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第4話 フラれたい恋の始まり②

 

 文音とサクと別れたあと、俺は急いで彼女——野内藍を追いかける。


 今から俺は、人生初の簡単な告白――いや、いきなりラストバトル級の難易度を誇る、『突撃!出会って告白大作戦!』を仕掛けに行くのだ。


 まぁ、ほぼ確定で撃沈するだろうし、ほんのりとした淡い期待など抱いていない。


 そもそもこれは、文音とサクの賭けに巻き込まれないための、ただ肉まん20個の出費を防ぐための積極的に見せた消極的防衛策にすぎない。

 奇しくも彼らの賭けにより行動力が高くなってしまっている点は不服だが、それでも彼女が欲しいのは事実だったし、行動しなければ何も始まらないことくらい骨身に染みて分かっている。


 だから、この告白は良い経験なんだと、経験値稼ぎなんだと、今さっき覚悟を決めた。

 男はフラれて強くなる。男は度胸、当たって砕けろだ。


 ……もっとも、砕けた後のことは考えたくもないんだけど。


 そうしていざ覚悟を決めてしまうと、意外と気分は軽かった。


 気軽にコンビニにお菓子でも買いに行くようなノリで足が動いている。


 一方で、これから告白して撃沈するという未来が分かりきっているために、

「特攻隊はこんな気持ちだったのかな…」なんて不謹慎なことを考えてしまう俺もいた。


 ……いや、待て俺。特攻精神を履き違えてないか?


 そんな自分同士での実りのない押し問答をしながらも、足だけは順調に前へと進めていた。


 目的地へと進みながら、さっきの光景を思い返す。


 ——野内藍。


 偶然にも俺と同じ苗字を持つ、とびきりの美人。


 正直なところ、最初に見た瞬間から目が離せなかった。

 容姿だけじゃない。

 その佇まいや、周囲の視線を物ともしない凛とした雰囲気。

 そんな全てが、俺の中の何かを掻き立てた。


 (……って、何をポエムってるんだ俺は)


 頭を振って邪念を払う。

 どうせフラれるんだから、余計なことは考えずに済ませてしまおう。


「さて、と。確か左の1番奥の下駄箱だったな………お、いたいた」


 小走りで追いかけたおかげで、お目当ての人物はすぐに見つかった。


 良かった。

 まだ下駄箱に着いたばかりのようだ。


 藍は係員から受け取った書類を確認しながら、指示された下駄箱へと向かっている。

 その横顔は、先ほど受付で見た時と同じく、どこか憂いを帯びた美しさがあった。


 これなら教室に向かうまでの間で『突撃!出会って告白大作戦!』が実行できる。


 俺はやると決めたらやる男だ……。


 (※本当はそうでもないけど勝手にそう思われてる)


 深呼吸をして、心を落ち着ける。


 (よし……俺ならいける俺ならやれる俺ならいける俺ならやれる……)


 自己暗示をかけながら、再び覚悟を決め、下駄箱の方へと足を進めようとした。


 ――――その時だった。


 「バサッ」、と紙が地面に広がる音が聞こえた。


 見れば、藍が履き慣れない新品のローファーに足を取られたのか、バッグから書類をばらばらと落としてしまっていた。

 彼女は慌てて屈もうとして、さらに「はぁ」と小さな溜息をついている。


 その仕草は、完璧に見える彼女の人間らしい一面を垣間見せていて、なぜか少しだけ距離が縮まったような気がした。



 これは、もしや………



(………………チャンスなのでは?)



 むしろここしかないと言われているみたいな、そんなタイミングでのアクシデントだった。

 これをスルーするなんて選択肢はさすがに無い。

 

 書類を拾うのを手伝うことで少しでも好感度を上げられたら儲けものだ。

 いや、そもそも好感度もクソもないんだけど、少しでも可能性を広げられたらと考える。

 俺は迷わず駆け寄った。



(―――――――今だ!)


「藍、大丈夫?」



 あ、やべ。


 突然のチャンス到来に対応しきれず、思わず呼び捨てにしてしまう。



「……へ?」



 振り返った藍の表情は、明らかに戸惑いと困惑に満ちていた。

 大きな瞳が驚きで見開かれ、その美しい顔に「は?」という文字が浮かんでいるのが見える。


(やってしまったぁぁーー…………)


 俺からの突然の呼びかけに明らかに戸惑っているのが分かる。

 いきなりの呼び捨て。

 しかも、自己紹介すらしていない相手に、だ。

 初対面の男からいきなり名前を呼ばれるって、普通に考えて怖すぎるよね、うん。

 ストーカーか変質者だと思われてもおかしくない。


 ……まぁ、もういいか。

 もうこうなってしまっては何も怖くない。開き直りの境地というやつだ。

 このやらかしで、残っていたのかも分からない希望の芽も消えたわけで。


 どうせフラれるわけだし、適当に済ませてしまおうと俺は割り切ることにした。


「あ、ごめんごめん。さっき並んでる時に名前聞こえちゃったからさ」


 俺じゃ誤魔化せないので、正直に言ってしまう。

 すると藍は一瞬考えるような仕草をして、それから思い出したような表情を見せた。


「え?あ、ああ、後ろに並んでた………」


 お、どうやら認識はされていたらしい。

 そのことが妙に嬉しく、喜んでいる自分がいる。

 少なくとも「誰?」とか「知らない」とか言われなかっただけマシだ。

 ……これからフラれる予定だからぬか喜びなんだけど。


「そうそう、野内蓮っていうんだ。ほら、苗字同じだから何か苗字で呼ぶの違和感あって、ははは」


 我ながら苦しい言い訳だと思いながらも、とりあえず名乗りを上げる。

 実際、苗字が同じだからという理由で呼び捨てにするなんて、どこの幼稚園児だよって話だ。


「……そ、そう。それはそうと手伝ってくれてありがとう、もう平気よ、野内くん」


 うんうん。

 そりゃ普通は苗字に「さん」とか「くん」とか付けるよね。

 誰だってそうするし、俺もそうするよ……本来は。


 それにしても……


 間近で見る藍は、さっき遠目に見た時よりもさらに綺麗だった。

 整った顔立ちはもちろん、その所作の一つ一つが洗練されていて、まるで良家のお嬢様のような雰囲気を醸し出している。

 こんな完璧な女の子に、俺みたいな凡人が告白するなんて、身の程知らずにもほどがある。


 付け加えるなら”身の程知らず”というだけでなく、最初のやらかしがキツすぎて”恥知らず”って印象まで付けられるおまけつきだろう。


 そう考えると、この短いやりとりの時間が何倍にも思えてきた。


(あー、きつい……)


 最初はもう少し会話を弾ませて、少しでも可能性を上げる足掻きをしてから告白する予定だったんだけど、もういいか。


 無理なものは無理なんだし。

 覚悟を決めた俺は、もう後には引けない。


「え?うんいいよ全然。あ、そうだ。あのさ、藍」


 自分でも驚くほどすんなりと言葉が出てくる。

 諦めが肝心ってのは本当にその通りだった。

 開き直ると、人間って強くなれるもんだ。


「ん?なに?」


「俺と付き合ってくれない?」


「──────!?」



 ――――沈黙。


 ――――時が止まった。



 藍の表情が固まり、その美しい顔に様々な感情が浮かんでは消えていく。


 驚き、困惑、そして……何か別の感情も見えたような気がしたが、よく分からなかった。


 (おー、驚いてる驚いてる。分かりにくいけど、結構リアクションいいなこの子)


 まー、そりゃインパクト重視の告白だしなー。

 初対面でいきなり告白なんて、普通じゃ考えられないし。


 あれ……ていうかこれ、振られた後どんな空気になるんだろう……


 経験も無いし、そんな憂鬱な事考えたくなかったから放っておいたけど、同じクラスなんだしこれから一年間気まずくないか?


  ……いや、待てよ。


  関係性ゼロの告白なんて、振られて関係性がマイナスになるというよりむしろ、「友達からなら〜」みたいな感じでプラスになることもあるんじゃないか?


 おお……だとしたら多用は出来ないけど、かなりワザありな関係構築法かもしれないなこれは。


 そう思うと、この告白もすごく良いものに見えてきた。


 ぜひ「友達からなら」って振ってくださいお願いします!


 沈黙が続く中、藍はじっと俺を見つめている。

 その視線は、まるで俺の内面を見透かそうとしているかのようで、少し居心地が悪い。


「………えっと、返事はいかほどで?」


 驚きの後、一応考えてはくれたのだろう。

 少しの間は思案気な表情をしていた。

 だが今は、やっと言いづらい答えを決めたのか、申し訳なさそうな、妙に居心地の悪そうな顔をしている。


 ああ、これは完全にフラれるパターンだ。

 分かってる、分かってるよ。予定通りだから……はい。


「ええ、ごめんなさい。ちょっとだけ………いや大分驚いてしまって……」


「あー、ははは、そりゃそうだよね」


 俺は努めて明るく返す。

 フラれる側が暗い顔してたら、余計に気まずくなるだけだ。


「えっと……その……返事なんだけどね」


 申し訳なさそうだなー……

 きっと性格もいい子なんだろうと思う。


 見た目もさながら内面も素晴らしいときたか。

 こんな子と本当に付き合える男子が羨ましい限りだ。

 きっと将来はもっと相応しい相手と幸せになるんだろうな、なんてことを思う。


 さて、ここは無理な告白をした俺が、自らの引導を渡すため堂々と誘導することにしよう。

 それくらいはかっこつけさせてほしい。

 最後くらいは、男らしく振る舞いたいものだ。


「よし、どんとこいだぜ」


 そう言うと俺は目を瞑り、軽くお辞儀みたいに身を屈めて、手まで差し出す。

 まるで、これから処刑台に上る囚人のような心境だった。


「うん………その……じゃあ………」


 藍の声が聞こえる。


 ――ああ、いよいよだ。

 俺の人生初の告白は、こんな呆気ない閉幕を迎えるらしい。


 しかし、その堂々とした態度とは裏腹に、俺の中では欲張りな本心が顔を覗かせていた。


 (頼む!「友達からなら…」とか気まずくならない振り方でお願いします!ちょっとでもプラスの方向で!!)


 いや、あわよくば――


 (――――さらに向こうへ、プルスウルトラ(OKされる)だよ!!)


 なんて、最後の最後まで都合のいい妄想をしている自分がいた。


 


「…………えっ…と、……………よろしくお願いします……」


「……え?いいの?」



 …………いや、ほんとにプルスウルトラしちゃったよ。


 色々ああだこうだと考えてはいたが、俺は本気で困惑した。


 目を開けて藍を見ると、彼女は既に俺から視線を逸らしていた。

 その横顔には、何か決意のようなものが見えたような気がしたが――


 ……いや、それよりも。


 え?マジで?本当に?



 …………俺なんかでいいの?

新規読者の方へ:

読んでいただきありがとうございます。

下は第一章完結後に更新している「あとがき連載」になりますのでお気にせず、次話へとお進みください。

また、少しでも面白いと感じてもらえる部分がありましたらリアクションや星評価など気軽にしていってもらえると嬉しいです!


【あとがき連載:野内くんの放課後アフタートーク部5.墓の穴のプリン】


サ「あのさ……」

文「(グター)」

蓮「……(ダラー)」

サ「……あのさー!(蓮の耳元で大きく叫ぶ)」

蓮「んえ!?……な、なにすんだよ急に」

サ「……(静かに睨む)」

蓮「……って、え!?何!?何か怒ってる?」

サ「ああ、そうだよ……怒ってるんだよ僕は。……何でかは分かるよね?」

蓮「え……?(呆けた顔)」

サ「……(睨)」

蓮「……あ、あぁー!はいはい!あれでしょ、あれ……」

サ「……へぇー、あれって何かな?言ってみてよ、ほら」

蓮(や、やばい!分からないもんは分からないんだよ、そんなこと言われても!……何か、何か言わなきゃ!何かないか、何か───)

文「……(天才くん、天才くん)」

蓮「(な、なんだよ文音、こんなときに)」

文「(もしかして、昨日サクちゃんの部屋に行ったときのこともうバレちゃったんじゃない?)」

蓮「(え?……でもあれは文音が言うから俺も食べただけで──)」

サ「何こそこそしてるの?二人とも」

文「(ほらほら天才くん!早く謝らないと!私も一緒に謝ってあげるから!)」

蓮(なっ……文音のせいでしょどう考えても!でも怒られてるの俺だし……もうそうするしか……)

蓮「(よし……分かった文音。一緒に素直に謝ろう)」

蓮「い、いやその……」

サ「その?」

蓮「そ、その……プ、プリン勝手に食べちゃって、すみませんでしたぁぁぁあああ!!」

サ「──え?」

蓮「────え?」

サ「僕は……このあとがき連載、ダラダラしてて全然更新されてないじゃんってことを言いたかっただけなんだけど……」

蓮「…………」

サ「……え、で、食べたの?」

文「………(あちゃー)」

蓮「あの……その、食べたっていうか……食べさせられたって言うか……」

サ「食べたの?」

蓮「あの……ホントに、その……マジで、色々すんませんでしたぁぁぁあああ!!」

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