第55話 隣の国の王女
クラリスたちが視察をしていると、町の広場に人だかりができているのが見えた。
「あら、あそこ人がいっぱい集まっているけど何かしら?」
クラリスが町長に尋ねると、町長は視線を向けた後、小さくため息をついた。
「またですか……」
「また?」
クラリスが聞き返すと、町長は眉間にしわを寄せながら答えた。
「あの人だかりの中心に子供が見えると思いますが」
クラリスは人々の隙間から視線を送り、確かに小柄な少女がいることを確認した。
「ええ、確かにいますね。でも、あんなに小さい子供が何か?」
町長は苦笑しながら頷いた。
「あの方は時々、何の前触れもなく船に乗り込んで、こちらに来るのです」
「え?あんなに小さい子供がですか?」
クラリスは驚きの声を上げた。
「はい……年はクラリス様と同じくらいかと思いますが」
「どちらの方なんですか?」
町長は少し緊張した面持ちで答えた。
「隣国の第4王女、ファナ様です」
クラリスは驚いた表情を見せる。
「王女様!?」
人々の中心にいる少女――ファナは、町の人々と気さくに話していた。
その姿には気品があり、ただの貴族の娘とは思えない雰囲気をまとっている。
「え?、王女が勝手にこんなところまで来れるの……」
クラリスがつぶやくと、ヒカリが興味津々に人だかりを見つめた。
「ねえクラリス、ちょっと近くまで行ってみようよ」
「……そうね、せっかくだし話してみましょうか」
クラリスがファナに近づくと、ファナはすぐに彼女に気づき、興味深そうに目を輝かせた。
「あら? あなたは?」
クラリスは礼儀正しく一礼した。
「はじめまして、私はクラリス・フォン・ルクレールです。貴国の王女様とお聞きしましたが、前触れも無くこちらへ来られて問題はないのですか?」
ファナはクスクスと笑いながら答えた。
「問題? あるかもしれないけど、私はこの町が好きなの。それに、王族だからって閉じ込められているのはつまらないでしょ?」
クラリスは少し驚いた。
「……それは、まあ……」
「あなたはこの町に視察で来たの?」
「ええ、今は各地を回っている最中です」
ファナは興味津々といった様子でクラリスを見つめる。
「ふーん、あなたも貴族なんでしょ? でも、なんだか普通の貴族とは違う感じがする」
クラリスは少し驚いた。
「違う感じ?」
「ええ、あなたは"ただのお嬢様"って感じじゃないのよね」
クラリスはファナの観察力の鋭さに驚きつつも、微笑んだ。
(この子、ただの王女じゃないわね……)
すると、ヒカリがクラリスの肩で呟いた。
「クラリス、この子すごいね。俺たちの気配、少し感じてるんじゃない?」
クラリスは驚いて小さくうなずいた。
「そうね……」
ヒカリとカインの姿も声も、クラリス以外の人間には見えず聞こえないはずだ。
しかし、ファナはなぜか何かを察しているような目をしていた。
「クラリス、気をつけろよ」
カインが静かに警告を送る。
ファナはニコッと笑いながら、クラリスの目をじっと覗き込む。
「あなた、変わってるわね。でも、なんだか面白い」
「面白い……?」
クラリスが聞き返した瞬間、ファナの護衛の騎士が進み出た。
「ファナ様、そろそろお戻りいただかないと……」
ファナは少しつまらなそうに頬を膨らませた。
「もうそんな時間? 仕方ないわね」
彼女はクラリスに向き直り、微笑んだ。
「クラリス、またどこかで会いましょう?」
クラリスは少し驚きながらも、微笑み返した。
「ええ、機会があれば」
ファナは満足そうに頷くと、騎士たちに付き添われながらその場を後にした。
彼女の背中を見送りながら、クラリスは小さく呟いた。
「……不思議な子だったわね」
ヒカリも腕を組みながら考え込む。
「うん……なんだか、今後また関わることになりそうな予感がする」
カインは静かに言った。
「いずれ、敵になるか味方になるか……慎重に見極める必要があるな」
クラリスは静かに海を見つめた。
(ファナ……あなたは一体、何者なの?)
こうして、隣国の王女との出会いは、クラリスたちに新たな波乱を予感させるものとなった。




