第10話
買取小屋での長めの休憩を終えた俺は、剣を担ぎ、次の階層へ向かう階段の前に立った。
慎重に階段を降り、今度こそ純粋な第6層へと足を踏み入れた。
第6層の雰囲気は、買取小屋の広間と同じく、湿った土と岩壁が広がる洞窟風だ。
暗く、冷たい空気が濃密に肌を包む。
概要書には、「チュートリアル終了。ここから敵はさらに強くなる」と記されていた。
俺はLv. 10のステータスと「反転」の力を過信せず、集中力を高めて探索を開始した。
しばらく進むと、開けた空間で魔物とエンカウントした。
そこにいたのは、オークコマンダーと、取り巻きのオーク二匹だった。
「グルァ!」
(嘘だろ!?オークコマンダーが普通にいる!?)
俺はすぐに『検索』を発動した。
【解析情報 解析結果:オークコマンダー(通常個体)。 耐久力、攻撃力が非常に高い。知能もオークとしては異例。 弱点:なし。 スキル:指揮官の威厳(C)。】
(部下召喚がないのか!)
ボス個体ではないとはいえ、その威圧感は凄まじいものだった。
「独り言!根性論!」
「田中優太、俺ならやれる。一度倒せたんだ!やれる!」
俺はスキルを使い準備を整えた。
オークコマンダーは、メイスを振り上げ、取り巻きのオーク二匹と共に突進してきた。
(1対3は厳しい。先に部下を削る!)
俺は剣の切れ味を活かし、突進を躱しながら、その首筋へ斬りかかる。
取り巻きのオークは、4層のオークとは一線を画す強さだった。
その斧の一撃は重く、鋭く、動きが違う。
ガッ! 斧の一撃が洞窟の壁に当たり、石片が飛び散る。その衝撃が肌に伝わる。
(明らかに強い....!)
俺は回避と集中力を極限まで維持し、剣を首筋や心臓へ正確に打ち込む。
どうにか捌けている。
ザンッ! ザシュッ!
激しい攻防の末、剣を血で濡らし、取り巻きのオークを討伐した。
【経験値:400を獲得しました】
そして、早くも再びオークコマンダーとの1対1が始まった。
コマンダーはメイスを構え、部下を失った怒りを露わに、巨体を揺らして突進してくる。
しかし、ボス個体よりスピードが遅いように感じる。
(ボスだったあいつ程じゃない!このまま倒しきる!)
その攻撃は常軌を逸した破壊力だが、1対1ならなんとかなる。
俺は剣でコマンダーのメイスを幾度も受け流し、体勢を崩した。
その重い一撃を受けるたび、全身の筋肉が軋む。
ドガッ!
避けきれずに受けたメイスの柄頭が、俺の肩を掠める。HPが激減した。
「……油断したッ」
俺は発動中の『根性論』の三分の一ガードに望みを託しながら、一旦距離を取り、体勢を立て直した。
コマンダーの猛攻に耐え、反転の力を信じ続けた結果、致命的な一撃は避けることができた。
剣を何度も、何度も、オークコマンダーへと突き刺し、ついにその巨体を崩壊させた。
【経験値:1,000を獲得しました】
(ボス個体より流石に経験値が少ないな)
オークコマンダーの消滅跡には、魔核と、葉に包まれたオーク肉より少し大きい肉の塊が残されていた。
俺はすぐにその肉に『検索』を発動した。
【解析情報 解析結果:上質なオーク肉。高位のオークから稀にドロップする食材。疲労回復、活力増加の効果あり。】
(上質な……!これは期待できるぞ!)
俺は魔核と肉を間隙の環かんげきのわに収めた。
探索を継続する。
6層の通常個体コマンダーは、確かに強いが、今の俺なら討伐できる。
その後もオークコマンダーを狩り続けた。
休憩と食事のため買取小屋へ戻った。
俺は買取箱に魔核を投入し、DPを換金した。通常のオークコマンダーの魔核は300DPだった。
合計約5,000 DP となった。
次に、間隙の環からゴブリンのこん棒を取り出し、『トーチ』で火を熾した。
「トーチ!」
火を熾し、間隙の環に収めた上質なオーク肉を取り出した。
見た目から、これまでのオーク肉とは一線を画していた。
脂身が鮮やかな白色で、肉の赤みが深い。
上等な豚肉のようだ。
(これがコマンダーのドロップか)
いざ、火にかけてみる。
ジュウウウウウ……!
肉が焼けると共に、周囲一帯に、香ばしく食欲を煽る、濃厚な香りが広がる。
生臭さは全くない。
焼き上がりが待ち遠しくて、俺は焚き火の前でうずうずした。
肉の表面が美しい焼き色になる。たまらずかぶりついた。
柔らかい脂身が口の中でとろけ、濃密な肉汁が溢れ出す。
純粋な獣肉の旨味に加え、微かな甘みと、直火で炙られた香ばしさが混ざり合い、脳が痺れるような美味さだ。
「くそっ、なんだこれ……!」
俺は声を上げた。
俺の味覚が、その肉の圧倒的な品質に歓喜を上げている。
一口食べるたびに、力が湧き、これまでの戦闘の苦痛が報われるような錯覚を覚えた。
肉はかなりのボリュームがあったにもかかわらず、俺は文字通り、一滴の肉汁も残さず、ぺろりと平らげてしまった。
(これほどの肉....ストックしたい!)
俺は剣を握り直した。Lv. 10になった今、俺の目標はダンジョンからの脱出とレベルアップだけではない。
美味い飯を食うことも追加された。
俺は積極的にオークコマンダーを倒しに行くことを決意した。
再び第6層へ戻り、オークコマンダーを狩り続けた。
確定ドロップではなかったが、三体に一体程度の確率で上質なオーク肉がドロップした。
それを間隙の環に収納していった。
三つほど上質なオーク肉をドロップさせ、さらにオークコマンダーを狩り続けていると、オークコマンダーの消滅跡に、魔核と共に鈍い真鍮色の物体が転がった。
(なんだ、これは)
俺はすぐに『検索』を発動した。
【解析情報 解析結果:真鍮の古鍵しんちゅうのふるかぎ。特定の祠の鍵穴で使える鍵。】
(祠の鍵....?)
その直後、俺の全身が光に包まれた。
【レベルが上がりました!】
俺は Lv. 11 に到達した。
すぐにステータスを確認する。
【Lv. 11 ステータス】
レベル:11
HP:145/145 MP:73/73
力(STR):40
耐久(VIT):25
器用(DEX):27
魔力(INT):25
敏捷(AGI):25
運(LUC):1
「よっしゃ!これで、今後の探索がもっと楽になるな!」
俺は、上質なオーク肉と、この真鍮の古鍵の使い道である祠探しを並行し、第6層の探索を続けるのであった。
もう10話。1日1投稿頑張ります。




