第66話:カインのフラグ再び
クラリスたちは次の町へ向かっていた。村を経由し、情報を精査した上で比較的安全なルートを選んだはずだった。
しかし、カインが不敵に呟く。
「さて、腕が鳴る!」
その言葉に、ヒカリがすぐさま振り向き、鋭い視線を向ける。
「だからフラグ立てないでって!」
しかし、カインは悪びれるどころか、さらに魔力を高めながら笑う。
「フラグではなく、確定事項だ」
その瞬間だった。
前方の道に横倒しになった馬車があった。その周囲には20人ほどの盗賊らしき男たちが、護衛を取り囲んでいる。護衛は5人ほどいるが、圧倒的に不利な状況だった。
クラリスは即座に護衛の騎士たちに指示を出す。
「状況を確認して!」
騎士の一人が前方へ駆け寄り、確認すると報告した。
「クラリス様、前方の馬車は商人のもので、護衛たちが盗賊に襲われています!」
「見過ごすわけにはいかないわね……」
クラリスは迷わず決断した。
「救援に入るわ! みんな準備して!」
護衛騎士たちは剣を抜き、クラリスも魔力を高める。
ヒカリは呆れたようにカインを見る。
「ほら、やっぱりフラグだったじゃん……」
「違う、これは俺が引き寄せた運命だ」
ヒカリは突っ込んだ。
「もっと質悪いわ!」
カインは自信満々に笑い、炎の魔力を纏い始めた。
クラリスは馬車から降りると、すぐに詠唱を始めた。
「援護するわ! 焔の槍!」
1本の槍が盗賊たちの中央に飛び込み、爆発的な炎が弾ける。
「なんだ!? 魔法使いがいるのか!?」
「ちっ、援軍か!」
盗賊たちは動揺し始めた。
「よし、今のうちに!」
護衛たちも攻勢に転じる。
その隙に、カインが大きく腕を広げ、炎を操る。
「ならば俺も行くぞ! 焔の槍!」
クラリスと違い、カインは5本の焔の槍を生み出した。
「な、なんだ!? また槍が!」
「クソッ! どこから出てきた!?」
盗賊たちは目を見開き、驚愕する。
5本の槍が次々に盗賊たちへと向かい、爆発的な衝撃が走る。
「うわああああ!」
「ぎゃあああ!」
燃え盛る槍が次々に盗賊たちを襲い、彼らは地面に転がる。
「な、なんだ!? どこから魔法が……?」
「もうダメだ! 逃げるぞ!」
盗賊たちは次々に武器を捨て、慌てて逃げ出していった。
カインは満足そうに腕を組む。
「ははっ、やっぱり確定事項だったな!」
ヒカリは肩をすくめた。
「もう、ほんとに……」
クラリスは一息ついて、馬車の方へ向かう。
「馬車の中に誰かいるかしら?」
護衛騎士が馬車を調べると、中から30代半ばの男性が顔を出した。
「ご無事ですか?」
クラリスが尋ねると、男性はゆっくりと顔を上げ、安堵の表情を浮かべた。
「助けていただき、ありがとうございます……。私は商人のヴィクトールと申します」
「ヴィクトールさん、無事でよかったです」
クラリスは優しく微笑んだ。
ヴィクトールはクラリスたちをじっと見つめると、驚いたように口を開く。
「もしかして……あなたはクラリス様では?」
「ええ、そうですけど?」
ヴィクトールは深々と頭を下げた。
「まさか、このような場所でお会いできるとは……。実は私は公爵家のある町で、商売をしておりまして、何度かお見かけしたことがあるのです」
「そうだったのですね」
クラリスは驚いたが、彼の礼儀正しさに好感を持った。
「しかし、どうしてこんな場所に?」
クラリスの問いに、ヴィクトールは困ったように笑う。
「実は新しい交易ルートを開拓しようと思い、この道を選んだのですが……どうやら選択を誤ったようです」
「確かにこの道は比較的安全と言われていましたが、盗賊が出るとは……」
クラリスは考え込む。
「ですが、今回の件で道の安全性が低いと証明されましたね」
ヴィクトールは苦笑する。
「ええ、今後は別のルートを考えます。しかし、皆さんのおかげで命拾いしました。本当にありがとうございました」
彼は深々と頭を下げた。
クラリスは微笑みながら答える。
「いえ、困っている人を助けるのは当然のことです」
ヴィクトールは感謝の気持ちを込めて、クラリスたちに何かお礼をしたいと申し出たが、クラリスは首を振った。
「お気持ちだけで十分です」
しかし、ヴィクトールは譲らなかった。
「では、せめて次の町でお礼をさせてください。私がよく利用する宿がありますので、そちらで食事をご馳走させてください」
クラリスは少し考えた後、頷いた。
「わかりました。それでは次の町でお会いしましょう」
こうして、クラリスたちはヴィクトールと共に次の町へと向かうのだった。




