第6話『王女と剣と、ふたりの距離』
“月を一緒に見る”約束を交わした夜から、
ティアナは少しずつ、リュシア王女のことをもっと知りたくなっていた。
そしてある日、偶然通りかかった訓練場で――
王女の“誰にも見せていない顔”を見つける。
朝の仕事を終えたティアナは、洗濯物を干すために裏庭の方へと向かっていた。
その途中、小さな木製の扉の先から――何かがぶつかる、鋭い音が聞こえてくる。
「……剣の音?」
好奇心に誘われてそっと扉を開けると、
そこは見晴らしの良い私設の訓練場だった。
そして、その中央にいたのは――
「……リュシアさま?」
王女が、剣を持っていた。
軽やかな足さばきで前へ出て、流れるような動きで木剣を振る。
小柄な身体からは想像できないほどの鋭さと力強さがあった。
「はっ!」
打ち込まれるたび、風が鳴り、空気が切り裂かれる。
いつもは静かで、どこか触れがたいリュシア王女。
でも今の彼女は、まるで別人のように――“生きていた”。
その真剣な表情に、ティアナは思わず息をのむ。
「……見ていたのね」
「ひゃっ!? す、すみません!」
気づかれたことに慌てて隠れようとすると、リュシアは剣を納めながら近づいてきた。
「……恥ずかしいところを見せたわね」
「い、いえ、全然! むしろ、かっこよかったです! 惚れ直しました!」
「惚れた覚えがあったのね」
「いえ、えっと、それはその……っ!?」
「……冗談よ」
からかうような口調なのに、顔は相変わらず無表情。
だけど、頬がほんのり赤いのを、ティアナは見逃さなかった。
「剣、好きなんですね?」
「……子どもの頃、父に少しだけ教わったの。……護身用として」
「……わたしも、ちょっとだけ教えてもらえませんか?」
「あなたが剣を?」
「はい! だって、リュシアさまに何かあったとき、守れるようになりたいなって……」
その瞬間、リュシアの目がふっと揺れた。
何かを隠すように、でも嬉しさが滲むように。
彼女は木剣を一本、ティアナの前に差し出した。
「……握ってみなさい」
「はいっ!」
――そして、ふたりの初めての“剣の時間”が始まった。
打ち合う音。
風のにおい。
リュシアの手の温もり。
どれもが、心の距離を少しずつ近づけていった。
静かな王女の、熱を持った剣。
それに触れたティアナは、またひとつ“彼女だけの一面”を知りました。
同じ時間を過ごし、同じ想いを抱くふたりの距離は、確実に縮まっていきます。
次回、第7話は:
『舞踏会と、隣に立ちたい人』
城で開かれる夜会。ドレスをまとったふたりは、人目の中で何を思う?
ひとときのきらめきの中で、恋心がふわりと揺れます――