第6話 クラリスとお茶会
今日はクラリスが主催するお茶会の日だ。
屋敷の広大な庭園に設けられた白いテーブルには、華やかなティーセットと色とりどりの茶菓子が並んでいる。可愛らしいケーキや、花の形をしたクッキーが美しく配置され、見ているだけで優雅な気持ちになる。
(すげぇ……貴族のお茶会って、本当にこんな感じなんだな)
俺はふわふわと宙を漂いながら、テーブルの上を見渡す。
今日はクラリスの友人たち――同じ貴族の令嬢たちが何人か招待されているらしい。
「ヒカリ、今日は私のお茶会に付き合ってくれる?」
クラリスが小さく微笑みながら俺に話しかける。
(もちろんだ! 俺の推しの晴れ舞台、全力で見守るぞ!)
俺は光をキラキラと瞬かせ、クラリスに同意を示した。
「ふふ、ありがとう。ヒカリがいてくれると、少し安心できるわ」
(何があっても俺がそばにいるぞ!)
そんなやり取りをしていると、やがてクラリスの友人たちが次々と到着した。
「クラリス様、ご招待ありがとうございます」
「今日のお茶会、とても楽しみにしていましたわ」
華やかなドレスを身に纏った少女たちが、優雅に挨拶を交わす。クラリスも落ち着いた態度で応じ、席へと案内する。
(さすがクラリス、貴族令嬢としての完璧な振る舞いだ……!)
俺は感動しながら彼女の姿を見つめる。
***
お茶会が始まり、メイドたちが紅茶を注ぎ始めた。
白い磁器のティーカップから、ふわりと香るアールグレイの香りが広がる。
「まあ、とてもいい香りですわ」
「クラリス様の屋敷の紅茶は、いつも素晴らしいですね」
令嬢たちが楽しそうに話している。クラリスも落ち着いた表情で微笑みながら、紅茶を口に運ぶ。
「今日は特別に、海外から取り寄せた茶葉を使っているの。気に入っていただけたなら嬉しいわ」
「さすがクラリス様ですわ!」
(おお、推しが褒められている! 俺も誇らしいぞ!)
俺は嬉しくなって、思わずクラリスの周りを飛び回る。
「ふふ、ヒカリも嬉しいの?」
クラリスが小さく笑いながら俺を見る。
「クラリス様?」
突然、他の令嬢が不思議そうにクラリスを見つめた。
「……あ、ええ。ちょっと光がきれいだなと思って」
クラリスは少し慌てたように誤魔化す。
(そうだ、俺はクラリス以外には見えないんだった……!)
俺はクラリスのすぐそばに留まり、目立たないように漂うことにした。
***
お茶会は順調に進み、話題は最近の舞踏会や流行のドレスの話へと移っていった。
しかし、その中で一人の少女がクラリスに向かって意地悪そうに微笑む。
「そういえば、クラリス様の婚約者の話はどうなりましたの?」
その言葉に、クラリスの表情がわずかに曇るのを俺は見逃さなかった。
「婚約のことは……まだ正式に決まっていませんわ」
「でも、クラリス様ほどの方なら、すぐに素敵な婚約者が見つかるはずですわよね?」
「ええ、そう願っています」
クラリスは微笑みながら答えるが、その手は少しだけティーカップを強く握っていた。
(くそっ、こういう話題はクラリスにとってあまり嬉しくないんだろうな……)
俺は少しでも彼女の気持ちを和らげようと、そっと光を揺らす。
「ヒカリ?」
クラリスが小さく俺を見上げる。その表情が少しだけ和らいだ気がした。
(大丈夫だ、クラリス。お前は一人じゃないぞ)
***
その後、お茶会は滞りなく終了した。令嬢たちは満足した様子で帰っていく。
「今日は楽しかったですわ、クラリス様」
「またお茶会に招待してくださいませ」
クラリスは優雅に微笑みながら、彼女たちを見送る。
客人たちが去った後、クラリスはふっと小さく息をついた。
「……やっぱり、お茶会は疲れるわね」
(お疲れ様、クラリス)
俺はそっと彼女の肩のそばを漂いながら、光を揺らして癒しの力を送る。
「ありがとう、ヒカリ。あなたがいてくれると、少しだけ気持ちが軽くなるわ」
(それなら、これからもずっとそばにいるぞ!)
俺は光を強く瞬かせ、クラリスの頬に少しでも温もりを届けるようにした。
今日もまた、推しの努力を見守ることができた。
彼女の未来が少しでも良い方向へ進むように、俺はこれからもクラリスのそばにいようと改めて誓うのだった。