第32話『朝起きたら、隣にリュシアがいた件』
仮の同居生活、一泊目。
静かな夜を越えて迎えた朝――そこには、まさかの“姫様寝相事件”が!?
恋人同士の距離感が試される(?)、ほのぼの全開の朝の始まり。
――朝。
「……ん、んん……?」
ティアナはまぶたをゆっくりと開けた。
カーテンの隙間から、やさしい朝の光が差し込んでくる。
頭がまだぼんやりしている中、まず感じたのは――
(……あれ? なんだか、あったかい……?)
ふと横を見ると、そこには……!
「…………リュ、リュシア様ぁっ!?」
ベッドの隣、というより、ベッドの半分以上を堂々と占拠しているリュシアが、
満面の安らかな寝顔で、ティアナにぴとっと頬を寄せていた。
「おはよう……ティアナぁ……むにゃ……もう五分……」
「いえ、まだ目覚めないでください! というかどうしてここに!?」
「え、だって……夜、寒いって言ったじゃない」
「言ってましたけど! ちゃんと“今日は別々のベッドで”って約束したじゃないですかぁぁ……!」
「でも、ひとりで寝てたらなんだか寂しくなって……つい、こっちに来ちゃったの……えへへ」
そんな子どもみたいな言い訳をしながら、リュシアは腕を伸ばしてティアナを抱きしめる。
「ちょっ……だ、抱きしめるの禁止です! 朝です! 目覚めです!」
「いいじゃない……朝だからこそ、ぬくもりを分け合うの……」
「リュシア様、王女としての威厳はどこへ……!」
「今は恋人モードだから、ノーカウントよ」
ティアナは必死に抵抗しつつも、
リュシアの寝起きのぬくもりに、ほんの少しだけ心がほどけてしまう。
(……ほんと、ずるい)
結局、ふたりがようやく起き上がったのは、朝の鐘が三つ鳴ったあとだった。
* * *
その後、朝食の席で執事のエルマンにやんわりと注意され、
「“王女の寝相で侍女をベッドの端に追いやる件”については、以後改善をお願いします」
と記録に残されたとか残されなかったとか――。
甘くて、照れくさくて、ちょっと寝坊。
恋人と迎える朝は、事件(?)だらけの愛しい時間。
ふたりの日常は、こうしてひとつずつ、幸せの記憶に変わっていきます。
次回、第33話は:
『ふたりで朝ごはん、という名の小さな戦争』
リュシアの料理チャレンジ勃発!?
恋人同士の朝ごはん――味はともかく、愛情だけは最高レベルです!




