第60話 異様な光景
クラーケンとの戦いが終わり、船の上では興奮冷めやらぬ雰囲気が広がっていた。特にファナとラインは、クラリスの力に対して強い関心を抱いていた。
ファナは目を輝かせながらクラリスを見つめ、興奮気味に言った。
「クラリスって私より強いのね! それに、あの光の盾は何なの? どうやったの?」
クラリスは戸惑い、どう答えるべきか悩んでいた。
(本当のことを言うべきか、それとも誤魔化すべきか……)
しかし、その思考を察したかのように、ヒカリがクラリスの肩の上で小さく囁いた。
「ファナには誤魔化しは効かなそうだし、この後、ちゃんと話したほうがいいと思うよ」
クラリスは少し考えた後、ファナを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「ファナ様、今ここで全てを話すのは難しいけれど、後日改めてお話しします」
「本当? じゃあ、約束ね!」
ファナは期待に満ちた表情でクラリスの手を取り、強く握った。
周囲は興奮していた
船乗りたちやファナの護衛騎士たちは、さっきの戦いの余韻に浸りながら、クラリスの魔法の凄まじさについて語り合っていた。
「クラリス様の炎の槍、まるで太陽の光のようだった……!」
「あれほど巨大なクラーケンを相手にして、これほどの魔法を放つなんて……!」
「まさに英雄の再来だ!」
彼らが話しているのは、クラーケンに放たれた六本の焔の槍のことだった。だが、ここには一つの誤解があった。
実際には、クラリスが放ったのは一本だけであり、残りの五本はカインが発現させたものだった。しかし、カインの姿や魔法が見えるのは、基本的に火属性を持つ者だけ。つまり、カインの焔の槍もクラリスが放ったものだと認識されていたのだ。
「まるで女神のようなお方だ……」
「光の盾を張りながら、あれほどの炎魔法を操るとは……」
クラリスは周囲の賞賛に戸惑いながらも、黙って受け流していた。
(カインが放った魔法まで、私のものだと思われてる……これは、後で何か問題にならないといいけど……)
ヒカリもカインも、その様子を静かに見守っていた。
「クラリス、大人気だね」
「ふん、俺の魔法の威力がクラリスの手柄になっているのは気に食わんが……まあ、別にいいか」
カインは腕を組んで不満そうにしながらも、特に訂正するつもりはないようだった。
一方、ラインはカインを見つめながら、まだ納得できない様子だった。
「やはりおかしい……精霊のお前があんなに強い魔法を使えるなんて……」
カインはニヤリと笑って挑発するように答えた。
「お前には一生理解できないだろうな」
「……!」
ラインは悔しそうに拳を握りしめた。
船の上での静寂
戦いの後、海は静けさを取り戻し、船も穏やかに進んでいた。
クラリスはファナと共に甲板に出て、海を眺めていた。
「ねえ、クラリス」
ファナが突然、真剣な顔で話しかけてきた。
「あなた、本当は何者なの?」
クラリスは少しだけ微笑みながら答えた。
「それも、後で話しますね」
ファナはクラリスをじっと見つめた後、笑顔になった。
「わかった! でも、約束だからね!」
二人の間には、静かだけれど確かな絆が生まれ始めていた。
一方、ヒカリとカインは少し離れた場所でクラリスを見守っていた。
「クラリス、本当に変わったな」
「ふん、まあな」
「でも、カインも変わったと思うよ」
「……そうか?」
「うん。前よりもクラリスのことをよく考えてる気がする」
カインは何も言わず、少しだけ空を見上げた。
クラリスたちの未来が、少しずつ変わり始めていることを感じながら――。




