第36話『王女のおひるね騒動』
雨の日の余韻が残る午後。
「ちょっとだけ寝よう」と言ったリュシアは、想像以上に“ふにゃふにゃ”だった!?
城の中を巻き込む、王女様の“おひるねモード”開幕です!
「……じゃあ、ちょっとだけ寝るわね……ほんの十五分くらい」
そう言って、リュシアはティアナのベッドにもぐり込んだ。
ティアナはほほえましく見守りながら、小さくうなずく。
「おやすみなさい、リュシア様。十五分だけですよ?」
「うん……ほんとにちょっとだけ……」
その言葉から、二時間後。
「……リュシア様、そろそろ……」
ティアナがそっと声をかけると、布団の中からくぐもった声が返ってきた。
「ん~……やだ……まだねむい……」
「ですが、王宮の文官たちが“昼の報告が受けられません”って言ってまして……」
「おやすみ……世界……もうちょっと……」
ティアナは困り果てて、額に手を当てた。
(これが……“ふにゃふにゃモード”……!)
* * *
そんな中、控えの間に集まった使用人たちはざわついていた。
「リュシア様が、起きてこられない……?」
「まさかご病気では……」
「……いや、あれはきっと、“ただの熟睡”だな」
そう呟いたのは、執事エルマンだった。
「姫様は、ああ見えてたまに“電池切れ”になるのです。いわば、王族バッテリー強制休眠モード」
「……なんて高度な生命体……」
* * *
一方そのころ、ティアナはあの手この手で起こし作戦を試みていた。
・優しく声をかける →「むにゃ……あと五分……」
・そっと背中をさする →「あったかい……もっと……」
・窓を開ける →「寒っ! でも布団あったかい……」
最終手段として、ティアナは耳元でささやいた。
「……おやつ、食べますか?」
バサッ!
「……食べる!!」
一瞬で飛び起きるリュシアに、ティアナは思わず笑いをこらえた。
「……リュシア様、どれだけ“食”に忠実なんですか……」
「ティアナのおやつって聞いたら、自然と身体が反応しちゃったのよ……」
「もう、しょうがないですね」
ティアナはそっと紅茶と焼き菓子を差し出した。
「はい。寝起きの“復活のおやつ”です」
「わぁぁ……愛を感じる……!」
もぐもぐと幸せそうに頬をふくらませるリュシアに、
ティアナはようやく安堵の息をついた。
(……でも、こういう時間も嫌いじゃないな)
たった十五分のつもりが、午後を丸ごと溶かした“おひるね騒動”。
でも、そんなだらけた時間も、ふたりにとっては特別な思い出。
だって、どんなリュシア様でも、ティアナはちゃんと見守ってるから。
次回、第37話は:
『おひめさま、迷子になる(館内限定)』
ちょっと目を離したすきに、リュシアが行方不明!?
館内で起こる、“甘くてちょっぴり心配な”迷子騒ぎがはじまります!




