第26話『お別れと、もうひとつの約束』
ふたりきりの小旅行は、静かに終わりを迎える。
別れが寂しくないといえば嘘になるけれど――
それでも前を向けるのは、確かな約束があるから。
王女と侍女、そして恋人として歩むための、もうひとつの誓い。
朝の森は、夜露に濡れ、すがすがしい空気に満ちていた。
鳥たちのさえずりが響く中、ティアナは焚き火の跡を片付けながら、そっとリュシアを見た。
「そろそろ、戻る時間ですね」
「……ええ。名残惜しいけれど、旅には終わりがあるものね」
リュシアは微笑んだ。けれど、その声は少しだけ寂しげだった。
丘を下りながら、ふたりはゆっくりと言葉を交わす。
街が近づくにつれ、現実の輪郭が戻ってくるようで――
自然と足取りはゆるやかになっていた。
「……城に戻れば、また日常に戻るのよね。
侍女と王女。誰もが知っている“距離”に」
「けれど、心の距離は変わりません」
ティアナは立ち止まり、リュシアの手を取った。
「これからも、毎日の中で。
一緒に笑って、悩んで、支え合って――
恋人として、ちゃんと歩んでいきたいです」
「わたしも同じ気持ちよ」
リュシアの瞳に、決意が宿る。
「……ティアナ。わたし、父上に話すつもり。
“ひとりの人を愛したい”って。
王女としてではなく、“わたし自身の想い”として」
「……本気、なんですね」
「ええ。もし何かを失うことになっても、それでもあなたを選ぶ。
だから――支えてくれる?」
ティアナは迷わず、力強くうなずいた。
「もちろんです。どんな道であっても、リュシアと共に在りたい」
そしてふたりは、再び手をつなぎ歩き出す。
帰る場所は同じでも、これまでとは違う覚悟を胸に――
丘を越え、街が見えるころ、リュシアが小さくつぶやいた。
「……ねぇ、次の旅、もう考えておいていい?」
「はい。ふたりで行く未来の計画なら、いつだって歓迎です」
「じゃあ今度は、海が見える場所がいいな。波の音を聴きながら、のんびりしたい」
「……ふふ、また密かな逃避行ですね」
「いいえ。次は、“堂々とふたりで行く旅”にするのよ」
ティアナはその言葉に驚き、そして、笑顔で頷いた。
“ふたりの未来”は、もう怖くない。
小さな旅の終わりに交わした、もうひとつの約束――
それは、永遠の始まりだった。
旅の終わりは、ふたりの絆をさらに深め、
新たな決意と“未来の約束”をもたらしてくれました。
恋人として生きることを選んだリュシアの覚悟、
それに応えるティアナの想い――
ふたりの恋は、ますます確かなものへ。
次回、第27話は:
『王女、父と向き合う』
ついに、リュシアが王としての父と対峙する時。
許されるか否かではなく、自分の愛を貫くために――




