第28話『はじめての“公然の恋”』
ふたりの想いは、ついに王にも認められた。
けれど――それは「秘密の恋」から、「知られてゆく恋」への始まりでもある。
さまざまな視線の中で、ふたりはどう歩んでいくのか。
試されるのは、覚悟と、信じる心。
「……リュシア様と、ティアナ様が……?」
「本当? だって王女と侍女でしょ?」
「まさか……でも、最近たしかに距離が近いとは思ってたわ」
王宮の中庭。
朝の紅茶を楽しんでいた侍女たちのあいだで、ひそひそと囁かれる声が飛び交っていた。
リュシアは、その様子を遠くから見つめながら、ゆっくりと息を吐く。
「噂、広がってるわね」
「……はい。予想はしていましたけど、実際に聞こえてくると少し……」
ティアナの声が、どこか不安げに沈む。
けれどリュシアは、きっぱりと彼女の手を取った。
「堂々としていていいの。後ろめたいことなんて、何もないもの」
「……でも、あなたにまで影響が出てしまうかもしれません」
「それでも――あなたと手をつなぐこの瞬間を、わたしは誇りに思いたい」
ティアナの瞳に、光が戻る。
ふたりは手をつないだまま、中庭を歩き始めた。
ひとつ、またひとつ、視線が向けられる。
好奇、驚き、そして中には戸惑いや拒絶も混ざっていた。
だが――その中に、ひとり、穏やかにうなずく老執事の姿があった。
「……なるほど。おふたりとも、実に自然に歩かれておられますな」
ティアナが思わず立ち止まる。
「エルマンさん……」
「恋に貴賤はありません。ただ、おふたりの歩みに“真実”があるのなら、
それは誰にも否定できぬ価値でしょう。王が認められたのも、当然のことです」
「……ありがとう、ございます」
リュシアは深く頷いた。
「そうだ。ティアナ、次の舞踏会に一緒に来て」
「えっ……!? それって、公の場で――?」
「ええ。もう隠さないわ。
“王女の恋人”として、あなたを隣に立たせる。
どんな視線を受けても、わたしはあなたを誇りに思うから」
ティアナは少し頬を赤くしながら、小さくうなずいた。
「はい。……よろしくお願いします」
ふたりの手は、しっかりと握られたまま離れない。
誰かに認められることと、自分で選び取ることは、似て非なるもの。
ふたりは今、確かな覚悟をもって“見られる恋”を選びました。
その一歩一歩が、また新たな物語へとつながっていきます。
次回、第29話は:
『舞踏会と、ふたりの歩幅』
華やかな夜の舞踏会。
王女と侍女、恋人として初めて“人前に立つ”日がやってくる――。




