第30話『そして、騒がしい朝が来る』
舞踏会の余韻冷めやらぬまま迎えた翌朝――
王城の空気は、ちょっとざわついていて、ちょっと騒がしくて。
でも、恋人同士の朝はどこまでも静かで、甘いものでした。
「――リュシア様、ちょっと! この噂、本当なんですかっ!?」
「いえ、わたくしは別に否定も肯定も……」
「侍女と、しかも昨夜あんなに堂々と!? いや、でも素敵でしたけど!」
朝の食堂に向かう通路。
リュシアは侍女たちに次々と話しかけられ、さすがに少し圧倒されていた。
「あの、リュシア様、おふたり……もう、その、夜もご一緒で……?」
「し、しませんっ! いえ、したとしても、えっと、あの、それは――」
顔を真っ赤にして混乱するリュシアに、そっとティアナが助け船を出す。
「リュシア様、そろそろ朝食のお時間です」
「た、助かった……」
ふたりは連れ立って食堂へ。
中にはすでに、王の側近や一部の貴族たちの姿もあったが、
昨夜の舞踏会の出来事は、すっかり朝の話題になっていた。
「……堂々としていてよかったぞ、ティアナ殿」
「あ、ありがとうございます……」
「リュシア様も、まったくあれほど大胆だとは思いませんでしたよ。
まるで自分の“未来”を宣言しているようで――」
「ええ、そうよ。その通り」
リュシアはにっこりと笑いながら、堂々と答える。
「ティアナと過ごす未来を、誰かの陰で隠す必要なんてないもの」
その強さに、周囲はしばし言葉を失い、そして少しずつ、拍手が起こった。
* * *
「……なんだか、昨日よりも恥ずかしいかも」
「でも、よかったですよ。皆、驚きながらも――ちゃんと受け入れ始めてます」
ふたりは城の中庭へ抜け、朝の空気を吸い込んだ。
花が咲き、鳥がさえずり、いつもと同じ朝なのに、どこか違って見える。
「ねぇ、ティアナ」
「はい?」
「これから毎朝、こうして一緒に歩けたらいいなって思ったの。
城の中でも、外でも。どんな日でも――」
ティアナはその手をそっと握った。
「わたしも、そう思ってます」
ふたりの一日は、まだ始まったばかりだった。
騒がしくも温かい朝。
王女と侍女が、恋人として過ごす日々は、少しずつ“日常”になっていきます。
視線も、ざわめきも超えて。
ふたりでいることが“当たり前”になる日々へ――。
次回、第31話は:
『ふたり暮らし、はじめました(仮)』
王城の一室。
恋人同士の、ちょっと不器用でちょっと幸せな共同生活、始まります!




