表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/43

第6話『王女と剣と、ふたりの距離』

“月を一緒に見る”約束を交わした夜から、

ティアナは少しずつ、リュシア王女のことをもっと知りたくなっていた。

そしてある日、偶然通りかかった訓練場で――

王女の“誰にも見せていない顔”を見つける。

朝の仕事を終えたティアナは、洗濯物を干すために裏庭の方へと向かっていた。

その途中、小さな木製の扉の先から――何かがぶつかる、鋭い音が聞こえてくる。


「……剣の音?」


好奇心に誘われてそっと扉を開けると、

そこは見晴らしの良い私設の訓練場だった。


そして、その中央にいたのは――


「……リュシアさま?」


王女が、剣を持っていた。


軽やかな足さばきで前へ出て、流れるような動きで木剣を振る。

小柄な身体からは想像できないほどの鋭さと力強さがあった。


「はっ!」


打ち込まれるたび、風が鳴り、空気が切り裂かれる。


いつもは静かで、どこか触れがたいリュシア王女。

でも今の彼女は、まるで別人のように――“生きていた”。


その真剣な表情に、ティアナは思わず息をのむ。


「……見ていたのね」


「ひゃっ!? す、すみません!」


気づかれたことに慌てて隠れようとすると、リュシアは剣を納めながら近づいてきた。


「……恥ずかしいところを見せたわね」


「い、いえ、全然! むしろ、かっこよかったです! 惚れ直しました!」


「惚れた覚えがあったのね」


「いえ、えっと、それはその……っ!?」


「……冗談よ」


からかうような口調なのに、顔は相変わらず無表情。

だけど、頬がほんのり赤いのを、ティアナは見逃さなかった。


「剣、好きなんですね?」


「……子どもの頃、父に少しだけ教わったの。……護身用として」


「……わたしも、ちょっとだけ教えてもらえませんか?」


「あなたが剣を?」


「はい! だって、リュシアさまに何かあったとき、守れるようになりたいなって……」


その瞬間、リュシアの目がふっと揺れた。


何かを隠すように、でも嬉しさが滲むように。

彼女は木剣を一本、ティアナの前に差し出した。


「……握ってみなさい」


「はいっ!」


――そして、ふたりの初めての“剣の時間”が始まった。


打ち合う音。

風のにおい。

リュシアの手の温もり。


どれもが、心の距離を少しずつ近づけていった。

静かな王女の、熱を持った剣。

それに触れたティアナは、またひとつ“彼女だけの一面”を知りました。

同じ時間を過ごし、同じ想いを抱くふたりの距離は、確実に縮まっていきます。


次回、第7話は:

『舞踏会と、隣に立ちたい人』

城で開かれる夜会。ドレスをまとったふたりは、人目の中で何を思う?

ひとときのきらめきの中で、恋心がふわりと揺れます――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ