第33話『ふたりで朝ごはん、という名の小さな戦争』
王女リュシア、恋人のために朝食づくりに挑戦――!
慣れない手つきと暴れまわる卵、そして騒ぎを聞きつけた執事エルマン。
ふたりの“おはよう”が、にぎやかな戦場から始まります。
「ティアナ、今日はわたしが朝ごはんを作るわ!」
「えっ……リュシア様が……?」
「恋人に手料理を振る舞うのって、憧れじゃない? わたし、前から一度やってみたかったの」
「で、でも……包丁、握ったことありましたっけ?」
「あるわよ! ……たしか、一度だけ、果物を切ろうとして指を切ったことが」
「そ、それは“握った”とは言わないですっ」
すでに不安しかない会話を交わしながら、
ふたりは王城の小さな調理室に入った。
「まずは目玉焼きね。簡単そうだし」
リュシアは自信満々に卵を片手で――
バシッ!
「うわっ……! あっ、殻ごと入った!? しかも片手で割らないでくださいって昨日の料理書にも……!」
「うぅ……なんでこんなに卵ってつるつるしてるの……!」
「それ、もう三個目ですリュシア様……!」
そこからは完全に“戦場”だった。
火加減を間違えて焦げたトースト、牛乳を温めすぎて爆発する鍋、
味見を忘れて“塩だけのスープ”になった謎の液体。
――そして、ドアの向こうから静かに様子を見ていた執事エルマンが、ついに動く。
「……失礼いたします」
「わっ、エルマンさん!? 見てたんですか!?」
「見ていたというより、卵の断末魔の叫び声で目が覚めました」
「も、申し訳ありません……」
エルマンは淡々と調理器具を片付けながら言った。
「ですが、その……お気持ちは、実に立派かと」
「えっ……?」
「王女自ら、恋人のために朝食を作るなど前代未聞です。
腕は――今後の伸びしろに期待しましょう」
「うぅ……辛口だけど、やさしい……」
「せっかくですので、この焦げていないトーストと、味が比較的無難なスープで朝食を」
ふたりはようやく、テーブルについた。
そして――
「……おいしい、です」
「本当? 焦げてないから?」
「それもありますけど……“誰かが自分のために作ってくれた朝ごはん”って、なんだか、あたたかいです」
リュシアは照れたように笑い、
ティアナのカップにそっとミルクを注いだ。
「次は、焦げない料理に挑戦するわね」
「期待してます、“伸びしろ”に」
ふたりの朝は、今日もにぎやかで愛おしかった。
料理はちょっと失敗しても、気持ちは100点満点。
恋人のための朝ごはん――それはただの食事じゃなく、
ふたりで築いていく毎日の第一歩でした。
次回、第34話は:
『リュシア様、初めてのおつかい(城内限定)』
今度はリュシアが“ふたり分のおやつ”を求めて、
こっそり城内を走り回るちょっとした冒険へ――!




