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026 私、やるからには本気ですから(1)【メリー視点】

 食堂へ顔を出すと時間帯のせいか騎士の姿はない。配膳部に近い机に複数人固まって座っているのが見え、その中に特徴的な浅葱色(あさぎいろ)の髪の少年を見つける。エルヴェは食堂で働いている仲間と会話しながら休憩しているようだった。


「アイゼア様、メリー様、どうなされましたか?」

「エルヴェ、休憩中にごめん。君に頼みたい事があって来たんだけど、聞いてもらえないかい?」

 アイゼアはエルヴェたちがいる隣のテーブルにドレスなどが入ったカバンを置きながら話しかける。


「頼みたい事ですか? 私にできる事でしたら、何なりとお申し付けください」

「実は、このドレスの修繕を頼みたくって」

「拝見させていただいてもよろしいですか?」

「もちろん」

 アイゼアはカバンを開くと、中に入っていたドレスを広いテーブルの上へと広げた。


「あ、所々ほつれと傷がありますね。これを修繕すればよろしいのですか?」

 エルヴェは遠目からでも一瞬でどこが問題なのかを見破ってきた。期待していた以上の能力の高さに、さすがというより他ない。


「この時期は仕立て屋も立て込んでて絶望的みたいでね。今月の二十四日までに何とかなりそうかな?」

「えぇ、もちろんです。この程度の修繕であれば十分間に合います」

「この程度……ドレスの修繕って簡単じゃないと思うけど……」

「時間さえいただければ服やドレス自体を一から仕立てることもできます。修繕程度ならすぐですよ」


 エルヴェは、当たり前のようにさらっと『ドレス自体を仕立てる』と言いきった。彼の裁縫の能力は期待も想像も超えて、遥かに高い。だが本人は至って特別なことでもないといった様子だった。


「エルヴェさん、何気にすごいですね」

「そう……でしょうか?」

「そうよー。食堂の仕事もね、毎日真面目に頑張ってくれてて、あたしたちも助かってんのよ。でも無理しちゃダメだからね、エルヴェちゃん!」

「心配してくださってありがとうございます。でも、頼りにしていただけて嬉しいくらいなんです」


 食堂で働く仲間の一人が気遣いの言葉をかけ、その返答に癒やされた人たちがほわっと笑む。良好な人間関係と優しい人たちに囲まれていることがわかり、メリーも穏やかな気持ちになっていた。

 エルヴェは目を輝かせてドレスに触れている。早く修繕したいと言わんばかりにうずうずしているようだ。


「これはメリー様が着用なさるのですよね? 修繕が終わり次第、一度試着していただきたいのですが、そのときにご連絡を差し上げてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。よろしくお願いします」

「僕からもよろしくお願いするよ。もし何か必要なものがあれば僕が買うから、遠慮なく言ってくれていいからね」

「わかりました。お任せください」

 エルヴェは頼りにされているのが嬉しいらしく、張り切りながら強く(うなず)いた。これで何とかドレスは工面できた。


「エルヴェー! そろそろ夕食の仕込みやるよー!」

「はい、すぐに参ります! アイゼア様、メリー様、仕事に戻ります。ドレスはできるだけ早く仕上げるようにしますので」

「くれぐれも無理だけはしないようにね」

「はい」

 エルヴェは軽く会釈(えしゃく)し、まるで扱い慣れているかのように手早くドレスを畳んでカバンにしまい込むと急いで食堂を出ていった。


「後は靴と宝飾品とカバンだけど、まだ時間はあるかい?」

「大丈夫です。宝飾品はネックレスだけ一緒に見繕ってもらえると助かります。髪飾りは髪型を決めてからでないと選べそうもないので」

「そっか、髪型……細かいところにまで気が回らなくてごめん」


 アイゼアが申し訳なさそうな笑みを浮かべる。以前ブリットルが女心もわからないポンコツだとアイゼアを評していたが、確かにそういったことには少し疎いところが垣間見える。

 だが人のことは言えないだろう。メリー自身も男心や男性の事情など全く知りもしないのだから。


 それにしてもドレスを買うという話のときから感じていたが、どうにもアイゼアは舞踏会へ同伴させることに負い目のようなものを感じているように見える。

 社交の場で陰口や嫌味を言われるなんてのは謝られることでもなく、ごく当たり前の話だ。それをわざわざ丁寧に忠告されるなんて思いもしなかった。そもそも嫌なら依頼を受けたりなどしない。


「アイゼアさん、もっと私を信頼して任せてください。何でも自分がやらなきゃって思うのは危険です。私、必ず上手くやりますから、二人で舞踏会を乗り切りましょう!」

「メリー……ありがとう」

「早くお店へ見に行きませんか? ぐずぐずしてると日が落ちてしまいます」

 食堂の出口へ向かいながらアイゼアを急かすと、すぐに隣に並んで歩き出した。



* * *



 西区にある宝飾品を扱う店をいくつか巡り、ドレスに合う舞踏会用の白い靴と同じ色の小さなカバンを選んだ。靴はドレスのスカートに隠れてしまうのでできるだけ安く抑え、カバンも会場に入ってしまえばその場で預けるため、凝ったものでなくても構わない。そこで抑えた分見えるところにつけるネックレスはそれなりに見栄えのするものを買うつもりだ。


 ネックレスが陳列されたショーケースをゆっくりと巡りながら品定めしていく。宝石のものからガラス製品のものまで幅広く取り揃えられており、石の大きさや数、種類なども様々で値段も高価なものから比較的安価なものまで取り揃えられている。


「ネックレスも種類が多くて悩むね……」

 夜の舞踏会であれば宝石のネックレスが定番だが、一粒の小さなものでは舞踏会という場には控えめ過ぎる。かといって豪奢なものはかなり値が張るため手が出ない。


 ガラス素材でも決して悪いわけではないのだろうが、王家主催の舞踏会ということを考えれば避けた方が無難だ。であれば、真珠で作られた物が一番良い。

 カバンや靴、借りていた手袋の白に合わせることで、統一感も出るはずだ。


「安価なものできらびやかさを無理に出すよりは真珠が無難ですね。真珠は昼夜問わず使用できますし」

「君が作法にも詳しくて助かったよ」

「私も簡単なものしか把握してないので、もしかしたら細かいところでつつかれるかもしれませんけどね」

 アイゼアと二人、真珠のネックレスが飾られたショーケースの前で立ち止まる。真珠も粒の大きさや輝き、同じ白でも若干色味が違っていたりする。イヤリングをしない分、やはり単調なものよりは少し華やかなものの方がいい。


 同じ大きさの真珠が連なっているものから、様々な大きさが使われているもの、一粒のもの、白金や金と一緒になったものや二連三連のもの、中心にかけて華やかなデザインを凝らしたものなど、型は多岐に渡る。

 格式高い店ということもあり、どれも上品かつ繊細で美しい。お堅くいくなら同じ大きさの粒が連なった一連のものだろう。華やかさを重視するなら凝ったデザインのものも捨てがたい。


「華やかさはほしいけど粒が大きいのはちょっと主張が激しい感じもするね」

「そうですね。それと、短いものの方が正式な場には相応しいので、長すぎるものは避けた方が無難です」

 少しずつ条件をつけていくと自ずと種類が限定されてくる。一つずつ眺め、良さそうなものを値段を確認しながら候補として記憶していく。そうしているうちに、ふと一つのネックレスに目が留まった。


 二連のネックレスで、上は小さな粒が連なり、下は小さな粒と普通の大きさの粒が規則正しい配置で編まれている。中央に小さな白金で作られた花があしらわれ、その下に少し大きめの丸い真珠が雫のように取り付けられている。


 華やかで可愛らしさがありながら、主張しすぎない控えめなデザインだ。真珠の照りや形の良さも申し分なく、品質の高いものだとわかる。値段はそこそこ高いが、それでも宝石が散りばめられたようなネックレスよりはずっと安く買える。


「メリー、僕はこれが──」

「アイゼアさん、私これが──」


 一目で気に入ったそのネックレスを提案しようとすると、アイゼアと偶然声が重なる。同時に指差した先にあるのは同じネックレスだった。

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