第15話『決戦のあとで、ふたりきりの場所へ』
騎士団とともに敵を退け、リュシアを守りきったティアナ。
緊張と剣の余韻が静まり、ふたりの時間がようやく戻ってくる。
あの夜、言えなかった言葉を、今こそ――
決戦のあとに訪れる“静かな特別”の物語。
翌日、王都を襲った魔術師集団の一件は沈静化し、
城にもようやく、普段通りの空気が戻りつつあった。
「少し……外に出ない?」
リュシアが、そう声をかけたのは夕暮れ時。
ティアナはうなずきながら、手に持っていた銀の髪飾りをそっと懐にしまった。
「……行きたい場所があるんです」
「ふふ、また“とっておき”?」
「はい。リュシアさまにも、見てほしいから」
* * *
ふたりが向かったのは、王城の裏手にある古い温室跡だった。
今は使われていないが、夕陽の差し込むガラス越しに光がゆれて、
まるで夢の中の庭園のように見えた。
「……ここ、知ってた?」
「ええ。昔、まだ小さかった頃……
よく、ここでひとりで絵本を読んでいました」
「孤独だった?」
「……うん。でも、今はもうちがう」
ティアナが、そっと立ち止まった。
「リュシアさま。……いいえ、“リュシア”。わたし……言いたいことがあるんです」
リュシアの瞳が、すこしだけ大きく見開かれる。
ティアナは深く息を吸って、しっかりとその目を見つめた。
「わたし、あなたが好きです。
身分も、立場も、何もかも違うのはわかってます。
でも……それでも、あなたの笑顔をそばで見ていたい。
悲しいときは隣にいたい。
その全部を、きっと“好き”って呼ぶんだって、やっとわかりました」
沈黙が流れる。
けれど――
リュシアは一歩、ティアナに近づき、
そっと手を重ねた。
「……わたしも。
あなたがそばにいると、怖くなくなるの。
泣きたいときも、笑いたいときも、
最初に浮かぶのはいつもあなたの顔で……
それが“好き”なんだって、最近ようやく気づいたのよ」
ティアナは、声もなく目を見張った。
それから――たまらず、微笑む。
「……ずるいです。そんな、綺麗に言われたら」
「いいでしょ。王女なんだから、言葉くらいは」
ふたりは、くすっと笑い合った。
温室の中、ガラスを透かして夕陽が差し込む。
まるで世界が、ふたりだけを包み込んでいるかのようだった。
「じゃあ……これ、受け取ってくれますか」
ティアナは懐から、小さな箱を取り出す。
中には、銀の髪飾り――以前ほどけたリボンと同じ形の、特注品だった。
「あなたの髪を……何度でも結びたいから」
「……ありがとう。
じゃあ今夜は、ほどけないように、しっかりお願いね?」
「任せてください。だってもう、わたしは“ただの侍女”じゃないから」
リュシアはその言葉に、小さくうなずいた。
その温室の静けさの中で、
ようやくふたりの恋は――確かに始まったのだった。
はじめての告白、そしてふたりだけの時間。
違う立場、違う生き方、それでも心はひとつに重なる。
それは、運命に逆らうのではなく――“信じ合う”という選択だったのかもしれません。
次回、第16話は:
『はじめての、恋人ごっこ』
ふたりの関係が変わった翌日、こっそり“恋人のふり”をしながら過ごす時間。
でもその“ふり”は、どんどん本物に近づいていく――?




