プロローグ
私の小説にしては、珍しく前向きです
皆さま、安心してお楽しみくださいませ
レッツ プレイ インストゥルメンタル!
公園は、そこだけがまるで別世界みたいに、シーンと静まり返っていた。
とは言っても、こんなにぽかぽかした日曜日の昼間から、誰もいないってわけじゃない。
公園にいる人は、ほとんど僕ら五人の周りに、扇状に座ってくれている。
家族連れ、学生カップル、おじいちゃんおばあちゃん。沢山の人が、僕らの周りを囲んでいた。
皆、今日の公演のお客さんとして、集まってくれているんだ。
そう、僕ら『きらめき音楽隊』の、最後の演奏会を聴きに。
こうやって、お客さんが作ってくれる、期待を込めた静寂っていうのは、僕ら演奏者にとって心地よく、ほどよいプレッシャーに感じられる。
自然と、この人たちのためにいい演奏をしなきゃって思ってしまうんだ。
僕ら、5人の仲間。『きらめき音楽隊』は、最後の準備に入っていた。
うっすらと目に涙をためて、精一杯背伸びし、トランペットを構えたちあちゃん。
愛用のクラリネットの角度を、何度も、何度も確かめている直規君。
奈美さんは、いつものようにハイヒールの片足に重心を乗せて、かっこよくアルトサックスを咥えている。こんな日でも、自然体だ。
かと思うと逆に、いつもは頼れる存在であるトロンボーンの陽平が、今日ばかりは、頬っぺたをこわばらせて、少し緊張しているようだ。その気持ちは痛いほど分かる。
そして僕。皆の中で一番頼りないって言われる良。これで、5人組の音楽隊が完成する。
僕は、体に巻きつく白いコブラのような、大きなラッパを支えながら、しっかりと立っていた。
この楽器の名前はスーザフォン。直径1メートルもある大きな朝顔を持ち、一番低くて一番大きな音が出る。音楽隊にとって、縁の下の力持ちだ。
この3か月間、ずっと苦楽を共にしてきたこの楽器。大好きな楽器。
しかし、僕がこの楽器を吹けるのも、今日が最後だ。
僕らにとって、今年最後の、そして一生、次はこないかもしれない合奏が、今始まろうとしている。
ちあちゃんが、皆の目を見回した。彼女の合図が、始めの一拍目になる。そうしたら、公演が始まる。曲が始まる。もう二度と戻ってこない時間が始まってしまう。
だからこそ……僕は後悔したくない。
後悔なんか絶対しないんだ。
みんなの視線がちあちゃんに集まる。ちあちゃんが楽器を少し持ち上げて下ろす。その動作に合わせて全員が肺いっぱいに息を吸い込み。
――高らかなファンファーレが、青空に抜けた。
この作品はフィクションです
モデルなんていませんからね