表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る城で、わたしは恋をした ― 元気な少女と無表情な姫君の、ゆっくりとほどける心の距離 ―  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/51

第19話『恋人と過ごす、雨の日の午後』

外は雨。城の回廊にも、しとしとと水音が響いている。

散歩も外出もできないけれど――ふたりきりの部屋が、いま一番あたたかい場所。

恋人として迎える、初めての“雨の日”。

何もしない、でもそれが幸せな午後の物語。

「……今日は、一日雨みたいですね」


ティアナは、薄暗い空を見上げながら、リュシアの部屋のカーテンを引いた。

窓の外では、静かに雨粒が踊っている。


「悪くないわ。こういう日は、部屋にこもってゆっくりするのも好きよ」


「では今日は、“恋人とだらだらする日”にしましょうか」


「ふふ。新しい記念日ね」


ふたりはソファに並んで座る。

その間には、お茶と焼き菓子。

そして、開きかけの一冊の物語本。


ページをめくる音、雨のリズム、呼吸の重なり――

派手な出来事はないけれど、それがかえって心地よかった。


「……こうして、何も起きない時間もいいですね」


「ほんと。あなたと一緒だと、“退屈”が一番のご褒美になるのね」


「わたしも……“静かな時間”が、こんなに好きになるなんて思いませんでした」


ふと、リュシアがティアナの肩にもたれかかる。


「……だめかしら」


「いえ、むしろもっと……甘やかしたい気分です」


そう言って、ティアナはそっとリュシアの髪に手を添える。

ゆっくりと、撫でるように指をすべらせると、リュシアは微かに目を細めた。


「……うちの侍女は、こういうのがうまいのね」


「侍女じゃなくて、恋人ですから」


「ふふ、そうだった」


そのまま、ふたりは言葉もなく寄り添っていた。

ときどき、リュシアが本を読み聞かせ、

ときどき、ティアナがその手を握る。


雨の音が少し強まったとき、リュシアがぽつりとつぶやく。


「……ねぇ、ティアナ。

この先もし、わたしが王女じゃなくなっても……ずっと一緒にいてくれる?」


ティアナは驚いて、リュシアの顔を見た。


「それって……どういう……」


「まだ、何も決まってないけど。

あなたといると、少しずつ世界が変わっていくのを感じるの。

わたし、きっとこのまま“王女”でいたくないと思い始めてる」


「……」


ティアナは、ぎゅっとその手を握り返す。


「王女でも、そうじゃなくても、

わたしはリュシアの“隣”にいたいです。

それが――わたしの望みです」


リュシアは何も言わなかったけれど、

その瞳に浮かんだやわらかい光が、すべてを物語っていた。


雨の日の午後。

静かな時間が、ふたりの絆を少しだけ深く、確かにしていく。

雨音の中、ふたりはそっと距離を詰めて、未来のことまで考えはじめます。

何も起きない日だからこそ、

“このままずっと一緒にいたい”という気持ちが、静かに根を張っていく――


次回、第20話は:

『リュシア、ヤキモチをやく』

突然現れた“ティアナの旧友”に、王女の心がちょっぴりざわつく。

無意識の嫉妬が、思わぬ可愛さを爆発させて……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ