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第31話 解決策③


 生徒会長が俺の全てを理解してくれた。


「――ああ、なんだ、そのこと?……それはそうでしょ! あんなの偶然以外の何物でもないって! マジで俺、なーんにもしてないから」


 だから俺も、正直に全てを打ち明けることにした。


 言葉に力が入る。


 今まで溜め込んできた気持ちが一気に溢れ出すような感覚だった。


 ポカンとしたつぼみんと、難しそうな顔をした藍。


 それに、聞き耳を立てていたであろう近くのクラスメイト達がざわざわとしだす。


 俺についての変な勘違いを一カ月もの間してきた連中だ。


 衝撃の事実を知って響動きだすのも無理はない。


 しかし、俺はそれに腹など立てない。


 だって……


 天才くんの問題が少しでも解決に向かいそうなんだから。


 そんなことはどうでもいいのだ。


 肝心なのは、間違いなく俺に良い風が吹いているということだけ。


 今となっては、敬遠していたというか嫌厭していたというか、とにかく避けたがっていた生徒会長が途端に神様に見えてくる。


(そうだよ……ここは今までの中学校とは違って天才的な生徒ばかりだって言うんだし、実はただ一言否定するだけで良かったんだよ)


 回りくどく、今ある評判を悪い評判で塗り替えてみようと画策していた俺だが、そんな単純な事実にここで気づかされる。


 きっと今までは俺だけじゃなく、周りもバカだっただけ。


 良く考えてみたら、普通は一言否定するだけでも十分に効果があるに決まっているんだ。


 それが、天才だらけの学校ならなおのこと理解が早いはず。


 現に、その中でも優秀すぎると思われるあの生徒会長は、俺が何も言わずとも正確にこちらの事情を把握してくれたわけだし。


(そんなことに、なんで俺は気が付かなかったのか……)


 とことん、自分の頭の稚拙さを痛感する。


 もっと早くこの事実に気づいていれば、こんなに悩む必要もなかったのに。


「ホ、ホントだったんだ……」


 俺の何の曇りもない、あっけらかんとした独白をつぼみんは素直に受け取ってくれたようで驚きをそのまま伝えてきてくれる。


 その反応が嬉しい。


 ようやく……


 ようやく真実を理解してもらえた。


「なんか、ごめんね。ずっと勝手に勘違いしちゃってて……その、学年で一番の天才だーとか……」


 続いて、入学してからここまでさんざ騒いできた例の噂についての謝罪をしてきた。


 つぼみんらしい素直さだ。


 間違いに気づいたらきちんと謝る。


 こういう人とお近づきになりたかったんだ、俺は。


 ……藍なんかじゃなくてね!


「ああー、いいっていいって。分かってくれたならそれでいいから」


 俺は軽く明るく、まったく気にもしていないように振舞いながら、頭を下げるつぼみんを諫める。


 そして、頭を上げたつぼみんに向かって……


「……でもほんと、俺って実はめちゃくちゃバカだからさ……だからさ、これからは、そういう感じでよろしく!」


 いや、彼女に対してというよりか教室中に聞こえるくらいの声をわざと出してそう告げた。


 この機会を逃すわけにはいかない。


 できるだけ多くの人に聞いてもらいたいと思ったのだ。


「うん了解!あらためてよろしくね、野内くん!」


 元気な彼女と握手を交わす。


 まるで国と国とが条約を交わしているみたいな光景だ。


 もちろん、初日の藍との交際契約みたいな一方的な条件の押し付けとかじゃなくて、今回は凄く平和なやつ。


 しかし――


「…………」


 ――そんなほのぼのした俺たちの前で今も沈黙を貫いている者がひとり。


 藍は何を考えているのか、俺の方をただただじっと睨みつけてきている。


 その視線が怖い。


 俺の話をしっかりと聞いてくれたつぼみんとは違い、まるで何かを値踏みするような、探るような目つきだ。


「……な、なに、なんか付いてる……ます? 俺の顔」


 未だに同級生に対しての敬語に慣れず、躓いてしまう。


 ……もういい加減、敬語やめてもいいかな?


 ……面倒だし。


「……いや、そうじゃなくて……貴方、なんで自分のことがコケにされているのにそんなに嬉しそうなの?」


「え? なんでってそりゃ……」


 ――これでようやく普通の学園生活が送れそうだからでしょ。


 なんて思い切ったタメ口を言いかけていたが、そこで言葉を止める。


(危ない危ない……)


 敬語とかそれ以前に、これじゃまるで「持ち上げられるのが面倒くさいから天才性を隠している」みたいに受け取られかねないことに気が付く。


 バカはバカなりに、そんなことに気付けるくらいには成長しているのだ。


(もっとこう……誤解なんか生まれないような言い方がいいな……)


 慎重に言葉を選ばなければ、また変な誤解を招いてしまいそうだ。


「……なんだっていうの?」


 俺がそうして悩んでいると、不自然な間に感じたのか返答の催促が飛んできてしまった。


 慎重に言葉を考え、無難でかつ藍を納得させられるような答えをしておきたい場面だが、大して名案も浮かんでこないのでお得意の開き直り戦法で何とかするしかないだろう。


「あぁー……ほら、やっぱり正当な評価が欲しかったから、みたいな?」


 出来る限り誤解のないように単純な言い方を考え、そしてこっそりタメ口にしてみる。


「正当な、評価……?」


(キターーーーーー!! バレてない!! 自然にタメ口に直して見せたぞ!! 天才かよ、俺!!)


 タメ口にまるで気づいていない藍を見ると、してやったりという気分になり気持ちがいい。


 こういう小さな成功が、俺には貴重なのだ。


 普段は思い通りにならないことが多いだけに、こんな些細なことでも嬉しくなってしまう。


「そうそう正当な評価!……もうこの際だから正直に言うんだけど、あんな形で『天才!』とか『最強!』みたいに言われてたの凄い嫌だったんだよね」


「…………あんな、形!?」


 藍はぼそぼそと俺の言葉を反芻しながら、驚いた表情をしている。


 まだ完全には納得させられていないだろうが、俺に対する変な意識が改善されているだろう良いサインだ。


 上手くいけば、天才くん問題と藍との交際問題、その2つを一気に片づけられるかもしれない大チャンス。


 もっと俺のバカさ加減を曝け出していけば、俺への心境を最底辺にまで落とせるだろう。


 そうすれば、藍の方から別れを切り出してくれるはずだ。


 なので、そのまま俺は何の躊躇いもなく心の内をそのままぶちまけ、畳みかけることにした。


「だからさ、生徒会長が俺のことをちゃんとそういうふうに見てくれてたって分かって安心してるんだ」


「――――!?」


 藍の反応が明らかに変わった。


 ここまでハッキリ言われてしまえば、俺への認識がズレていたということをさすがに理解したのだろう。


「わざわざ生徒会室まで行った甲斐があるってもんだよ」


 さっきつぼみんが言っていた、生徒会に誘うつもりだったがやめたという部分。


 つまり、もし俺が生徒会室に行ってなかったら、この2人だけでなく俺までもが生徒会へ誘われていたかもしれないということだ。


(それは……考えたくもないな……)


 そんな誘いを貰っていたら……と考えるだけで胃が痛み始める。


 それほどまでに俺にとっては、生徒会という存在が「きつい・しんどい・やりたくない」の代名詞になってしまっている。


 本当の本当に、昨日生徒会室に行っておいて良かった(特に何もしてないけど)。


「……まぁとにかく、そういうわけだからさ。藍もこれからは”めちゃくちゃバカ”な男として俺のこと扱ってよ?……めちゃくちゃ、バカとして」


 大事な事なので二回言っておく。


 これで藍からの俺への誤解は完全に解けたんじゃないだろうか。


 そして、そんなバカな男と付き合っていることに嫌気が差して、自然と距離を置いてくれるだろう。


「…………」


 すると、藍は頷きこそしないけれど、しかめっ面をしてこちらを睨んできていた。


(お、おお……こ、これは――――!)


 いつもなら人の考えていることなんて分からない俺だが、今に関してはハッキリと分かる気がする。


(――――幻滅してる!!すごい……すごいしてる!!)


 これは間違いなく、俺のことを正真正銘のバカだと認識したうえで、「これが私の彼氏……?つりあわなくない?」って顔だ。


 これが藍じゃなかったら凄く傷ついていたかもしれないってくらい向けられたくはない表情。


 苦虫をかみつぶしたような顔っていうのは、こういう顔のことを指していたんだなと勝手に納得できてしまう。


 でも今は、その表情がものすごく嬉しい。


 ようやく俺の作戦が成功に向かっているという証拠だから。


(やるじゃん……俺。天才かよ……)


 ……いや、違うんだけど。バカだから成功したんだけど。


「…………さて、と」


 この話はもうここらで十分だ。


 目的を果たせたかわりに、クラスの注目を集めてしまっていたため、そろそろ立ち去ることにする。


 それに、明日の休みから相談部の活動を開始することになったので、今日は授業が終わったら俺サク文音の3人が各自で買い出しや準備をして昨日決めた部室に集まる約束になっている。


 これ以上時間をかけてたらサクにまた怒られてしまう。


「じゃあ、もう今日は帰ろうかな、俺」


 そう思い、ひとりでにそんなことを呟きながら席を立つ。


 教室の空気も、なんだか微妙に変わったような気がする。


 俺への見方が変わった人もいるだろうし、まだ半信半疑の人もいるだろう。


 でも、それでいい。


 少しずつ変わっていけば。


「じゃ、また休み明けから改めてよろしく、二人とも。……あ、そうだそうだ!」


 挨拶もそこそこに素早く教室から出て行こうとしていた俺だったが、去り際で一言だけ言っておきたいことが思い浮かび、二人の方を少しだけ振り向く。


 生徒会という大変な世界に飛び込む二人への、せめてもの気遣いだ。


「生徒会、頑張ってな!ファイトー、いっぱーつ!……なんつって」


 そんな……


 これから地獄のような生徒会活動が始まるであろう二人を思って言った、善意の励ましの言葉だったのだが――


「シ――――――――ン…………――――――――」


 何人かが会話していたはずだったろう教室が、一瞬で静まり返る。


「……う、うん……もちろん頑張るよー……またねー、野内くん……」


「…………」


 ――それよりも先に、この場の空気を地獄みたいにしてしまったようだった。


蓮「テレビ見てないからなぁ最近……まだあのCMやってるのかな……」

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