第48話『初めてのキスは、陽だまりのなかで』
言葉で気持ちを伝えあったその先にあるもの――
触れ合う距離でしか伝えられない、もうひとつの“約束”。
ふたりにとっての、はじめての“本気のキス”の朝。
春の朝は、やわらかくて、やさしい。
城の中庭に差し込む朝陽は、
まるで絹のようにやわらかくふたりを包みこんでいた。
リュシアは、ティアナの横顔を見つめていた。
昨日――初めて「好き」と伝えた日から、一晩。
目が覚めても、心がずっとぽかぽかしている。
「ティアナ……ちょっと、顔をこっちに向けてくれる?」
「え? はい……」
ティアナが振り返ると、リュシアはほんの少しだけ、困ったように笑った。
「……朝だし、タイミングおかしいかもしれないけど。
どうしても、したくなっちゃって」
「……リュシア様?」
「キス。ちゃんと、“恋人としてのキス”……してみたいの」
ティアナは一瞬、驚いたように瞬きをしたあと――
その頬が、ゆっくりと紅に染まっていった。
「……はい」
たったひとことが、そっと風に乗った。
ふたりの距離が、ゆっくりと近づいていく。
リュシアの手が、ティアナの頬に触れた。
いつもは毅然とした王女の指先が、今日は少しだけ震えていた。
そして――
唇と唇が、静かに、そっと重なる。
それは長くもなく、短くもない、
ただ、たしかに“気持ちを伝えるため”だけのキスだった。
触れた瞬間、ティアナの目から、ひとすじの涙がこぼれた。
「……ごめんなさい。なんだか……すごく、嬉しくて」
「泣かないで……わたしも泣きそうになるじゃない」
ふたりは顔を寄せ合って、小さな笑い声を交わす。
これまでの時間。言えなかった想い。
踏み出すのが怖かった距離。
全部を超えて、
ようやく手にした、ひとつの答え。
「……これからも、こうやって。
あなたの隣で、朝を迎えたい」
「はい。わたしも、ずっと――」
陽だまりのなか、ふたりは再び、そっと口づけを交わした。
言葉がなくても、もう伝わる。
これは、ふたりだけの新しい約束。
はじめてのキスは、ぎこちなくて、やさしくて、
そして、まっすぐな気持ちの証。
“恋人”としての新しい朝が、いま静かに始まりました。
次回、第49話は:
『未来のことを話してみよう』
ふたりが初めて向き合う“これから”の話。
王女と侍女――その先にある未来を、どう描いていくのか。
静かに始まる、“夢を語る時間”。




