第20話『リュシア、ヤキモチをやく』
恋人同士になったばかりのふたりに現れたのは――
ティアナの“旧友”、元冒険仲間でちょっと距離感が近すぎる彼女!?
静かだった王女の心に、はじめて芽生える“ヤキモチ”と、小さな嵐の始まり。
「ティアナ……! ひっさしぶりっ!」
王都に立ち寄った商隊の中に、ティアナの旧友――
冒険時代に一緒に旅をしていた女性戦士エリスがいた。
元気で快活、誰にでも分け隔てなく明るく接する彼女は、再会した途端にティアナに抱きついてきた。
「うわっ、エリス!? どうしてここに――」
「ちょっとした護衛依頼で王都まで来たの! それよりさ、元気だった? ねえ、髪伸びたねー! 昔のショートもよかったけど、今のも可愛い!」
「ちょ、ちょっと……! 近い……!」
そして、それを――
廊下の陰からじっと見ていたのが、リュシアだった。
(……あれは、なに?)
王女の顔に、じわじわと黒い影が差す。
(あの距離感。あの笑顔。なにそれ。わたし見たことない)
後日、ティアナが控室に戻ると、リュシアは机に肘をつき、頬を膨らませていた。
「……ただいま戻りました。あの、リュシア?」
「……ふーん、今日は楽しそうだったわね。旧友と再会して。たっぷり話せた?」
「……あ、あの、見てたんですね……?」
「“見てた”というか、“目に入ってきた”のよ。無意識に。勝手に。気づいたら。……気にしてないけど?」
「めちゃくちゃ気にしてますよね!? 顔に出てますよ! ぷくーって!」
「ぷくーとは言わないでちょうだい。王族の顔が台無しよ」
リュシアはそっぽを向いたまま、ふくれっ面のままだった。
「エリスさんとは、ただの仲間ですよ。もうずっと昔のことですし。
それに……その、リュシアにあんな顔される方が、わたしは動揺します」
「……わたし、そんなに変な顔してた?」
「……ちょっと可愛かったです」
「……!」
リュシアの耳が真っ赤になった。
「で、でも、次はもっと堂々とヤキモチ焼くから!」
「えっ、それって次も焼かれる前提なんですか!?」
「いいから! 焼かせないで!」
ふたりはしばらくの間、どちらからともなく笑い出し、
そして、そっと指先を絡めた。
誰かと再会しても、誰かが現れても、
心はもう、ここにある。
リュシアのヤキモチは――
まぎれもない「好き」の証だった。
リュシア、初めてのヤキモチ。
それは王族の誇りも忘れるくらい、全力で不器用で、全力で可愛い感情でした。
ティアナとの絆は、それを経てさらに深まっていきます。
次回、第21話は:
『ふたりでこっそり、夜のお茶会』
人目を避けて、ふたりきりの秘密のお茶会。
キャンドルの灯りと、甘いスイーツと――胸の奥でとろけるような恋心。




