プロローグ:世界、変えすぎだろ。運営 2
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
掛け声と共に、白銀の騎士の剣が、振り下ろされる。
『…………ハッ』
その一撃を、緑の騎士は手に持った大剣ではじく
「オーダー! 『呪歌:炎精霊の舞』」
おーいぇー! と森呪師が歌う。すると、緑の騎士の周囲が赤く染まる。
森呪師のスキルは、基本的に二種類ある。
一つは使うアイテムの強化スキル。もう一つは、味方を支援する補助スキルだ。炎精霊の舞は、味方の使う炎のスキルを強化するといった効果がある。
「お、オーダー! 『フレイム・スリサズ』」
呪石師が空中に文字を描き、それと同時に、緑の騎士の体に、炎でできた茨が巻きつく。
『フレイム・スリサズ』。高い攻撃力を持たないが、連続してダメージを与える優良スキルだ。
それが効いたのを確認してから、森呪師、猟兵が前へ出る。
「いっくよ! こー君」
「おう!」
そのタイミングに合わせて、森呪師が漫画にあるような真ん丸な爆弾を、そして、猟兵がマスケット銃を構える。
「オーダー『クラック・ショット』」
マスケット銃から、大きな音が響く。一時的に体が硬直する。
それは、朽野が驚いた、という訳ではない。一応、銃弾を浴びたがダメージが大きかった、そういう訳でもない。
スキルの影響だ。一時的に、相手の動きを止めるスキル『クラック・ショット』。それが決まったのを確認して、騎士が、切りかかり、森呪師が爆弾を投げつける。
同時に爆発が起きる。視界が真っ赤に染まる。
ガリガリと、HPが削られるのがわかる。
(なるほど、炎属性の強化スキル。そして、クラックショットで動きを止め、避けられやすいが高火力の爆弾を投げつける。いい連携だ)
緑の騎士が火に弱い土属性というのも調べた上での連携だろう。
だが、悲しいかな、まだ、レベルが足りていない。
『どうした! その程度か!』
ここに来た時の状態を見れば明らかだ。あそこまでボロボロになっているということは、まだ、自分を倒せるレベルではない、ということだ。
(まぁ、ここはさっさとやらせてもらおうか)
一歩踏み出す。
そこからは早かった。甲冑を着込んでいるとは思えない速さで、緑の騎士が駆ける。
「くっ! オーダー『アイギス』」
白銀の騎士が盾を構えると同時に、スキルを使う。
どんな攻撃だろうが、一回は弾く高位スキル。だが……
「あ、ちょ!スルーするな!」
横切ってしまえば、意味はない。
『まずは一人!』
狙うは、森呪師。
回復役を潰さんと、剣を振るう。しかし、目の前に、盾の紋章が現れ、攻撃が弾かれる。
≪警告:敵、パッシブスキル:『ガーディアン』発動を確認≫
「へっへっへ!」
笑うのは白銀の騎士だ。ドヤ顔で、こっちを見ている。
うん、殴りたい、その笑顔。
ガーディアン。使用しなくても、味方が攻撃を食らえば、ランダムで発動しダメージを肩代わりするというスキルだ。
先にアイギスをかけたお陰だろう。通常なら、かなりダメージを食らうはずが全くHPが減っていない。
だが、結果は同じだ。
再び、剣を振り上げ、そして……
森呪師のその後ろに、一瞬輝く何かが目に入る。そして、次の瞬間、視界がブラックアウトする。
≪警告:ステータス異常『盲目』になりました≫
≪警告:近くに、敵が潜伏している様子です≫
(あー、くそ! やっぱ、狙撃手が潜んでいたか!)
潜伏は、暗殺者と狙撃手の専売特許。で、視界に一瞬映った光は飛来する矢だ。
暗殺者も弓を使えるが、普通に考えて、今の攻撃は、狙撃手の一撃だ。
避ける暇なかった。つまりは高レベルのプレイヤーということになる。
しかも、弓の効果に盲目までつけて、厭らしいことこの上ない。
当然、一斉攻撃だ。四方から、攻撃を食らう。痛覚は共有していないが、それでもダメージを食らう感覚はある。
だが、慌てない。目をつぶって心を落ち着かせる。
慌てて剣を振り回しても、相手の思うつぼだ。気配を探る。不思議なことにゲームの世界でも現実と同じように気配を感じ取れる。
呼吸を整え、周囲に気を配る。爆発音とか、銃の発射音が次第に音が遠くなっていく。
遠く、遠く、まるで世界から切り離されたような感覚。
静寂の中、ぼんやりと浮かび上がる5人の気配。その中に……
「でりゃ! おりゃ! 喰らえ、オーダー『グ、ラ、ン、ドォォォォォォォックロスーーーーーー!!』」
……ご丁寧に声出して攻撃する白銀の騎士がいた。
『…………』
とりあえず、声のするほうに向かって、剣をフルスウィング。
「あごぉ!」
変な声を出して、吹き飛ぶ白銀の騎士。
とりあえず、気配を探って、再び彼の前へ。
技も使わず、剣を叩きつけまくる。
「あ、ちょ、その攻撃卑怯だ。運営手加減しろ!」
(黙れ、リア充め。爆発しろ)
私怨も交じっているような気もするが、ここは気にしない。
「あいつ馬鹿だよなー。わざわざ声出して攻撃するなんて」
「あ~でも、あのボス、ちょーつえぇ、見ろよHPのゲージ全然へってねぇ。これ、諦めたほうがいいんじゃね?」
「そ、そうだね。壁役、もう潰れそうだし。そ、そうなったら確実にアウトだよ」
「あ、盲目取れた。アウトだな。これ」
視界がはっきり晴れる。周囲を確認するが、すでに彼らは諦めモード。
騎士はまだ、頑張るつもりだが、腰が引けていて、つでにHPもかなりピンチ。
「あー君、がんばれー。ビビるなー」
そんな中、森呪師が一生懸命、回復薬を騎士に向かって投げている。
「あ、ちょ、みっちゃん、ゲームでビビってたことクラスのみんなにはっ!」
「うーん、後でキスしてくれたら、考えてもいいかな? きゃっ」
ブチブチブチッ!!
ぶりっ子なポーズを見た瞬間、なんか脳内の血管が数本切れたような音がする。
(……オーダー『バニッシュメント』)
≪オーダー『バニッシュメント』確認。発動まで10秒、9、8、7……≫
『おーい、それ、追い詰められた時の必殺技やで~、大人気ないぞー』
パーティーチャットからGMの呆れた声が聞こえる。
が、無視。そう、これは嫉妬ではない。
これは、教育だ。公共の場でイチャつくカップルに対する正義の鉄槌!!
『人が仕事をしている時に……』
皺がれた声のエフェクトのまま、剣を振り上げ、そして……
『いちゃつくなーーーーーーーー!!』
カウントゼロと同時に吹き荒れる緑の閃光が、世界を埋め尽くした。