第54話 クラリスの変化
ヒカリはクラリスの行動を見ながら、ふと考えていた。
(今のクラリスって、ゲームのクラリスとは全然違うな……。)
ゲームのクラリスは、どちらかといえば高慢で、貴族らしい威厳と気品を持つ少女だった。
しかし、目の前にいるクラリスは庶民にも優しく、積極的に手を差し伸べるようになっている。
ヒカリがぼんやりとそんなことを考えていると、隣でカインが興味深そうに問いかけた。
「そんなに違うのか?」
ヒカリは少し考えてから答えた。
「ぜんぜん違うよ。ゲームのクラリスはこんな風に庶民と関わることもなかったし、むしろ"貴族としての誇り"を前面に出していたんだ。」
カインは腕を組みながらうなずいた。
「ふむ……確かに今のクラリスは貴族らしさはあるが、それ以上に周囲を気にかける優しさを持っているな。」
ヒカリはクラリスの姿を見つめながら呟いた。
「たぶん、俺が一緒にいるせいかもしれないな……。」
カインはヒカリをじっと見つめる。
「どういう意味だ?」
ヒカリは少し困ったような表情をしながら言った。
「ゲームのシナリオだと、俺はクラリスのそばにいない。だからクラリスは一人で"貴族としての理想"を追い求めるしかなかった。でも、俺がいることで、クラリスはもっと自由に、自分の意思で行動できるようになったんじゃないかな。」
カインはしばらく考えてから頷いた。
「なるほどな。確かにそれはあるかもしれん。」
「だがクラリスにとっては良いことだろ」
「そだな!」ヒカリは笑顔で頷いた。
その時、クラリスが二人の方へ歩いてきた。
「二人とも、何の話をしているの?」
クラリスが首を傾げると、ヒカリは慌てて笑顔を作った。
「いや、クラリスがどれだけ成長したかって話だよ!」
クラリスは少し驚いた表情を見せた後、少し照れたように微笑んだ。
「成長、ね……。私はただ、やるべきことをやっているだけよ。」
ヒカリはその言葉を聞いて、改めて思った。
(本当に、変わったな……。)
ゲームのクラリスは"貴族としての誇り"を持ちながらも、その誇りに縛られていた。
でも、今のクラリスは"誇り"を持ちつつも、自分の信じる道を歩んでいる。
それは、ヒカリにとっても嬉しい変化だった。
その後、クラリスたちは視察を続けるため、市場を後にして次の目的地へ向かった。
町の大通りを歩きながら、クラリスはふと足を止めた。
「どうしたの?」
ヒカリが不思議そうに聞くと、クラリスは前を見つめながら呟いた。
「なんだか、少し懐かしい感じがするの。」
「懐かしい?」
「ええ……私、小さい頃に海を見たことがあったのかもしれないわ。でも、それがいつのことなのか、思い出せなくて……。」
クラリスは静かに海を見つめていた。
ヒカリはそんなクラリスの横顔を見ながら思った。
(もしかして、ゲームとは違う記憶を取り戻している……?)
ゲームのクラリスには"幼い頃の記憶"に関する描写はほとんどなかった。
でも、今のクラリスは確かに"何か"を思い出しかけている。
カインもそんなクラリスの様子をじっと見ていた。
「記憶にないものを思い出そうとするのは難しい。だが、無理に考えすぎるな。」
クラリスは少し驚いたようにカインを見つめた。
「カイン……。」
カインは静かに頷いた。
「お前は今のお前を大切にすればいい。それが、どんな過去であろうとな。」
クラリスはその言葉を噛み締めるように、小さく微笑んだ。
「……ありがとう。」
ヒカリも微笑んだ。
「そうだよ、クラリス!過去がどうであれ、今のクラリスは俺たちと一緒にいるんだからさ!」
クラリスは静かに頷いた。
「ええ、そうね。」
こうして、クラリスの心の中に芽生えた"変化"は、確実に彼女を新しい未来へと導いていた。




