表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ

私の小説にしては、珍しく前向きです

皆さま、安心してお楽しみくださいませ

レッツ プレイ インストゥルメンタル!

 公園は、そこだけがまるで別世界みたいに、シーンと静まり返っていた。

 とは言っても、こんなにぽかぽかした日曜日の昼間から、誰もいないってわけじゃない。

 公園にいる人は、ほとんど僕ら五人の周りに、扇状に座ってくれている。

 家族連れ、学生カップル、おじいちゃんおばあちゃん。沢山の人が、僕らの周りを囲んでいた。

 皆、今日の公演のお客さんとして、集まってくれているんだ。

 そう、僕ら『きらめき音楽隊』の、最後の演奏会を聴きに。

 こうやって、お客さんが作ってくれる、期待を込めた静寂っていうのは、僕ら演奏者にとって心地よく、ほどよいプレッシャーに感じられる。

 自然と、この人たちのためにいい演奏をしなきゃって思ってしまうんだ。

 僕ら、5人の仲間。『きらめき音楽隊』は、最後の準備に入っていた。

 うっすらと目に涙をためて、精一杯背伸びし、トランペットを構えたちあちゃん。

 愛用のクラリネットの角度を、何度も、何度も確かめている直規君。

 奈美さんは、いつものようにハイヒールの片足に重心を乗せて、かっこよくアルトサックスを咥えている。こんな日でも、自然体だ。

 かと思うと逆に、いつもは頼れる存在であるトロンボーンの陽平が、今日ばかりは、頬っぺたをこわばらせて、少し緊張しているようだ。その気持ちは痛いほど分かる。

 そして僕。皆の中で一番頼りないって言われる良。これで、5人組の音楽隊が完成する。

 僕は、体に巻きつく白いコブラのような、大きなラッパを支えながら、しっかりと立っていた。

この楽器の名前はスーザフォン。直径1メートルもある大きな朝顔を持ち、一番低くて一番大きな音が出る。音楽隊にとって、縁の下の力持ちだ。

 この3か月間、ずっと苦楽を共にしてきたこの楽器。大好きな楽器。

しかし、僕がこの楽器を吹けるのも、今日が最後だ。

 僕らにとって、今年最後の、そして一生、次はこないかもしれない合奏が、今始まろうとしている。

 ちあちゃんが、皆の目を見回した。彼女の合図が、始めの一拍目になる。そうしたら、公演が始まる。曲が始まる。もう二度と戻ってこない時間が始まってしまう。

 だからこそ……僕は後悔したくない。

 後悔なんか絶対しないんだ。

 みんなの視線がちあちゃんに集まる。ちあちゃんが楽器を少し持ち上げて下ろす。その動作に合わせて全員が肺いっぱいに息を吸い込み。

 ――高らかなファンファーレが、青空に抜けた。



この作品はフィクションです


モデルなんていませんからね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ