第3話『姫さま、お昼寝する!?』
「氷の姫」と呼ばれるリュシア王女。
けれどティアナは、ほんの少しずつその“素顔”を知り始めている。
そしてある日、偶然見てしまったのは――
誰にも見せていない姫の、ちょっとかわいい一面で……?
その日、リュシア王女は昼過ぎから謁見を終え、
「少し休むわ」と言って部屋へ戻った。
(お姫さまも疲れるんだなぁ……)
そんなことを考えながら、ティアナは静かに扉をノックして入室する。
本来なら、王女の休息時間中は誰も部屋に入らないのがマナー。
けれど、今日は“忘れ物”を取りに来たのだ。
(あの書類……確か机の上に置いたままだったはず)
できるだけ足音を立てず、そっと部屋の奥に進む。
……そして、そこでティアナは見てしまった。
カーテン越しの光に照らされた寝椅子の上――
そこに横たわっている、リュシア王女の姿を。
ドレスのまま、ひざを軽く抱えるようにして眠っている。
ふだんは凛として背筋を伸ばしている彼女が、今は柔らかく丸まっていて、
その表情は、あまりにも……幼く、無防備だった。
「…………」
しばらく言葉を失って立ち尽くしたあと、
ティアナはそっと微笑んでつぶやいた。
「……かわいい……」
まさかあの“氷の姫”に、こんな一面があるなんて。
少し安心したような、嬉しいような、不思議な気持ちになった。
(なんか……ちょっとだけ、特別なことを知っちゃったみたい)
そう思って静かに引き返そうとした、そのとき――
「……見たわね?」
「ひゃああっ!!?」
突然の低い声に飛び跳ねた。
振り返ると、寝椅子の上で目を開けたリュシアが、じっとティアナを見つめていた。
「ご、ごごごめんなさい!! あの、書類を取りに来ただけで!」
「……寝顔を見たのは、偶然?」
「はい! 見るつもりはなくて……でも、見たら、ちょっと可愛いなって……はっ、いえっ、あっ、今の取り消しで!!」
顔面蒼白のティアナに対して、リュシアは静かに目を細める。
「……別に、怒ってはいないわ」
「えっ?」
「ただ……“かわいい”と言われたのは、はじめて」
「え……ほんとに?」
「ええ。いつも“冷たい”とか“怖い”とか……そんな言葉ばかり」
ティアナは黙って、リュシアを見つめた。
表情は淡々としていたけれど――
その目は、どこか嬉しそうで、でも少しだけ戸惑っていて。
「……じゃあ、私がこれからいっぱい言いますね。リュシアさまのかわいいところ」
「……あなた、変わってるわね」
「よく言われます」
クスッと笑うと、リュシアは目を伏せて、少しだけうつむいた。
「……そう。じゃあ、よろしくね。“侍女さん”」
その声は、どこかくすぐったそうだった。
誰も知らない素顔を、偶然知ってしまったティアナ。
それは、たしかに心の距離を縮める“鍵”になったようです。
少しずつ、ふたりの関係にやさしい変化が訪れています。
次回、第4話は:
『姫さまのご機嫌と、まさかの対決!?』
リュシア王女が突然ティアナに“勝負”を挑む!? その意外な内容とは?
お楽しみに!