絶望を体験してみませんか
……先日、友人が死んだ。俺の高校生時代のクラスメイトである。今現在は大学生だが、その1番楽しい時期に友人が死んだ。
死因は一酸化炭素中毒。亡くなった友人は2人だった。2人とも同じ死因で、同じ現場から遺体は発見されたという。現場には遺書が置いてあった。いや、落ちていたと言うべきか。
遺書の内容を完結にまとめると、「私は生きるのに疲れました。彼には悪いけど、一緒に死んでもらいます」と。
2人は付き合っていたが、上手くいかなかったのだろうか?細かい事情は定かではないが、恐らくは無理心中であろうと思う。なぜなら、2人の遺体にはそれぞれで争ったような形跡が残っていたからである。しかし、警察でもなんでもない俺に、本当のことなんてわかるはずもない。
別になんの感情が沸くわけでもなく、俺はただ公園でガムを噛み、ぼうぅっとしているだけだった。
「………まぁ、結局は他人事ですからねぇ」
不意にどこからか声が聞こえた。声の主を探す気にもなれず、それよりその男か女かもわからぬ声の、言葉の、「意味」を考えていた。
「あぁ、そうですか、別に私めに興味などないと?そうですか、他人ですものねぇ」
クスクスとどこか挑発的な笑い声が漏れ、なおも俺は黙っていると、その声はまったくもって馬鹿げたことを俺に言った。
「あなたも、そのご友人と同じように絶望してみたいとは思いませんか」
そこでやっと返事をする気になった俺は、ガムを膨らませる。そのまま膨らみ、パンっとわれるガムの風船の向こうに声の主の影が揺らめくのを見た気がした。
「絶望?」
「はい、絶望です。お試しで絶望してみませんか?」
「なにを言っているんだかさっぱりなんだが」
「あぁ、初めて本当の絶望を体験するお方は、大抵そう仰るんですよ。と言っても、二度絶望を利用するお方はいらっしゃいません、皆様壊れてしまって命を絶つのでね」
今度はさっきよりも大きな声で笑う声。別に絶望なんてどうでもいい。それに、死んでしまうというじゃないか。
「いえいえ、必ずしも死ぬとは限りませんよ」
「お前は、心が読めるのか?さっきから心中が筒抜けのような気もするが」
「まさか!私は単に、あなた様をよぅく、観察しているだけですよ」
ますます意味がわからない。この声の話を聞く限り、絶望を味わって壊れるか壊れないかが死の境のようだ。俺は生きることに執着があるわけでもないし、死んでも構わない存在感である。ならばいっそのこと、絶望を体験してみようか?
「そうか。じゃあ試しに絶望してみるかな」
俺は興味本位から「絶望してみる」ことにした。