第78話 アレンの奮闘
アレンがクラリスの屋敷で生活を始めてから、一か月が経った。
彼はこれまで学ぶ機会がほとんどなかったため、知識も魔法もすべてゼロからのスタートだった。しかし、執事として、また一人の魔法使いとして相応しい存在になるために、アレンは日々努力を重ねていた。
午前中は執事教育の時間だった。
統括執事の指導のもと、礼儀作法やお茶の淹れ方、屋敷内での立ち居振る舞いなど、貴族に仕える者としての基礎を学ぶ。
「アレン、お茶の淹れ方がまだぎこちないですね。手首の使い方を意識してください」
「はい!」
何度も繰り返し練習しながら、少しずつコツを掴んでいくアレン。執事としての仕事も徐々にこなせるようになってきた。
午後はクラリスと共に学ぶ時間だった。
貴族の子息が学ぶ歴史や政治、経済の知識に加え、魔法の基礎も学んでいく。
特に魔法については、彼自身が氷属性を持っていると判明してから、より一層真剣に取り組むようになった。
ある日のこと、クラリスがアレンの様子を見ながら微笑んだ。
「アレンって、本当に優秀ね」
それを聞いて、氷の精霊が誇らしげに胸を張る。
「当たり前だ! 我と契約する者なのだからな!」
だが、クラリスには氷の精霊の姿も声も見えない。
アレンは、ただ謙虚に答えた。
「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことが多いです」
氷の精霊はそんなアレンの姿を見て満足げに頷いた。
一方、ヒカリとカインは少し離れた場所で彼を見守っていた。
「アレンは、本当に短期間で成長したね」
「このまま鍛えていけば、いずれ俺たちの予想を超えてくるかもな」
しかし、ヒカリとカインの姿はアレンには見えない。
それでも、彼らは確かにアレンの努力を認め、その成長を見守っていた。
この日は、アレンにとって初めての実践訓練の日だった。
クラリスの父である公爵の計らいで、専属騎士たちが模擬戦の相手を務めることになった。
「アレン、今日はお前の実力を試すいい機会だ」
護衛騎士の一人が、木剣を持ってアレンを見つめる。
「基礎の動きを見せてもらう」
「はい!」
アレンは木剣を構えた。
相手が軽く踏み込んでくる。
(動きが見える……!)
アレンは瞬時にそれを察知し、反射的に身を引いた。
「おっ?」
護衛騎士が驚いた顔をする。
「なるほど、動体視力は悪くないな」
クラリスも彼の動きに目を見張った。
「アレン、すごいわ……!」
しかし、それだけでは終わらない。
「次は攻めてこい」
アレンは頷き、木剣を握り直した。
「いきます!」
アレンは数回フェイントを入れつつ相手に斬りかかった。
「ほう、やるな」
護衛騎士が軽く身構える。
アレンは一気に踏み込み、木剣を振り下ろした。
しかし――
「甘い!」
護衛騎士の一撃がアレンの剣を弾き飛ばした。
「うっ……!」
アレンは後ろに倒れ込む。
「まだまだ未熟だな」
護衛騎士は木剣を肩に担ぎながら、にやりと笑った。
アレンは地面に手をつきながら、悔しそうに歯を食いしばった。
「アレン、大丈夫?」
クラリスが心配そうに駆け寄る。
アレンは苦笑しながら頷いた。
「ええ……でも、まだまだですね」
「お前は十分成長してるぞ。最初に動きを見切れたのは立派だ」
護衛騎士がアレンを助け起こしながら言う。
「剣技だけじゃなく、魔法との組み合わせも考えてみるといい」
「……はい!」
アレンの瞳には、強い決意が宿っていた。
氷の精霊も、満足そうにアレンの肩に手を置く。
「焦ることはない。我と契約するに相応しい力を身につけるのだ」
アレンはその言葉に頷いた。
(もっと強くならないと……!)
アレンは新たな決意を胸に、さらなる鍛錬を続けていくのだった。




