表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/44

第8話『秘密の図書室と、ふたりの未来図』

舞踏会の夜、王女ではなく“ひとりの少女”として手を差し出したリュシア。

その思いに応えたティアナとの距離は、確かな絆へと変わり始めている。

そんなある日、リュシアは“とっておきの場所”へとティアナを連れ出す――

「ついてきて」


リュシアはそう言うと、普段は通らない裏廊下へと歩き出した。


「えっ、ここ……貴族専用区域じゃ?」


「大丈夫。案内してるのは、王女だから」


確かに。

でも、なんだか秘密の冒険みたいで、ティアナの心は躍っていた。


石造りの階段を降り、回廊をくぐり抜け、やがてたどり着いたのは――

ひっそりと佇む、重厚な扉。


リュシアが鍵をひとつ取り出し、静かに扉を開ける。


「ようこそ、秘密の図書室へ」


そこは、ほの暗いランプに照らされた静かな空間だった。

天井まで届くほどの本棚。古びた革表紙。手書きの巻物。

そこにあるものすべてが、“知の宝物”のように輝いていた。


「わあ……すごい……!」


「昔、ここでひとりで本を読んでいたの。

……でも今は、あなたと来たくなった」


「リュシアさま……」


「……この中で、いちばん好きな本があるの。見せてあげる」


彼女が選んだのは、一冊の童話のような装丁の本。

表紙には、手をつないだふたりの影が、星空の下で笑っているイラスト。


『星の約束』――それがタイトルだった。


ページをめくりながら、リュシアが語る。


「ふたりの少女が、星に願いをかけて、いつか一緒に世界を旅する話。

……子どもの頃、この本を読んで、わたしも“誰かと一緒に”って夢を見たの」


「それって……」


「今も、叶えたいと思ってる」


ティアナは、胸がぎゅっとなるのを感じた。


「……その“誰か”に、わたしはなれますか?」


リュシアは、静かにうなずいた。


「あなたとなら、きっと世界のどこへでも行ける気がする」


「じゃあ、決まりですね。旅の相棒は、わたしで!」


「ふふ……ずいぶん強引ね」


「だってもう、わたし、リュシアさまといる時間が、好きなんです」


そのとき、リュシアが本を閉じて、そっと言った。


「わたしもよ」


それは、どんな言葉よりも――まっすぐな気持ちだった。


秘密の図書室の静けさの中、ふたりだけの未来が、ほんの少しだけ形を持ち始めていた。

誰も知らない図書室で、誰にも言えなかった夢を語る。

ティアナとリュシア――ふたりの心が初めて、“未来”という言葉で結ばれました。


次回、第9話は:

『リュシア姫と、やきもちという名の感情』

ある日、ティアナが城の騎士と親しく話していたのを見たリュシアは……?

知らず知らず芽生えた感情に、姫の心はざわつき始めます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ