第17話『ふたりの秘密と、小さな贈り物』
“恋人ごっこ”から“本物の恋人”へ。
その境界線を越えたふたりが、最初に交わすのは――誰にも知られない“ふたりの秘密”。
そして、はじめて贈る、小さくてあたたかいプレゼントの物語。
「――これ、受け取ってください」
ティアナがそっと差し出したのは、掌におさまる小さな包み。
中身は、手縫いのリボンチャームだった。
銀糸で縁取りされ、リュシアの髪色に似た淡い紫で彩られている。
「……これ、もしかして」
「はい。昨日、夜なべして……縫いました。
リュシアの髪につけたら、きっと似合うなって、ずっと思ってて……」
リュシアは包みをほどき、しばらく黙ってそれを見つめていた。
やがて、そっと指先で撫でながらつぶやく。
「……温室で言っていたわね。“あなたの髪を何度でも結びたい”って」
「……はい」
「なら、これはその証ね。
受け取るわ、ティアナ。“わたしのものになって”という意味も込めて?」
「ひゃっ……そ、それはちょっと恥ずかしいです……!」
「ふふ。照れてるところ、可愛いわよ」
そのまま、リュシアは鏡の前に立ち、
チャームを髪の左側に結びつける。
「どう? 似合ってるかしら」
「……世界でいちばん、綺麗です」
「また大げさなことを」
「大げさじゃありません。本当の気持ちですから」
リュシアが照れたように目を逸らす。
その横顔があまりに愛おしくて、ティアナは思わず小声でつぶやいた。
「……もっと、ふたりだけの時間がほしいなぁ」
「じゃあ作りましょう。
誰にも知られないように、静かで甘い時間を――“ふたりの秘密”として」
* * *
それから数日、ふたりは周囲には変わらぬ主従として振る舞いながらも、
人目のない片隅で手をつないだり、
手紙のやりとりでこっそり甘い言葉を交わすようになっていた。
「ねぇ、今度わたしの部屋で、ふたりきりで本を読みませんか?」
「それは、ただの読書ですか?」
「“ただの”じゃないわ。“恋人同士で一緒に読む読書”よ」
「それってつまり……」
「ええ、“特別”ってこと」
甘く、ゆっくりと熟れていく関係。
贈り物を通して心を交わしながら、
ふたりの恋は、確かに深まっていた。
初めてのプレゼントは、心のこもった手作りのチャーム。
それは、言葉以上に強く、ふたりの関係を結びつけていきます。
“誰にも見せない恋”だからこそ、大切に重ねる日々がある――。
次回、第18話は:
『こっそり恋文、ばれて大混乱』
ふたりだけの秘密の恋文交換が、思わぬ形で“第三者”にバレてしまい……!?
ドタバタの中でも、ふたりの絆は崩れない。




