表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星と鈴

作者: 芙莉

酷い雨だ。それも、今は梅雨真っ只中だから仕方がない。道路の脇の花は雨に打たれて萎れていた。


「今年の誕生日もどうせ雨なんだろうな」

星那(せな)は今年で17になる。誕生日は6月下旬にあり、毎年雨の降ることが多かった。


しかしどうしたことだろう。誕生日当日になってみると雨の降る音はなく、晴れとまではいかないが雲がおおっているだけだった。

なんて運がいいのだろう。きっと、今日は人生で最高の日になる。そんな気持ちで星那は駅を出ていつもの集合場所に向かった。

「わあっ!」

後ろから突然大声を出して驚かせてきたのは、親友の鈴香(すずか)

「チッ、驚かないかぁ」

「もう、今まで何回やられたと思ってんの?」

「ふふーん、今日は引っかかってくれるかなと思って」

そう言いながら悪魔のように笑う鈴香。彼女は昔から、友達に罠をしかけてはそんな風に笑う癖がある。変わらないなあ。そういう所も鈴香の魅力なんだろうけど。

今日は以前から約束していたカフェ巡りをするため、2人で東京の街を歩く。鈴香がこの日のために人気なカフェを調べてくれていたらしい。

扉を開けると、カランカランとベルの音がする。

「いらっしゃいませ。1名様でよろしいですか?」

愛想の良い店員が声をかけてきた。後ろにいた鈴香が見えていなかったもよう。鈴香は昔から小柄だからな。

「いえ、2人で」と、訂正して窓際の席を案内してもらった。


しばらくして、それぞれ頼んだフラワーアールグレイという紅茶とサンドイッチがテーブルに置かれる。

紅茶の華やかな香りにそそられ、一口すする。華やかさと上品さを兼ね備えた優しい味わいだ。

星那はサンドイッチにも手を伸ばしてパクっといただく。

「んーっ、食パンがサクサクで美味しい」

サンドイッチを頬張っていた星那は、鈴香があまり手をつけていないのに疑問を抱いた。

「鈴香、これ美味しいから温かいうちに食べなよ。紅茶も美味しいよ」

「あっ、うん。ちょっとまだ熱くて。お腹もあんまり空いてないから、ゆっくり食べるよ」

鈴香って猫舌だったっけと思ったが、それより少し違和感のある鈴香の様子が心配になった。

「そっか。無理しないでね。食べきれなかったら私が残りを食べてあげる」

「ありがとう星那」


2人は食事をしながら、昔の同級生の話しで盛り上がった。星那と鈴香は同じ小中学校に通っていたため共通の知り合いが多いのだ。高校は進路の違いで別々になってしまったが、こうして時々会っている。


今日はなんだか周りから妙な視線を感じたが、そんなことは気にせず鈴香と昔話にふけた。その中で、星那は少しだけ前のことを思い返した。

星那が幼い頃、父親がギャンブルにハマって大量の借金を作ってしまってことで家族関係にもつれが生じ、両親は離婚した。

財産がほぼ無くなってしまった家計を支えるため、それまで専業主婦をしていた母は仕事を掛け持ちして朝から深夜まで働くこととなった。

母は忙しかった。星那はその頃から自分で食事管理をしなくてはならなくなった。簡単に作れる目玉焼きやスクランブルエッグばかりを食べ、栄養が偏っていたと思う。徐々に料理の腕が上がり、レパートリーが増えていったが食事を抜くこともよくあり、星那はとても痩せこけていた。

さらに、新しい服を買ってもらえる機会もほぼなかった。そんな時間もお金も無かったのだ。

だから、いつも同じ服。それはどんどん汚くなり、小さくなってくる。

そのみすぼらしい外見のせいで、小学校の同じクラスの人たちは星那をバカにするようになった。わざとらしく「せな菌が移る」などと言って避ける人もいる。

星那は学校にいるのも、家にいるのも嫌いになった。だって、独りだから。

星那はずっと、安心できる居場所を求めていた。


ある日、星那が通う星屑小学校に転校生がやってきた。

名前は鈴香。明るい声が特徴的で、外見もとても可愛らしい。星那は彼女を自分とは正反対な子だと思った。

しかし、そんな彼女はよく星那のもとに来て話しかけてくるのだった。

初めは警戒していた星那だったが、彼女のお茶目で純粋な性格がわかってきて、いつの間にか心を開いていた。

それから2人はいつも一緒に遊んで、話して、笑って………


鈴香はどんな人にも優しかった。

いじめられている子や辛い思いをしている子を放ってはおけなかった。

そして鈴香は、雨にずぶ濡れになっていた私を見つけてくれた。彼女が私に手を差し伸べてくれた瞬間、世界は晴れた。

鈴香が天使のように輝いて見えた。


今でもそれを忘れることは無い。

現在は母の仕事も安定して親子としての時間を持てるようになったが、あの辛かった時に自分の居場所を作ってくれた大好きな鈴香とは、一生友達でいたい。親友でいたいと、強く思う。


そんなこんなで、予定を合わせて一緒に遊んだり、毎年お互いの誕生日に手紙とプレゼントを贈りあったりする仲になった。


カフェで一息ついた後はゲームセンターでプリクラを撮り、カラオケで歌いまくり、もう1件カフェに行ってスイーツを堪能したりと高校生らしい有意義な時間を過ごした。

途中で鈴香に誕生日を祝ってもらい、手紙とプレゼントを貰った。

「家に帰ったら開けてね」と言われたので、後が楽しみだ。


今日は何もかも完璧な誕生日。

その、はずだったのに──────。



だんだん日が落ちてきたので、2人は電車に乗って13駅目の最寄り駅に着いた。

駅から出て歩き出した途端に2人を豪雨が襲う。

星那たちは一旦、駅の屋根があるところに戻った。

「こりゃひどい雨だねー」

鈴香は濡れてしまった服を絞りながら軽々と言う。星那の家は歩いて5分もかからないが、鈴香の家は30分はかかる距離にあるというのに。

鈴香は自転車で来てはいるが、この豪雨では前に進めそうにないので星那はある提案をする。

「今日は私の家に泊まっていく?」

「じゃあそうしちゃおっかな!」

さすがの鈴香もこの雨の中帰るのは億劫だったようだ。


傘を持っていなかったため、2人してびしょ濡れになりながらようやく星那の家にたどり着いた。

アパートの一室のドアを開ける。

「お母さん、ただいまー」

するとお母さんが心配そうな顔をして玄関まで来た。

「星那っ! びしょ濡れじゃない。急に家から出ていってしまって心配してたのよ」

そう言いながら私の濡れた髪や服をタオルで拭いてくれる。

今思えば、母は以前より随分優しくなったと思う。昔の私への態度に負い目を感じているようだし。あの頃は2人ともボロボロだった。


「お母さん、もう1枚タオル持ってきて。鈴香も濡れているから。あと、今日は鈴香も家に泊まっていい?」

私がそう尋ねると、お母さんは驚いたような顔をした。

「星那、何を言って……」

「何って、こんな豪雨じゃ自転車こげないし、濡れると風邪ひいちゃうから、今日だけは泊まらせてって」

お母さんはそれを聞いてもしばらく口を噤んだままだった。

沈黙の後、「とりあえず上がりなさい」と言うお母さんの後に続いた。


お母さんは温かいホットミルクを出してくれた。星那だけに。

「お母さん、鈴香の分は?」

お母さんがその質問に答えてくれるまで時間がかかった。

「………星那、そこに鈴香ちゃんはいないわ」

「は?どういうこと? ねえ、鈴香。……鈴香?」

鈴香は星那に切ない表情で微笑み、どんどん薄くなってフワッと消えてしまった。

「鈴香、待って!」

「星那」

お母さんが星那に何かを訴えるような目で強く見つめる。

「鈴香ちゃんは、1週間前のあなたの誕…」

「あああああああああああ!!」

星那はお母さんの言葉を遮って叫び、強く耳を塞ぐ。

「私の誕生日は今日だし、鈴香に手紙もプレゼントももらった!今日は本当に最高の一日なの!!それをお母さんは壊したいの?」

感情的になった星那の言葉とは対照に、母は落ち着いてゆっくりと応える。

「今日はもう7月よ。あなたの誕生日はもう1週間前になるわ。これ、今日鈴香ちゃんのお母さんから預かったの。鈴香ちゃんがあなたのために用意していたものよ……」

そう言ってお母さんは可愛らしい便箋とリボンの装飾の着いた箱を星那に差し出した。便箋の裏側には「我が親友の星那へ。聖なる天使、鈴香より」と彼女らしい字で記してある。

「1週間前のあなたの誕生日の日。鈴香ちゃんはあなたと会う前に、車に轢かれそうだった小さな女の子を助けて亡くなってしまった。最後まで、鈴香ちゃんは自分らしく、強く生きたのよ。受け入れたくないのは分かるけど、少しずつでいいから、受け入れていくしかないの。」

星那は目に大粒の涙を蓄え、それを黙って聞いた。するとパッと何かが弾けたようにその涙が瞳から溢れ出た。

「うわわわわわわわぁんっ」

大声で泣くのはいつぶりだろうか。あ母さんは星那をぎゅっと抱きしため、呼吸を整えるように背中を優しく叩く。

「星那が鈴香ちゃんにそんなに執着してしまうのは、きっと私のせいね。ごめんね、星那っ……」

お母さんは星那を抱きしめながら、掠れた声で囁いた。星那も、そんな母を強く抱きしめた。


今日、星那が何も言わず家を出たあと、お母さんは心配になって星那を探しに出たらしい。

その途中、お母さんは星那の学校の友達の美咲(みさき)由奈(ゆな)に会った。彼女たちは星那が1週間学校に来なかったため心配になり、家に向かっていたそうだ。連絡も全く取れないのだとか。お母さんは星那が学校に行っていなかったことを初めて知った。

美咲と由奈、星那のお母さんは相談し、星那が帰ってきたら分かるようにお母さんは家で待ち、2人が星那を探して回っていたそうだ。


お母さんはどちらかと連絡先を交換していたようで、電話をかけた。

「もしもし美咲ちゃん?星那の母よ。星那が家に帰ってきたわ。探してくれて本当にありがとう。雨には濡れなかった?そうなのね。風邪ひかないようにちゃんと休んでね。由奈ちゃんにもありがとうって伝えておいてちょうだい。」

突然、「美咲ちゃんが星那に変わって欲しいそうよ」と言って星那にスマホを渡してきた。

「えっ、あ、もしもし……」

すると耳を貫くほどの叫び声が聞こえてきた。

「せぇなぁぁぁぁぁぁ!!!!心配したんだから!もう、どこに行ってたのぉ」

「ご、ごめん、。探してくれてありがとう。でもそんなに怒らなくても……」

「怒るに決まってんでしょうがぁぁっ!友達に連絡もせず学校に来ないし!1週間!!それに何も言わず家から出ていったみたいだしっ」

「ごめん……」

「ったくもう。明後日の月曜日、学校に来なかったらもっと怒るからね。1人で全部抱え込むなっての!」

いつもは優しくおしとやかな美咲がこんなに怒っているのは初めてだ。それほど心配してくれてくれたのだろう。

なんだか心の重みがすっと軽くなった気がした。

「うん、学校行くよ。美咲ありがとう」



星那は夕飯と入浴を済ませ、自分の部屋に向かった。早速、鈴香から貰った手紙を開いてみる。

すると1枚目に、


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

プレゼントを開けなさい。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


とだけ書かれていた。

その通りにプレゼントの箱を開けると、ビヨヨーンと中からピエロが飛び出してきた。

「…………」

これは何か企んでいる予感がしてきた。

2枚目の手紙をめくってみる。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


さあさあ星那さん。もうお気づきですね?

このプレゼントはフェイクです。

楽しいパーティーの幕開けです!


さて、本物の誕生日プレゼントはどこに隠れているのでしょうか。

暗号を解いてその場に行き、見つけ出してください。

引きこもりの星那さんへ。

ヒントは名前と思い出。


暗号:□□□□□KUZUNO □□□□SHIIHAKO


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



鈴香は全てお見通しのようだ。最後に面白いものを残してくれた。とても彼女らしい。

きっと今頃、悪魔のように笑いながら私を見ているのだろう。


ヒントは名前と思い出か。答えは簡単だ。心当たりのある場所が思い浮かんだ。



翌日、私はその場所へ向かった。懐かしい通学路を歩く。その小学校は星那の家からも鈴香の家からも同じ位の距離にあり、いつも途中で合流していた。


星屑小学校。2人はそこで出会った。

暑い夏はよく、校庭の端の木陰で遊んでいた。

ここら辺で、2人で白いタンポポを見つけたこともあったっけ?

よく腰掛けていた丸太はそのままの場所にあった。

丸太の近くには、もう使われていない百葉箱が。


暗号の答えは簡単。四角に”星”と”鈴”のアルファベットを入れればよい。

「星屑の、涼しい箱……」

星那は百葉箱の扉を開け、そこにあったものを取り出してみる。家で見たのと同じ便箋と箱だ。

星那は近くの丸太に座り、手紙を開いた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

パンパカパーンっ!

おめでとう諸君。

暗号を解いて本物のプレゼントを見つけたようだね!

偉いぞ偉いぞ。


毎年のように誕プレ交換してるから、

たまにはこういうのもいいかなーっと思ってやってみました!

どうだったかな?


では突然ですが今から、

”思い出”のお話でもしてみましょうか。


星那は初めて会った時、

とても痩せていて、服もボロボロでした。

おまけにクラスの連中から虐められていた。

酷い言葉を浴びせられ、

時には暴力も受けていました。

可哀想、助けなくちゃ。

そう思って星那に近づいて仲良くなりました。

でも、仲良くなるうちに、

実は私が助けられていました。


私が転校してくる前、

実は私、あまり友達がいませんでした。

最初はみんな仲良くしてくれても、

途中から「面倒くさい」「偽善者」って言って、

私を避けるようになったんです。

虐められていたところを私が助けた子も、

周りと一緒に私を避けるようになりました。


でも、星那は愛想こそないけれどとても素直で、ずっと友達でいてくれて、

私の安心できる居場所を作ってくれた。

そんな優しい星那が大好きだー!(笑)


実の所、高校が別々になった今、

すずっ子だった星那に他の友達ができたと知って少なからずショックを受けています……。

わ、私の星那が……!!(笑)

でも本当に、星那がまた1人にならなくて良かったよぉ!!

私以外にも大切な人がたくさんいる。

星那、強くなったね。


最後に、17歳の誕生日おめでとう!

HAPPY BIRTHDAY!


会える機会こそ少なくなってきたけど、これから何かあっても2人で乗り越えよう!

お互い支え合ってきた私たちなら、

これからもきっと。


あなたの天使、鈴香より


追伸:誕生日プレゼント気に入ってくれると嬉しいな

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「鈴香っ……」

全く君は、天使なんだか悪魔なんだか。

星那は溢れ出てくる涙を拭った。震える手でプレゼントの箱を開ける。

すると中から星の飾りのついたネックレスが。

「綺麗……ありがとう、鈴香」

この手紙を読んで、鈴香が転校してくる前のことを初めて知った。2人は”お互い”に支え合っていたんだな。助けられていたのは星那だけではなかった。

それから、星那にとって大切な人が増えたということは、昨日初めて実感したことだった。


「私には、大切な人がたくさんいるんだ……」


もう涙が流れないように、空を見上げる。久々に青空が広がっていた。あつい夏が始まる。




それから、一年が経った。

星那は受験の準備に追われている。しかし今日は誕生日。今日だけは、そんなこと忘れても許してもらえるだろう。

誕生日とはいえ今年は学校があり、美咲と由奈にお祝いしてもらえた。お菓子やプレゼントをどっさり貰って。


放課後の帰り道、星那は珍しく寄り道をした。

鈴香の家族から教えてもらったお墓に行き、彼女の墓石の前で手を合わせる。

ついでに、去年貰った星のネックレスを見せながら、

「鈴香見て。ネックレス毎日付けてるの。制服の下に隠して学校に付けて行ってるのは秘密だよ」

そう言って、この間偶然見つけた白いタンポポを墓に添え、そこを後にした。


街中とはいえ墓場には明かりが少ないため、いつもより星がよく見える。


一瞬、夜空の星々が可愛らしい鈴のように笑った。

そんな気がした。

初めまして、芙莉(はすり)と申します!

数年ぶりに小説を書きました!しかも短編は初めてです!

楽しかったからまた短編小説書こうかな……。


ところで、この物語のベースになっている作品があります。それは「星の王子さま」。

これをベースに書こうとした訳では無いのですが、いつの間にかベースになっていた気がします。昔からとても好きな小説です。

「星の王子さま」の内容とは少し対照的な物語にもなっているのでそれはそれで面白いかと。


最後に、この小説がいいと思った方はブックマークなど押してくださると励みになります!

また、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!!

あなたにも星が笑いかけてくれますように✩⡱

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ