表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/47

第7話『舞踏会と、隣に立ちたい人』

今宵、城では年に一度の盛大な舞踏会が開かれる。

王族と貴族が一堂に会する華やかな社交の場。

そんな中、リュシア王女の“付き侍女”として、ティアナも参加することに――

ドレスに身を包んだふたりは、それぞれの想いを胸に夜会の光の中へ。

「……わたし、本当にこれで大丈夫でしょうか……?」


ティアナは鏡の前で自分を見つめ、固まっていた。


髪はふわりと巻かれ、淡いピンクのドレスに白いレースの手袋。

いつもの侍女服とはまるで別人のような姿だった。


「かわいいわ。よく似合ってる」


後ろから静かに声をかけたのは、もちろんリュシア王女。


彼女も今夜は、月光を編んだような銀のドレスを身にまとい、

いつもよりも少しだけ華やかな化粧をしている。


それでも、凛とした空気はそのまま。

やっぱり、まぶしいくらいに美しかった。


「リュシアさまこそ、綺麗すぎて誰も近寄れないですよ……!」


「そうかしら?」


「絶対そうです!」


リュシアは、少しだけ目を伏せて言った。


「――本当は、あまり好きじゃないの。こういう場」


「……人がたくさんいるから?」


「それもあるけれど……誰も“わたし”を見ていない気がするのよ。

見ているのは、“王女”だけ」


ティアナは、そっと微笑んだ。


「……じゃあ、わたしがちゃんと見てます。

“リュシアさま”として。ひとりの人として」


その言葉に、リュシアは目を見開いた。

けれど、すぐに柔らかく口元を緩める。


「……じゃあ、今夜は“わたしの侍女”じゃなくて、“あなた”として隣に立ってくれる?」


「……え?」


「あなたが望むなら、だけど」


「――もちろん、望みます!」


緊張で指が震えそうだったけど、ティアナはうなずいた。


(王女の隣に立つ。それって……特別なことだ)


* * *


舞踏会の会場に入った瞬間、ティアナはそのきらめきに目を奪われた。


シャンデリアの光、音楽、踊る人々、笑い声――

まるで夢の中の世界だった。


リュシアは堂々とした足取りで歩きながら、時折振り返ってティアナを見やった。


「……緊張してる?」


「めちゃくちゃしてます!!」


「ふふ、正直ね」


そのとき、楽団がバイオリンを奏で始め、

人々が円を描いて舞踏を始めた。


ふと、リュシアが手を差し出してくる。


「……踊る?」


「わ、わたしと!?」


「だめ?」


「いえ、むしろ光栄すぎて緊張で足がもつれそうです!」


ティアナは手を取り、そっと立ち上がる。

見よう見まねのステップ。ぎこちない動き。


でもリュシアは、ティアナの手をぎゅっと握って、ささやいた。


「……今夜だけは、“王女”じゃなくて“わたし”を見て」


「ずっと見てます、リュシアさま」


ふたりは、星のような光の中で、ゆっくりと回る。


それは、誰にも邪魔されない――たったひとつの舞踏だった。

光と音に満ちた夜、

“王女”ではなく“リュシア”として手を差し出した彼女に、

ティアナはまっすぐに応えました。

心と心が重なり、ふたりの関係はまた少し、特別なものへ。


次回、第8話は:

『秘密の図書室と、ふたりの未来図』

リュシアがティアナだけに案内する“誰も知らない場所”。

そこで語られる、“夢”の話――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ