瞬間、銃声と彼の悲鳴がダンジョンに響き渡った。




