第21話『ふたりでこっそり、夜のお茶会』
ヤキモチ騒動も落ち着いた夜。
「騒がしい昼の分、今夜は静かに甘やかして?」――
そんなリュシアのひとことから始まる、ふたりきりの秘密のお茶会。
月とキャンドルが照らす、誰にも知られない恋の時間。
その夜。
王城の一角、小さな物置部屋を改装した隠れ家――
ふたりだけの“お茶会の場所”に、ほのかな灯りがともっていた。
「……ふふ、来てくれて嬉しいわ。
この部屋、わたしのお気に入りなの。小さくて、誰も来なくて……あなたといるには、ちょうどいい」
「まるで秘密基地みたいですね。王女の、それも恋人だけが招かれる場所……なんだか特別です」
ティアナは銀のティーポットを持ち込み、丁寧に紅茶を淹れる。
リュシアの好みに合わせた、甘めのスパイスティー。
「今日はスイーツもあるのよ。城の厨房にお願いして、こっそり仕入れたの」
「まさか……それで昼間、侍女たちの目を盗んで厨房に――」
「秘密行動だったの。恋人のための、極秘任務よ」
「もう……からかわないでください」
ティアナは微笑みながらティーカップを渡し、
リュシアはうれしそうに頬をゆるめた。
窓の外には月。
部屋の中はキャンドルの揺らめきと、ふたりの笑い声だけ。
「……こういう夜があると、全部忘れたくなってしまうわ。
王族だとか、義務とか、立場とか……全部」
「でも、全部忘れてもわたしはそばにいます。
たとえ名前を捨てても、リュシアのことは忘れません」
「……ねぇ、ティアナ」
リュシアがそっと、ティアナの手に自分の指を重ねる。
「次の休みに、ふたりでどこか遠くへ行ってみない? 王都の外、誰も知らない場所。
“王女”も“侍女”も関係ない、ただの“わたし”と“あなた”で」
「……はい。よろこんで」
その言葉だけで、胸がいっぱいになる。
紅茶の香り。
とろけるようなケーキ。
それよりも甘いのは、指先から伝わるぬくもりと、重なりあった気持ちだった。
* * *
お茶会の終わり。
部屋を出る前に、ティアナはふと思い出したように尋ねる。
「……あの、“ヤキモチ”は、もうおさまりましたか?」
「ええ。今夜こうして独占できてるから、むしろ“上書き”されたわ。
“もっとあなたを好きになっちゃう病”に」
「それ……治る気がしないですね」
「治すつもりなんて、最初からないもの」
リュシアは笑って、ふたりの秘密の扉をそっと閉じた。
誰にも知られない、恋人たちの夜のお茶会。
甘く静かな時間の中で、ふたりはもっと深く、やさしくつながっていく。
リュシアの“上書き”された想いは、ティアナにとって何よりのご褒美でした。
次回、第22話は:
『ふたりだけの小旅行計画』
城の外へ、ふたりだけの旅へ――!
計画段階からすでに甘すぎる、恋人のひみつ作戦。




