第14話『最前線にて、彼女の剣が光るとき』
王都に迫る謎の魔術師集団――
その影からリュシアを守るため、ティアナは“侍女”ではなく、“護衛”として立ち上がった。
そしてついに、敵との接触が始まる。
心にあるのはただひとつ――彼女を守り抜くこと。
南の森の手前、見張り塔の陰。
ティアナは騎士たちに交じり、剣を腰に静かに立っていた。
「確認されたのは三人。いずれも魔術使用の形跡あり。
中距離型の術師と推定されます」
「王女の護衛は私に任せてください」
ティアナの声に、騎士団の副長は一瞬だけ目を細め、うなずいた。
「無理はするな。だが……頼むぞ」
そのとき、警戒の鐘が鳴る。
「来た――!」
茂みを割って現れたのは、黒いフードをまとった人物たち。
その手から放たれる赤紫の魔力の奔流が、地面を焼いた。
「術式を展開しています! 騎士隊、迎撃配置!」
ティアナは一瞬、リュシアを振り返った。
その目はまっすぐで、不安などみじんもない。
(――わたしが、守る)
ティアナは剣を抜いた。
その刃先が、敵の魔弾を裂く。
「っ……!」
熱風が顔をかすめる。
それでも足を止めない。
「彼女には、指一本触れさせない!!」
相手の術が再び空間を裂こうとしたとき、ティアナは剣先を構えて、真正面から跳び込んだ。
激突する音。
火花のような魔力のきらめき。
だがその中心で、ティアナの姿は揺るがなかった。
「下がってください、リュシアさま!!」
「でも――!」
「わたしが信じた強さは、剣でも魔法でもないんです!」
ティアナの叫びが、戦場の空気を貫いた。
「“守りたい”と思ったときに、動ける勇気があるかどうか。それだけです!」
そして剣が、敵の魔術の隙を突いて一閃。
魔力の陣が崩れ、敵は驚愕とともに撤退を始めた。
「深追いするな! 敵は退却する!」
騎士団の声が響く中、ティアナは大きく息を吐いた。
その時、誰よりも早く駆け寄ってきたのは――
「……ティアナ!」
リュシアだった。
「無事で……よかった……!」
そう言って抱きしめられたその瞬間、ティアナの中で張り詰めていたものが、ふっとほどけていく。
「……リュシアさま」
「もう“さま”はつけなくていいわ。
だって今のあなたは、わたしの――」
リュシアは、何か言いかけて口をつぐむ。
けれどその目がすべてを語っていた。
戦いの中で知った本音と、ひとつの確信。
ふたりの距離は、もうごまかせないほど近くなっていた。
剣が交わり、魔術が飛び交う戦場で、
ティアナが守りたかったのは――ただ一人。
そしてリュシアもまた、それに応えるように、言葉ではなく行動で想いを示し始めています。
次回、第15話は:
『決戦のあとで、ふたりきりの場所へ』
騒動がひと段落し、ようやく訪れる静かな時間。
あの時言えなかった言葉を、今こそ伝えに――ティアナが選ぶ“特別な場所”とは?




