第12話『告白未遂と、ほどけたリボン』
夜の音楽会で見つめ合い、言葉にしなくても想いが伝わったふたり。
しかし――“好き”という一言だけは、まだ口にできずにいるティアナ。
そんなある日、思い切って気持ちを伝えようとするが……?
ちょっとしたアクシデントと、ほどけたリボンが心を揺らす。
「リュシアさま。あの、今日の夜、少しお時間いただけますか……?」
その日、ティアナは昼の片づけを終えたあと、勇気を振り絞って声をかけた。
「……いいけれど。何か話したいことが?」
「はい。……その、ちょっとだけ、大事なことです」
「……そう。わかったわ」
リュシアは相変わらず静かだったけれど、どこかほんの少し――期待しているような目をしていた。
* * *
その夜。
中庭の東側、いつもの小さな噴水の前。
星空の下、ティアナはひとり、緊張でぐるぐると歩き回っていた。
(ちゃんと言えるかな……“好きです”って)
(でも言わなきゃ、きっと後悔する)
そう思って顔を上げたそのとき。
「お待たせ」
リュシアが静かに現れた。
肩までの髪をまとめた飾りが、いつもより少しだけ華やか。
なのに、それを見た瞬間――ティアナは思わず叫んだ。
「あっ、リボン、ほどけてます!!」
「えっ?」
リュシアの髪留めについていたリボンが、片方するりと解けて、風に揺れていた。
ティアナは反射的に駆け寄る。
「そのままだと落ちちゃうので……ちょっと、失礼しますね……」
そっと髪に手を伸ばし、結び直す。
リュシアの柔らかい髪が指先をすり抜け、近い距離に顔が赤くなる。
「……ありがとう」
「いえ……でも、リュシアさまの髪、すごく……きれいで……」
「……ふふ。あなたの手、震えてるわよ?」
「そ、そんなことないです! ただの風のせいで!!」
(ああ、言うタイミング完全に逃した……!)
勇気を出すどころか、リボン直して終わった!! とティアナは頭を抱えたかった。
だがその時、リュシアがぽつりと呟いた。
「……あなたがほどいてくれるなら、何度でも結び直してもらってもいいわ」
「えっ?」
「今夜、何か大事な話があるんじゃなかったの?」
「そ、それは……その……」
言いかけた言葉が、喉で止まる。
リュシアの瞳は優しく、でもどこか、期待と――覚悟がにじんでいた。
「……言葉にしなくても、伝わることもあるけれど。
……わたしは、あなたの“声”で聞きたいわ」
「……!」
ティアナの胸が跳ねた。
(言わなきゃ。今こそ、ちゃんと――)
でもその直後、近衛の鐘が鳴り響いた。
「……っ、非常警戒です! これは……!」
「わたしたちも、戻らないと」
リュシアは立ち上がり、すっと手を差し出した。
言葉にはできなかったけれど。
その手を握るだけで、またひとつ――心が近づいた気がした。
告白しようとした夜、
ほどけたリボンと、急な鐘の音にすべてが中断。
でも、リュシアはティアナの言葉を“待つ”と決めたようです。
ふたりの想いは、すぐそこまで――もう、あと少し。
次回、第13話は:
『王都の影と、守りたい人』
突如届いた“王都の騎士団からの急報”。
リュシアを守るため、ティアナは“侍女以上の存在”として立ち上がる――!




