第42話『一緒に笑えるという奇跡』
身分も、立場も、まるで違うふたり。
だけど――ふとした拍子に笑いあえたとき、
「あぁ、こんなにも近くにいられるんだ」と思える。
今日はそんな、ふたりにとっての小さな奇跡の物語。
「……それでね、その兵士さんが言ったの。“鎧がきつすぎて前にかがめません”って!」
「ぷっ……ふふ、それはちょっと……想像してしまいました……!」
ティアナが袖で口元を押さえながら笑うと、
向かいに座っていたリュシアも、つられて笑い声を上げた。
「ふふっ、久しぶりにティアナがちゃんと笑ってくれた気がするわ」
「え……わたし、そんなに笑ってませんでしたか?」
「うん。ここ最近は、どちらかというと“見守るモード”だったかも。
それも好きだけど……今日は、もっと顔が明るい」
ティアナは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「……リュシア様が楽しそうだったから、つられてしまっただけです」
「じゃあ、わたしもつられてるわね。あなたが笑うと、わたしも笑っちゃうもの」
そんなやりとりのあと、ふたりの間に、心地よい静けさが流れる。
いつもの部屋、いつもの紅茶。
でも今日の空気は、少しだけ軽くて、やさしかった。
「……ティアナ」
「はい?」
「前にも言ったけど、“あなたと一緒に笑えること”って、奇跡みたいだと思ってるの」
「……それは、わたしも」
リュシアはティアナの手に、自分の手を重ねた。
「たとえ誰かに咎められても、
たとえ未来がどうなっても――
いま、あなたとこうして笑ってる時間が、いちばん大切」
「……そんなふうに言っていただけるなら、
わたしも、心から笑っていたいって思えます」
ふたりの指先が、自然と絡み合う。
笑うことは簡単なようで、難しい。
けれど――隣にいてくれる人がいれば、
その笑顔は、もっとあたたかくなる。
「一緒に笑える」ということは、
本当はとても尊くて、奇跡のようなこと。
だからふたりは、今日という日を大切に刻んでいきます。
次回、第43話は:
『恋人らしいこと、してみたい』
ふとしたつぶやきから始まった、リュシアの「恋人らしいこと計画」!?
不器用な王女と戸惑う侍女が織りなす、ちょっぴり甘くて初々しい一日。




