第41話『ふたりだけの合図』
王女と侍女。
“恋人同士”であることは、誰にも明かせない。
だからこそふたりは、こっそりと、
誰にも気づかれない“合図”を作った。
王宮の中庭。
大臣たちとの謁見を終えたリュシアは、
控えめな笑みを浮かべて一礼し、丁寧に会話を締めくくった。
そのすぐ後ろ、静かに控えていたのはティアナだった。
(……長くなりましたね、今日は)
彼女は小声でそうつぶやきながら、リュシアの肩にかかる髪をそっと整える。
そのときだった。
リュシアが、自分の左手で右の袖を少し引いた。
ほんの一瞬、わずかな仕草。
(……あ)
ティアナはそれを見て、小さくうなずいた。
“水が飲みたい”――それが、その仕草の意味だった。
* * *
「リュシア様、控え室にお水を準備しております。少しだけ、お顔のほてりも冷やされると良いかと」
「ええ、ありがとう。少し休ませていただくわ」
そう告げて、ふたりは揃って控え室へ向かった。
扉が閉まった瞬間、リュシアはふぅっと息を吐いた。
「……疲れたぁ~~~!」
「おつかれさまでした。たぶん大臣よりも演技がお上手でしたよ」
「だって、“王女らしく”振る舞わなきゃいけないんだもの。
でも、それよりティアナ、ちゃんと合図に気づいてくれて嬉しかった!」
リュシアは無邪気に笑って、ティアナにぎゅっと抱きつく。
「……誰にも知られない関係って、ちょっと切ないけど――
こうやって“合図”で気づいてもらえると、
“ちゃんと繋がってる”って思えるの」
「わたしも、同じです。
言葉にできないからこそ、わたしにしか気づけない“あなた”を大事にしたいです」
ふたりの視線が、自然と重なる。
言葉がなくても通じ合う、小さなサイン。
それは、ふたりだけの“秘密の言語”。
誰にも言えない関係だけど、
だからこそ、育てられる絆があった。
堂々と「好き」と言えなくても、
ふたりだけにしかわからない“合図”がある。
それは、誰にも壊せない、信頼と愛のしるし。
次回、第42話は:
『一緒に笑えるという奇跡』
どんなに立場が違っても、
“あなたとなら、こんなに笑える”――
そんな日常の中の奇跡が、ふたりの距離をまたひとつ近づけます。




