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第30話 救世主マリー


 あれから旧部室棟で適当に良さそうな部屋を見つけ、連休から早速準備に取り掛かろうということに決まった翌日。


 ゴールデンウィーク前、最後の学校の日。


「え!?」


 ――ガタンッ、と。


 席が思い切り後ろに引かれる音と共に、俺の大きな声が放課後の教室に響いた。


「二人とも、生徒会に入るの!?」


 驚きのあまり、その勢いのままつぼみんと藍にそう尋ねる。


「そうなんだよー……今日言いに行く予定ー」


 つぼみんがいつもよりも低いテンションで端的に答えてくれたが、それでも俺の頭の中は「え、何でそうなったの?」ということで混乱状態だ。


 だって、昨日の話し合いを経て、「俺、明日から新しく相談部なんていう何の役にも立たなそうな部活を始めるんだよね」なんてことを教えてやろうとしてたところに、まさかもまさかなことを聞かされたのだから仕方がない。


 昨日のピアノとかテニス云々の話はどこへやら、だ。


 これは予想外すぎる。


「あ……」


 しかし、だからといって大声を出してしまったのは失敗だった。


 気付いたときにはもう遅い。


 大きな音を出したせいで皆が俺を見ていた。


 だけど、何故か訝しいというよりは好奇な視線を向けられているような気がする。


 きっと、生徒会という単語からこちらの会話の内容が気になっているのだろう。


 少し離れた席にいる彼方のほうをチラと見てみれば、目をそらされてしまった。


 ごく普通な男子生徒の彼方からすれば、今の俺は相当に関わりたくない状態なんだなと悟らされてしまう。


(いかんいかん、俺も彼方を見習わなくては……)


 彼方のような普通の高校生こそが、俺の本来の姿なのだ。


 目立たず、騒がず、平凡に学校生活を送る。


 それが理想なのに、なぜかいつも変に目立ってしまう。


「コホンッ……」


 このまま俺のせいで変な空気になるのは望ましくなかったので、一度咳払いをして落ち着きを取り戻し、小さな声で改めて二人に話しかけた。


「…………えっと……まじ?」


「まじなんだよー……生徒会長が勧誘に来てさー……」


「ま、まじなんだ……」


 つぼみんの答えに、俺は内心で驚愕した。


 生徒会長が直接勧誘に来るなんて、どういうことだろうか。


「…………」


 しかし、俺は二人に話しかけているのだが、相変わらず藍は俺とは極力話したくないらしく、つぼみんしか返事をしてくれない。


 俺としては、「仲が悪く破局寸前!」みたいな空気が流れてくれた方が良かったので最近はそのスタンスに放置気味だったんだが、

「こんなんじゃ付き合ってるなんて誰も信じてくれないんじゃないの? お前はそれでいいの?」とも度々思っていた。


 しかし――


 意外にも周囲からは藍がツンデレだのなんだのでラブラブ認定され始めてしまっている。


 その内情はラブラブどころか友達でもないくらいの距離感なので見当違いも甚だしいのだが、外野からはそう見えるらしい。


 ここでも俺の予想していた展開ではなく、藍の思い通りになっているみたいで、自信を無くしたものだ。


 ……まぁ、頭脳方面の自信なんて元々これっぽっちも無いんだけど。


 そんなふうに、「さて、ならつぼみんとの会話を楽しむとしますかー」とか考えていたところで――


「…………あなた一体、生徒会長に何をしたの?……昨日、生徒会室に部活の申請をしに行ったって聞いたけど」


「へ?」


 一言も返さないつもりなんだろうと思っていた、まさかの藍からも返答が飛んできた。


 ……いや、返答というか質問に質問で返されただけなんだけど。


 しかし、その口ぶりから、どうやら「俺、明日から新しく相談部なんていう何の役にも立たなそうな部活を始めるんだよね」ということを教えることでイメージダウンを図る俺の作戦は筒抜けだったらしいことが分かる。


 それに、「生徒会長に何をしたの?」なんて全く意味不明なことを聞いてきたせいで、何とも情けもない声が出てしまった。


「別に何もしてない……です、けど……何かあったの?」


 本当は面倒ごとの臭いがするので関わりたくなかったが、聞かないわけにもいかないのでとりあえず俺ともまともに会話してくれるだろうつぼみんに返す。


「あ、それつぼみも聞きたかったんだった……なんかね、昨日、会長がつぼみたちのところに来て、めちゃくちゃ野内くんのこと悪く言ってたんだよね」


 つぼみんも同じことを聞きたかったらしく、藍の言った変なことにさらに変なことを重ねて尋ねてきた。


「え、会長が? 何て?」


 ――ていうか、何で?


(あれ……俺、何かしたっけ?)


 確かに昨日、相談部の申請を提出しに生徒会室へと出向いたが、そこであったことと言えば申請が通らなかったってぐらいで、他に正直まったく悪く言われるような心当たりがない。


 というか、俺と会話をしていたのは随分とミュージカル調に喋る書記の人とが殆どで、会長とは何かを喋ったのか記憶にないくらいだ。


 すごい綺麗な人だけど、何か怖い顔してるしやっぱり関わりたくないなー、なんて思ってたことは鮮明に覚えてるんだけど……


 俺がそうして戸惑っていると、つぼみんは思い出すように言葉を続ける。


「えっとね、何か……生徒会に誘うつもりだったのにさっき見たらあいつは愚鈍だったーとか……」


(……え?)


「あ、あとゲームの特別指定席の件も単なる偶然で、あいつに取れるわけないー……とか?」


(…………んん!?)


「そんなようなこと言ってたんだけど……これって、ホントだったりする?」


(なっ――――)


 その突然の展開に衝撃を受け顔が壊れそうになる。


 全身に一気に高揚感が押し寄せたからだ。


(――――なな、なんで分かったの!?!?)


 ――唐突に、俺のすべてを理解してくれたかのような完璧な意見が飛び出してきた。


(そうだよ……愚鈍なんだよ! その通りだよ! 全部偶然だし、ホント愚図で鈍間なんだよ!!)


 直前まで生徒会に誘うつもりだった、という部分は危なかったとしか言いようがないが、それ以降の内容が完璧すぎる見事なものだった。


 なぜそんな結論にたどり着いたのかは皆目見当もつかないが、昨日生徒会室にふらっと行っただけで、どうやら全ての真相をあの眉目麗しい生徒会長は暴いてくれていたらしい。


 これは本当に驚きだった。


 これまでも疑問を持ってくれる人はいたが、こんな感じで全てを分かってくれるような人は現れたことが無かったため、そのことにものすごく喜びを覚える。


 ……まさか生徒会長がこんなにも俺のことを正確に評価してくれる人だったとは。


 最初の印象では怖そうな人だと思っていたが、実際には俺にとって救世主のような存在だったということか。


 俺は今まで散々否定を重ねてきてはそのたびに失敗をしてきた経験があるだけに、もはや噂や実績を否定すること自体に恐怖に似た感情を持っていた。


 もう諦めに近い気持ちを抱いていたのだ。


 しかし今なら……


 正当な評価をしてくれる人がいる今ならば、そんな恐れを忘れて全力で否定が出来そうだと思える。


 しかも、生徒会長という立場にある人が俺の正体を見抜いてくれたのなら、その言葉には重みがあるはずだ。


 周囲の人たちも、さすがに信じてくれるんじゃないだろうか。


 だから俺は返答を待つ二人に向かい、意気揚々として正直に全てを打ち明けることにした。


「――ああ、なんだ、そのこと?……それはそうでしょ! あんなの偶然以外の何物でもないって! マジで俺、なーんにもしてないから」


蓮「生徒会長、万歳!バンザーイ!」

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