第96話 新たな決意
お茶会が終わり、セシリアとエリーナはそれぞれ自分の領地へと帰っていった。別れ際、セシリアは笑顔でクラリスの手を取った。
「また次のお茶会も楽しみにしてるわ、クラリス様」
「ええ、セシリア様もお身体に気をつけて」
エリーナも小さくお辞儀して言った。
「ま、またお会いできるのを楽しみにしています」
クラリスはやさしく微笑んだ。
「こちらこそ、またすぐに会いましょうね」
セシリアとエリーナが去ったあと、クラリスとアレンにも王城への帰還の時が来た。王妃教育は一時帰宅のあとはさらに厳しさを増すとされていたが、クラリスの表情は落ち着いていた。
「アレン、準備はいい?」
「はい、お嬢様。王都への道のりも、守りは任せてください」
「頼もしいわね」
カインはクラリスの横で腕を組みながらぷかぷかお浮いていた。そしてやや面倒くさそうに言った。
「あの窮屈な城か……まぁ仕方ないか」
「カイン、私の護衛ありがとう」
「うむ、従来は主の隣にずっと居るのが当たり前だからな」
クラリス、アレン、そしてカインは王城へ向かい、ヒカリとフロストは公爵家に残ることとなった。
「じゃあ、気をつけてね!」
ヒカリは手を振りながら見送った。
「アレンよ、次に戻って来る時には、我はすごく成長してるのじゃ!」
フロストが得意げに叫ぶ。
アレンは振り返って笑顔を見せた。
「ああ、俺も頑張るよ」
王城組が去ったあと、公爵家には静寂が戻ってきた。だが、その静けさは長くは続かなかった。ヒカリとフロストは、休むことなく鍛錬に励む日々を送っていた。
季節が変わり、あっという間に三ヶ月が過ぎた。
修練場ではフロストが毎日鍛錬を行っていた。
「ふんっ!」
フロストが魔力を練り、空中に展開された魔法陣が輝く。次の瞬間、氷の剣が複数出現し、一直線に並んだ的を正確に貫いていく。
「見たか!我にかかればこんなもんなのじゃ!」
ヒカリはその様子を見ながら、頬をかき苦笑する。
「いやいや、最初は暴走しまくりだったよね?毎回魔力が、暴走してそのたびに俺が抑えてたね」
「う、うるさいのじゃ!過去より今なのじゃ!」
「ま、その今がすごいってことには変わりないよ。よく頑張ったね、フロスト」
「む、むふー……当然なのじゃ!」
ヒカリは空を見上げクラリスのことを思った。
(クラリスがんばってるかな)
「アレンが帰ってくるのが楽しみなのじゃ!」
フロストの声に、ヒカリもうなずいた。
「うん。フロストの成長、きっとびっくりすると思うよ。」
「ふふん、きっと我の魔力操作に感動して涙を流すのじゃ!」
「……それはないと思うな」
フロストは顔をしかめた。
「むう、ヒカリはいつも我に冷たいのじゃ」
「そう?けっこう褒めてるつもりなんだけどなあ」
「ふん、ではもっと褒めるのじゃ!」
「はいはい、すごいすごい。氷の王様、フロスト様には、かないませんねー」
「うむ、よき!」
ヒカリは笑いながらフロストの頭を軽くなでた。
「よし、そろそろ次の段階に進もうか。今度は実戦形式の魔法応用訓練だ」
「むっ、ついにそこまで来たか。よかろう、我の真の力を見せる時が来たのじゃ!」
「じゃあ、ちょっと気を引き締めていこうか。俺も新たに魔力で光の兵隊作れるようになったし」
ヒカリはフロストが鍛錬している、そばで新たな挑戦をしていた。
魔力を魔法に変換するイメージで光の影人形を作っていた。
それを的にして実戦練習を行うのだ
「わかっておる。我もアレンを守る契約精霊として、手を抜くつもりはないのじゃ」
ヒカリは頷いた。
「よし、じゃあ始めようか」
ヒカリの魔力が流れ出すと、地面に淡い光が走り、幻影の兵士の形をした者が出現した。フロストは一瞬で構えを取り、鋭い目を向けた。
「敵影確認。我、抜かりなし!」
「じゃあいくよ、フロスト。模擬戦開始!」
「望むところなのじゃ!」
フロストは魔力を練り、すぐさま氷の弾丸を生成する。
幻影が一斉に突進してくる。
「むんっ!《氷弾・散弾式》!」
フロストの放った魔法は小さな氷の弾丸が広範囲にばらまかれ、それに当たった幻影は光の粒となって消えていった。
「おお……すごい、すごい!」
ヒカリは拍手しながら声を上げる。
「ふふん、我にかかればこの程度余裕なのじゃ!」
フロストが胸を張るが、ヒカリはにやりと笑った。
「じゃあ……次は少しレベルを上げようかな」
「な、なんじゃっ?」
ヒカリが魔力をさらに練り込むと、幻影の数が倍に増え、そして明らかに速度が上がった。
「いくよ!」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ……って速っ!」
フロストは焦りながらも魔法を再構築する。
「くっ……《氷壁・旋回防御》!」
彼の足元から氷の壁が渦を巻くように展開し、襲いくる幻影を次々と防いでいく。しかし、速さが段違いだ。ひとつ、ふたつ、壁の隙間を縫って幻影がフロストの懐に入り込んだ。
「うわっ!? い、今のは反則なのじゃ!」
ヒカリは笑いながら指をぱちんと鳴らし、残った幻影を霧のように消し去った。
「まだまだだね。反応速度はよくなってるけど、魔法構築のタイミングが一拍遅れてるよ」
「ぐぬぬ……我はこれでも頑張っておるのじゃ!」
「うん、それはちゃんと伝わってるよ。だからこそ、もっと上を目指そうよ」
ヒカリは優しく微笑む。
「アレンが戻ってきた時に、“すごい成長したね”って言われたいんでしょ?」
「むっ……べ、別にそういうわけでは……いや、あるかもなのじゃ……」
「フロスト、素直〜」
「う、うるさいのじゃ!」
ふいに風が吹き抜け、庭の木々がさやさやと音を立てた。
フロストは魔力の流れを落ち着かせながら深呼吸する。
「でも……面白かったのじゃ。こうやって模擬戦すると、自分の弱点もわかる」
「うん、おれもそう思う。教える側だけど、おれもまだまだ鍛錬中だからな」
「ヒカリは今でも強いのじゃ……」
「そう見えるかもだけど、おれは、おれなりにたくさん失敗してるよ」
ヒカリは空を見上げた。もうすぐ夕暮れ。空がオレンジに染まり始めていた。
「さ、今日はこの辺にしとこうか」
「え?もうちょっとやりたいのじゃ……」
「ダメ。あまり無理すると魔力制御が乱れる。暴走するの嫌でしょ?」
「うっ……ま、また明日じゃ!」
ヒカリは笑ってうなずく。
「うん、また明日。次は幻影じゃなくて俺が相手してもいいしね」
「むむ、それはそれで怖いのじゃ……!」
夕日がふたりを包み、今日の鍛錬は静かに幕を閉じた。
――そして、次にアレンと再会するその日まで、フロストの成長は止まらない




