第25話『森での夜、ふたりの願い』
丘の上で初めてのキスを交わし、未来を誓ったふたり。
旅は続き、日は暮れ、森の奥で迎える初めての“ふたりきりの夜”。
焚き火の灯りの中、語られる願いは――恋人だからこそ願えるもの。
森の中、静かな小さな広場。
焚き火の炎が、ぱちぱちと木を焼く音だけが響いている。
ふたりは手作りの小さなテントに身を寄せ、
その前で湯を沸かしながら、ほっと息をついた。
「……こうして焚き火を見ると、旅してる実感が湧くわね」
リュシアが膝を抱えて、炎を見つめる。
「焚き火の音って、不思議と落ち着きますよね。
騎士団にいた頃、夜営のときは必ず囲んでたんです」
「ティアナ……本当に、色んな世界を知ってるのね」
「それでも、リュシアとこうして旅するのは――初めてです」
ふと、火の粉が上がり、空へと舞った。
それに合わせて、ティアナがそっとつぶやく。
「リュシア。ひとつだけ、願ってもいいですか?」
「ええ。何でも言って」
「この旅が終わっても、ふたりの時間が終わらないようにしたい。
……お城に戻って、また忙しくなっても、
あなたが“王女”でも、わたしが“侍女”でも……」
リュシアはそっとティアナの手を取った。
「わたしも願ってる。ずっと一緒にいたいって。
それに……この旅のあと、わたし、決めるつもり」
「決める?」
「……この恋を“隠す”んじゃなくて、“守る”って決めるの。
王女としてじゃなく、リュシアとして。
どんな形であっても、わたしはあなたと生きていくために……選ぶわ」
ティアナの瞳がわずかに揺れた。
けれどすぐに、その目は真っ直ぐに彼女を見返す。
「わたしも、リュシアと同じ気持ちです。
これからの道、共に選び、共に進みます」
焚き火の灯りに照らされて、ふたりの影が寄り添う。
森の夜は冷えるけれど、
言葉と心が通い合うその時間は、何よりもあたたかかった。
そして、夜空を見上げたリュシアが、ぽつりとささやいた。
「……ねぇ、ティアナ。星、きれい」
「はい」
「ねえ、ふたりの願い、届くと思う?」
「ええ。きっと、星より高く」
ふたりは肩を寄せ合い、夜の静けさに包まれながら、
ゆっくりとまぶたを閉じた。
“隠す”恋から、“守る”恋へ。
星空の下で語られたふたりの願いは、これからの未来を変えていく第一歩です。
静かな夜、心だけは確かに燃えていました。
次回、第26話は:
『お別れと、もうひとつの約束』
旅の終わりが近づく。
でも、それは別れじゃなく――次の未来へ向かうための、もうひとつの約束。




