第37話『おひめさま、迷子になる(館内限定)』
ほんの数分、目を離しただけ――
それなのに「リュシア様がいない!?」
城内限定で起こった、“王女様の迷子事件”の真相とは?
ドタバタしつつも愛に満ちた、ふたりの再会の一日です。
午前中、執務室の整理がひと段落し、
ティアナはほんの数分、書類を取りに別室へ向かっていた。
だが――戻ってくると、そこにはいたはずの王女の姿がない。
「……リュシア様?」
静まり返った部屋。
座っていたはずの椅子には、温もりだけが残っていた。
(え……ど、どこ行っちゃったの!?)
ティアナは慌てて探しはじめた。
しかし、城内は広く、ちょっと歩いただけで分岐だらけ。
(ま、まさか本当に迷子……!? いえ、でもリュシア様だし……)
とはいえ、王女とはいえ方向音痴なのは確かだった。
* * *
「ええと、こっちだったかしら……あれ、ここ厨房?」
そのころ、当のリュシアはというと、
甘い香りに誘われていつのまにか厨房の裏通路へと入り込み――
「あっ、リュシア様!? い、いかがなさいました!?」
「だめよ、見つけないで。これはお忍びなの」
「まるで脱走者のような……!」
結局、厨房のスタッフに捕獲(?)され、
おやつ用のパイを手に持たされて送り出されるリュシア。
だが彼女の頭の中には、**「いまさら戻ったら気まずい」**という思考があった。
(ティアナ、怒ってるかしら……やっぱり心配したかしら……)
そう思うと、なんとなく素直に帰れなくなって――
リュシアは今度は図書室に身を隠してしまう。
* * *
一方、ティアナは半ば本気の捜索モードに突入していた。
「リュシア様は、小動物と食べ物に弱い……ということは……温室か、厨房、または菓子庫!?」
「ティアナさん、推理が名探偵みたいです」
「もはや生活パターンが読めてきましたから!」
そんな中、最後にたどり着いたのは、静かな図書室。
ふと奥のソファを覗くと――
「……あ」
「……ティアナ……」
毛布にくるまりながら、パイを抱えてちょこんと座る王女様。
その姿に、ティアナの緊張が一気に抜けた。
「……何をしてるんですか?」
「……その、探してくれてるかなって思って……ちょっと照れて……隠れてました……」
「……子どもですか……」
「ごめんなさい……」
ティアナはそっとソファに腰を下ろした。
「……見つけたからには、もう逃がしませんよ?」
「うん、つかまった……もう、ずっとここにいる」
そう言ってリュシアは、そっとティアナの肩に頭を預けた。
静かな午後、図書室の一角で――
ようやくふたりは、そっと手を重ねた。
小さな迷子事件は、ふたりにとっての“確認”の時間でもありました。
どこにいても、誰より早く見つけてくれる。
そんな安心が、愛の形のひとつなのかもしれません。
次回、第38話は:
『わたしの恋人は、王女です』
ついに街へおでかけ!?
ティアナが“恋人”として向き合う、ちょっと照れくさくて、とても誇らしい一日。




