第34話『リュシア様、初めてのおつかい(城内限定)』
「ふたり分のおやつがほしい!」――その一言で始まった、王女のミッション。
城内限定とはいえ、ひとりで出歩くには“姫様”にはハードルがいっぱい!?
甘い午後のための、ちいさな冒険が始まります。
昼下がり。
陽だまりの中庭で、ティアナが紅茶を準備していると、リュシアがふと立ち上がった。
「そうだ、おやつがないわ」
「え、ええと……台所に言っておけば用意してもらえますけど?」
「だめよ。それじゃ味気ないじゃない。せっかくなら、“わたしが選んだおやつ”をティアナと食べたいの」
「リュシア様……また突然ロマンチストになる……」
「というわけで、行ってきます!」
そう言って、リュシアはくるっと踵を返し、勢いよく中庭を飛び出した。
* * *
「よし……まずは、厨房へ!」
だが、その道中。
「リュシア様、こちらにご視察を――」
「いえ、今ちょっと急ぎで!」
「書記官が――」
「後でお願いします!」
「リュシア様、こんなところで走るなんて……!」
「ちょっとおやつが足りないだけなんですー!」
どたどたどたどた!!
王女が全力で走る姿に、使用人や衛兵たちが道を開けていく。
だがリュシアは真剣だ。なぜならこれは、“ティアナとおやつ”という重要任務だからである。
「すみませーん! あの、クッキーと果物と、ええと……甘いやつ全部ください!」
厨房の料理人たちは一瞬絶句し――やがて吹き出した。
「リュシア様直々に!? なんて光栄な!」
「でも、こんなに持っていかれては晩餐の分が……」
「そこをなんとか!」
* * *
そして数十分後――
「ただいま、ティアナ!」
リュシアは両腕いっぱいに菓子と果物とクリームを抱えて中庭に戻ってきた。
髪は少し乱れ、ほっぺたには粉砂糖がついている。
「……リュシア様、これは……どうしてこうなったんですか……」
「“おやつ”は行動力と熱意で選ぶのよ!」
「選ぶというか、略奪というか……でも、なんだか楽しそうですね」
「もちろんよ。だって、あなたと一緒に食べるから」
ティアナは笑って、リュシアの頬にそっと手を伸ばした。
「……まずはこのお砂糖、取りましょうね」
「きゃっ……! ティアナの手、ひんやりして気持ちいい……」
午後の陽差しの中、ふたりは並んでおやつを囲み、
幸せな午後を分け合った。
リュシアの“初めてのおつかい(?)”は、ちょっぴりドタバタで、たっぷり甘い結末に。
好きな人と一緒に食べるおやつって、どうしてこんなに特別なんでしょう。
次回、第35話は:『雨音に寄り添う日』
ある静かな雨の日。
外に出られない代わりに、ふたりの心が静かに寄り添っていく――そんな時間をお届けします。




