第7話 クラリス、精霊契約を学ぶ
お茶会から数日後。今日もクラリスは公爵令嬢としての勉学に励んでいた。
「クラリス様、本日は精霊学の授業がございます」
メイドがそう告げると、クラリスは少しだけ驚いた表情を見せた。
「精霊学……?」
「はい。公爵家のご令嬢として、精霊との関わり方を学んでいただく必要がございます」
(おお、ついにこの世界の精霊に関する授業か!)
俺はふわふわと宙を漂いながら、興味津々でクラリスの様子を見守ることにした。
***
クラリスは家庭教師に連れられ、屋敷内の書斎に向かった。そこには分厚い本が並べられており、年配の男性教師が静かに座っていた。
「クラリス様、ようこそ。今日から精霊契約について学んでいただきます」
「よろしくお願いいたします」
(クラリス、頑張れ!)
俺は小さく光を揺らしながら、応援の気持ちを送る。
「さて、クラリス様。まずは基本的なことからお話ししましょう。精霊とは、この世界に存在する神聖な存在であり、人間に加護を与えることができます」
「はい」
「精霊には属性があり、大きく分けて火、水、風、土、光、闇の六つの系統がございます。強力な貴族ほど、精霊と契約を結び、その力を借りることができるのです」
(ふむふむ、やっぱり精霊はこの世界で重要な存在なんだな)
「クラリス様は、すでに基礎魔法の素養をお持ちですので、精霊契約の理論についても学んでいただきます」
「……精霊契約とは、どのように行うのですか?」
「まず、精霊は普通の人間には見えません。ですが、魔力の強い者は稀に精霊の気配を感じ取ることができます。そして、精霊が契約を望めば、人間と結びつくのです」
(そうか……やっぱりクラリス以外には俺の姿は見えていないんだな)
俺はしみじみとした気持ちでクラリスのそばを漂う。
「契約の方法ですが、まずは精霊に呼びかけることから始まります。精霊は気まぐれな存在が多いため、契約を結びたいと願っても応じてくれるとは限りません。しかし、心を通わせれば、精霊は契約に応じることがあります」
「……心を通わせる?」
「はい。精霊は人間の心をよく理解します。強制的な契約はできません。ですが、互いに信頼関係を築くことで、精霊はその力を貸してくれるのです」
(なるほど……俺は特に契約とか考えてなかったけど、結果的にクラリスとはそういう関係になってるのかもしれないな)
「それでは、クラリス様。試しに精霊に呼びかけてみてください」
「えっ……?」
クラリスは一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて目を閉じた。
(おっ、なんかそれっぽいこと始まったぞ!)
俺は期待しながら見守る。
「……精霊よ、私に応えてください」
静寂が訪れる。
しかし、何も起こらない。
クラリスがうっすらと目を開けると、家庭教師は微笑んでいた。
「最初は難しいものです。しかし、精霊との契約は焦らずに行うことが大切なのです」
「……はい」
クラリスは少し落ち込んだように見えた。
(ちょっと待ってくれよ! 目の前に俺がいるのに!)
俺はクラリスの肩のそばで光を揺らした。
「……ヒカリ?」
クラリスがぽつりと俺の名前を呼ぶ。
「クラリス様?」
家庭教師が不思議そうに彼女を見つめた。
「あ、いえ……少し、光が綺麗だったので」
クラリスは誤魔化すように微笑んだ。
(そりゃそうなるよな……俺が見えるのはクラリスだけだもんな)
***
授業が終わり、クラリスは書斎を後にした。俺は彼女の肩のそばを漂いながら、そっと話しかける。
(クラリス、気にするなよ。お前にはもう俺がいるだろ?)
「……そうね」
クラリスは小さく微笑んだ。
「ヒカリは、私と契約してくれる?」
(えっ……?)
俺は一瞬驚いた。
(俺はもうクラリスのそばにいるし、契約とかしなくてもいいんじゃないか?)
「でも、私は……あなたと、もっと強く繋がりたいの」
(……!)
クラリスは真剣な表情だった。
「私に見える精霊は、ヒカリだけなの。だから……ヒカリと契約できたら、すごく嬉しい」
(クラリス……!)
俺は光を大きく瞬かせ、彼女の想いに応えるように漂った。
(俺も、お前のそばにいたいよ)
「ふふ……ありがとう、ヒカリ」
クラリスはそっと俺に微笑む。
ふとヒカリはあることに気づいた。
「何でクラリスと会話が成立しているんだろ??まっいっか」
――こうして、俺とクラリスの絆は、さらに深まるのだった。